■37
「とりあえず、ここで出来ることは全て終わったわよ」
玄関前の階段に座り込み話していた私たちのところに宮野さんがやってきた。
「おー、サンキューな宮野」
「サンキューな、じゃないわよ!コキ使いすぎでしょ!?今度のボーナス上げないなら辞めるわよ!?」
「わーってるよ、悪かった、って!」
ハハッと笑う工藤さんに、宮野さんは私からも見て取れるほどイラついた顔を隠そうともしなかった。
「あのままテーブルの上に寝かせてるから、寝室に運んでやって」
「え?俺が?」
「それくらい働きなさいよっ!」
「冗談だって…」
怒んなよ、と言いながら工藤さんは立ち上がり家の中に入っていった。
「仲良いんですね」
工藤さんがいなくなり、ため息を吐いていた宮野さんに向かって声をかけた。
「仲が良いんじゃなく、良い様に利用されてるだけよ」
ハッ!と鼻で笑う宮野さんの姿を見ても、やっぱり仲が良いんだと思った。
「ところであなた、私の思い違いじゃなければ警視庁の人間じゃなかったかしら?」
「あぁ、はい、そうです。捜査二課の佐藤七海です」
「…宮野志保よ。工藤探偵事務所で探偵助手をしてるわ」
「助手、というか」
「え?」
「相棒だと以前工藤さんから聞きました」
私の言葉に宮野さんは盛大にため息を吐いた。
「その言葉、かなり都合の良い言葉だからあなたも気をつけなさいよ」
ヤレヤレと言いながら、宮野さんは先ほどまで工藤さんが座っていたところに座った。
「あなた、今回のことで立派な共犯者ね」
頬づえをついて宮野さんはニヤリと笑う。
…毛利蘭といい、宮野さんといい、工藤さんの周りの女性は見た目が良い気がする。
それもかなり。
あの人まさか側に置く人間を顔で選んでるのか?
「それでどうするの?このまま黙って警視庁の人間に戻るわけ?」
「…彼次第、ってところですかね」
「その彼、当分目が覚めないと思うわよ」
「なら当分、黙ったままです」
なるほど?と宮野さんは言った。
「1つ、聞いていいですか?」
「何かしら?」
「宮野さんもキッドと繋がりがあるんですか?」
私の言葉に、宮野さんの瞳が一瞬鋭くなった気がした。
「…かなり前にだけど、彼に命を助けられたことがあるわ」
目を伏せそう言う宮野さんの顔は、月明かりに照らされていた。
「随分いろんなところで人助けしてる怪盗なんですね」
「あら?あなた知らなかったの?案外ハートフルなのよ、彼」
フフッと宮野さんは笑う。
「警視庁に入庁してからの現場で出会ったので、まだ1年も経ってないんです」
「なら素の彼とは?」
「それも入庁後ですね」
「…の、わりにご執心のようだったけど?」
えっ、と声にならない声で宮野さんの顔を見ると
「彼が意識を完全に失う前に言った言葉」
「はい」
「『最後のデートがひまわり畑なら上出来じゃね?』だったわ」
可笑しそうに笑いながら教えてくれた。
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bkm