Detective Conan


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先日の怪盗1412号、通称怪盗キッドの犯行後から、少し怪盗キッドについて調べてみた。
20年以上前のパリに最初に現れてから主に宝石を狙い、世界12カ国にその手を伸ばし犯行を重ねている犯罪者。
盗まれたものは183点、被害総額のべ392億1400万円以上とのこと。


「あれ?七海ちゃん、どうしたのこんなところで真剣な顔して」
「美和姉ちゃん!…この間の怪盗1412号の事件から彼について調べてみようかと思って」
「1412号?…あぁ、キッドのことね!そう言えば二課がまた派手にやられたみたいって白鳥くんが言ってたわね」
「派手にやられた、って言うか、ね」
「うん?」


私が保管庫でキッド関連の資料を読んでいると、美和姉ちゃんも何やら資料を抱えて保管庫にやってきた。
その美和姉ちゃんに言われた言葉で先日の出来事を思い出し、苦笑いが出た。


「私の指導係である鈴村さんに変装してたんだ…。私、疑いもしなかったから、すっかり騙されて翌日中森警部からこってり絞られるは聴取されるはで、」
「ははっ!キッドの変装はなかなか見破れないからねぇ。高木くんも変装されたことあったなぁ、そういえば!」


そう言いながら天井を見上げた美和姉ちゃんは、その時のことでも思い出しているんだろう。
…美和姉ちゃんは「公私混同はしない!」と言う心情の元、警視庁内、と言うか職務中は決して渉さんのことをいつものように「渉」とは呼ばない。
渉さんもまた職務中は「佐藤さん」や「佐藤刑事」と呼んでいた。


「それで?」
「うん?」
「過去の事件を見て何かわかった?」
「何か、というか、」
「うん?」


美和姉ちゃんの言葉にもう1度手元の資料に目を落とした。


「…怪盗1412号は愉快犯だと言うことを確信した、かな?」
「愉快犯?」
「うん。…それにたぶん、今の怪盗1412号は恐らく2代目、かな、と…」


私の言葉に、美和姉ちゃんは身を乗り出すように前に出て、私の手元にあった資料を覗き込んだ。


「どうしてそう思うの?」
「…世間に姿を現した当初こそ様々なものを盗んでいたようだけど…、姿を消す前と後で一貫して変わらないものがある」
「それは?」
「こぶし大ほどの、世間一般では『ビッグジュエル』と呼ばれているものを好んで盗むこと」
「そうね、キッドと言えばビッグジュエルを連想するわ」


私の言葉に美和姉ちゃんは大きく頷いた。


「…ただ姿を消す前と後で決定的に違うこと。それは盗んだものを正統な持ち主に返していること」


それを見遣りながら先を続けた。


「そういえばキッドは盗んだものを数日後に送り返してくるって言ってたわね」
「何故送り返すのか?1412号にとって必要のないものだから。では何故盗んだのか?それは何かの目的があったと思われる」
「目的って?」
「それはわからないけど…少なくとも1412号は明確な目的を持ち盗みを働いていた」


どんな理由があるにせよ、人の物を盗むだなんて許されるものではない。
でも私の推測の域を超えないとしても、怪盗キッドの原動力とも言えであろう「目的」は、少し気になった。


「ただ…」
「うん?」


そこで1つ、咳払いをして続けた。


「姿を消す前の1412号は盗んだらそのままだったのに対し、再び姿を現した1412号の盗品の返却と言う行為はそれまでの犯行履歴を振り返っても同一人物の仕業とは考えにくい」
「だから2代目?」


美和姉ちゃんは軽く片手をあげて聞いてきた。


「…それだけじゃなく、目撃者の証言から得られている推定年齢からも、怪盗1412号は代変わりをしている可能性がとても高い」
「へー?じゃあ愉快犯て言うのは?」
「…復活後の怪盗1412号は何かの目的があり犯行を重ねていた可能性がある。だけど…、」


そこまで言って今度は机の上に広げていた資料に目を落とした。


「ある時を境に、それまでとは違いビッグジュエルではなく犯行対象を再び様々なものに広げている」
「それは何故?」
「…彼が犯行を重ねる目的が無くなったかもしれない…。では何故まだ犯行を重ねるのか?それは一般常識では測れない、犯行時のスリルや高揚感を求めているのではないかという可能性が出てくる」
「…」
「現怪盗1412号は若くて20代、歳を取ってるとしても30代の男性で彼自身の犯行はその復活後からであり、現在は明確な目的のない愉快犯ではないかと『仮説』を立てることが出来、現行その仮説を覆すだけの資料は警視庁には保管されていない」


でもこの仮説が正しいとするなら、初代キッドはどこにいるのか…。
そして初代と二代目の関係性は何なのか…。
未知なことが多すぎて、この仮説を肯定するだけの資料もないのが現状。
それを美和姉ちゃんに伝えようとした瞬間、


「素晴らしい!」


そこにいたはずの「美和姉ちゃん」が、聞きなれない男の声で喋り出した。


「先日見そびれた、警視庁捜査一課佐藤美和子巡査長の血縁者で東都大主席卒業、近年の警視庁の人間の中でも将来の幹部候補No.1と噂される捜査二課佐藤七海巡査の腕前を見に来ましたが思った以上の収穫ですね!」


そう言った美和姉ちゃんの姿はもうそこにはなく…、


「怪盗、キッド…」


私の目の前には白昼堂々と、白き罪人…怪盗キッドが立っていた。


「あぁ、やっと名前を呼んでいただけた」
「え?」
「私は『1412号』と呼ばれるよりも『キッド』と呼ばれる方が好きなので」


ありがとうレディ、そう言って軽くシルクハットを持ち上げたキッドに、一瞬呆気に取られた。


「…ここは警視庁の保管庫。何しに来たの怪盗1412号!」


冷静さを掻いた私に対して、この時点で勝負がついていたのだと思う。


「ですからあなたに会いに来たのですが」
「なんのためにっ!?」
「なんの?…先日は慌しく出来なかったので、改めてご挨拶を、と思いまして」


恭しく胸に手を当てお辞儀する怪盗1412号は、さらに私に火に油を注いだと思った。


「そんな悠長なこと、言ってられないわよっ!?」
「あぁ、あなたの経歴で言いそびれたことがありましたね」
「…」
「高校在学中、空手の都大会で3連覇されたんですっけ?」
「はぁぁぁ…!」


彼の声と重なるかのように、気合いを入れそのまま彼目掛けて空手の技をかけ始めた。


「おっと!あなたとは真っ向から勝負しても勝ち目がありませんので、今日のところは失礼しますよ」
「させないわよっ!!」
「それでは、麗しき現代の巴御前殿。またいつか、月下の淡い光の中で」
「…っ!?煙幕!?待ちなさいっ!!キッド!!」


煙幕の中なんとか保管庫の外に出るものの、辺りにそんな人影は全く見えなかった。


「…キ、キッドよーっ!!!!」


私のこの叫び声で、警視庁内においてのキッド捜索が始まった。
でも…。


「痕跡がない?」


目の前で対峙したはずの怪盗1412号は、全くの痕跡を残さず警視庁内から出て行ったようだった。


「庁内の監視カメラを調べたところ、確かに捜査1課佐藤美和子巡査長が移動したには早すぎる速度でカメラに映ってはいましたが、その瞬間だけです」
「おい、どういうことだ?」
「…つまり、キッドは佐藤美和子巡査長の前に誰かに変装し警視庁内に潜入、佐藤巡査長の姿になった後、二課の佐藤巡査の前に姿を現し再び別の誰かに変装し警視庁を後にした可能性が高いです」
「どこのどいつに変装したんだっ!!?」
「そこまでは…」
「それを調べるのがお前らの仕事だろうがっ!!!!」


痕跡をほぼ残さず去って行った怪盗1412号を暴けない部下に中森警部が檄を飛ばした。


「おい、佐藤!」
「はい」
「キッドは何しにやってきた!?」


そして私に向き直り、そう問うた。


「佐藤美和子巡査長の従姉妹の私に会いに来たと言ってましたが…」
「なにー!?なんでお前に!?」
「…わかりません」
「わからないじゃないだろ、わからないじゃっ!!お前今日は帰れると思うなよ!?庁内で接触しておきながらのこのこ逃げられやがって、始末書だっ!!おい、他の監視カメラの、」
「…困った奴に目をつけられたね」
「え?」


私を指差し始末書を言い放った中森警部の背中を見ながら鈴村さんが言ってきた。


「怪盗キッドは確かに紳士的で女性には優しい」
「はい」
「…でもわざわざ警視庁まで来るような、しかもその場で自分から正体バラすような危ないことする奴じゃないよ。めんどくさくなりそうなことはしない。それが長年キッドを追って来た僕の印象」
「…」
「もしかしたら佐藤さん、キッドに一目惚れでもされたのかもね?」
「おい、鈴村っ!!」
「はい!今行きます!ほら、佐藤さんも、」
「あ、はい」


この日、就業時間をとっくに過ぎているにも関わらず怪盗1412号警視庁潜入の後始末をしていた。
その後始末をしながらも…、この時の鈴村さんの言葉が、ずっと頭に残っていた。



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