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「昔は普通だと思ってたんだけどなー」
私が考え込んでいたら快斗さんは先ほどとは違う、昔語りをし始めた。
「先生に出された計算問題もみんながマラソンしながら答えられると思ってたし、教科書なんて1回目通せば全部暗記出来るから捨てていいものだと思ってた」
「普通無理ですよね?」
「みたいだよね。俺それに気づいたの中学か高校生くらいの時な」
快斗さんの発言に驚きすぎて私も立ち上がってしまい、2人並んで立っている状況になった。
どうせならこのまま景色いいとこまで行こうぜ、と言う快斗さんに促され、話を続けたまま歩くことにした。
「青子とか、あ、中森警部の娘ね。ソイツや同級生と話してても、おもしれーんだけど、漠然とだけどなんか違和感あってさ。青子にはよく『快斗の言ってることわかんないよ』って言わてたんだけど」
この先に視界が広がるとこあるから、と快斗さんは少し先を歩きながら話しを続けた。
「それが高校くらいからはっきりとコイツら俺とちょっと違うって思うようになってさ」
違ったのは俺の方だったんだけどね、と言う。
「それでも周りに合わせて一緒に笑ってたら、実際おもしれーって思った時もあるし。いわゆる『普通の高校生』って奴を謳歌してたんだけど。…いや、その時からもう仕事してたから普通ではなかったか」
あははーと快斗さんは頭を掻いて笑った。
…快斗さんはよく笑う。
でもそれはもしかしたら、その時の影響なのかもしれないと思った。
「そんな時出逢っちまったんだよな、俺と似たような奴に」
「工藤新一さんですか?」
「さすが!七海ちゃんは話が早いね!アイツと関わるようになったらさー、なんか目見たらわかるようになってきたんだよ。俺と似たような奴のこと」
少し息が上がり始めた快斗さんは、それでも話しを続けてくれた。
「その目をしてない奴はだいたい俺と合わない。…いや違うな。合わないんじゃなくて、俺が合わせる必要がある奴ら、が正しい言い方か」
コミュ力あるからね俺、と、快斗さんは言う。
…つまりそれは、快斗さんにとって知能が低いと分別された人たちということだ。
「そうやって人を見て生きてきたわけ!実際これからもそうやって生きていくだろうと思ってるしな。そんな時にさー、見た目好みで、こっち側の目をしてる子だったら惚れちゃうでしょ?」
わかる?とでも言うように、一旦足を止め私を見てきた。
「私は特にIQ高くないですよ」
「いやだからIQだけの問題じゃないよね」
快斗さんの言わんとすることはわかる。
でもあえてはぐらかすように答え、先に進むように指をさし促した。
「で、2回目に会った時、じっくり話してみたら、たった1回現場で遭遇しただけなのにおもしれーくらいに俺のこと言い当ててくれたじゃん?」
「あれは過去の犯罪資料からの推測で、」
「でも当たってた」
そりゃ夢中になるでしょ、と、快斗さんは声を出して笑った。
「ぶっちゃけ組織が潰れた後で、すぐにキッドであることをやめても良かったんだよ。親父もお袋も別の形で恩返しするから気にする必要ねぇとも言ってたしな。…ほら!着いたぜ」
快斗さんが連れてきた場所は木々が途絶え、きっと春には緑豊かな草原が広がるであろうところ。
「俺、七海ちゃんと話した時、マジで嬉しかったんだぜ?今日までキッドやってたのはこのためだ、って思った」
吹き抜ける秋風が、冬の訪れを教えてくれるような、そんな場所だった。
「俺はこの子に出逢うべくして出逢った。これはもう運命で、そのために今まで怪盗キッドを続けてきたんだ、ってさ」
ここはきっと、夜になったら満天の星が見える場所なんだろう。
「だからその運命が俺を捕まえるって言うなら、俺は捕まるよ」
どうする?とでも言うかのように、快斗さんはもう1度、大きく手を広げた。
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bkm