Detective Conan


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catch me if you can


17


「どーだった?俺の魔法」


2杯目のグラスを傾けながら快斗さんが尋ねてきた。
…チケットを貰ってから快斗さんについて、少し調べてみた。
快斗さんは世界的マジシャン黒羽盗一の息子で、現在世界が注目する若手マジシャンの1人。
マジック界のサラブレッド。
ついた異名はー


「黒衣の魔法使いの名前通り、素晴らしかったです」


彼はマジックの時に好んで黒い服を着用する。
そして現代技術をフル活用して彼が生み出した奇抜なマジックは現代に蘇った魔法のようだと評され、いつからかそう呼ばれるようになったそうだ。


「ふはっ!七海ちゃんもその通り名知ってたんだ!」


誰がつけたんだろーねー、なんて茶化すように快斗さんは言う。
でも…。


「本当に、」
「うん?」
「…マジックとわかっていても、まるで魔法を見ているようでした」


私が日頃こういう物に興味を示さなかったのは、どうしてもそのカラクリを考えてしまうから。
そこはこうやったんだろう、こっちはこうしたんだろう、そう予測が立てられると自分の中でシラけてしまって見たいと言う気持ちが沸かなかった。
だけど快斗さんのマジックは、ある程度しかわからないものばかりだった。
…いや、もしかしたらその「ある程度」すらわかっていないのかもしれない。


「それひょっとして、」


グラスを両手で握りながらそんな事を考えていた私に、快斗さんは聞いてきた。


「七海ちゃんは、俺の解けない魔法にかかってくれたってこと?」


ステージ上ではもちろん、今日ここで会ってから快斗さんはずっと笑っていた。
でもこの言葉を口にする時、ひどく真剣な表情に変わっていた。


「解けない魔法ってなんですか?」
「あ、それ聞いちゃう?」


快斗さんの言葉に率直に疑問をぶつけてみると、いたずらっ子のように、


「俺に夢中になってくれる魔法」


ニヤリと笑いながらそう言った。


「それ、誰にでも言ってるんですか?」
「まさか!そんなわけねぇだろ」


私の言葉に即答で返してくる快斗さん。
…だけど実際のところどうだかわかったものじゃない。
恋愛偏差値がさほど高くない私でもそこはわかる。
快斗さんのように女性ウケの良い仕事をしている人が、「私にだけ特別に」こんなこと言ってくるわけがない。


「そんなことばっかり言ってると、肝心な時に信じてもらえませんよ」
「いーよ、別に」
「え?」
「俺にとっては今が肝心で、今七海ちゃんに信じてもらえないなら後はどうでもいいし」


お手上げ、とでも言うように軽く手をあげる快斗さん。


「…想像以上にグイグイ来ますね」
「七海ちゃんは想像通りガード固いね」


けどそこも良いよね、と快斗さんは笑った。
本当に良く笑う人だ。


「何がそんなに楽しいんですか?」
「え?」
「ずっと笑ってるから」


それはまるで、笑顔と言う名のポーカーフェイスを見せられているような気すらするほどだ。


「私といて楽しいですか?」
「え、すっごい楽しいけど?」
「え?」


思わず呟いた言葉に快斗さんは全肯定で勢いよく頷きながら答えてくれた。


「俺が七海ちゃんに会うのは確かに2回目だし、まだお互い知らねぇことばっかりでこんなん言っても信じてもらえないかもしれないけど、」


そこまで言うと快斗さんはグラスに触れていた私の右手を上から包み込むように触ってきた。


「俺、本当に本気だから」


真っ直ぐと見てくる快斗さんに思わず開いた口が塞がらないという、物凄くマヌケな顔をしてしまった。


「まぁさー、世間の目から絶世の美女か?と聞かれたら違うかもしれねぇけど、俺の目からは七海ちゃんは世界一の美女に見えてるし」
「……」
「確かにな?七海ちゃんよりも愛想が良くておもしろい子はいっぱいいると思うよ?でもなんて言うの?クールビューティー?知性とか教養とか。そういうの滲み出てるっていうかさ。そういうところも全部ひっくるめて世界一の美女だと思ってるし」
「………」
「でもまー本当のところは、」


快斗さんの言葉に呆気に取られていると、快斗さんは私から手を離し口の前で軽く握り拳を作った。
そしてわざとらしく1つ咳払いをすると、


「単純に顔がどストライク」


今日1番の真剣な顔で私を見つめてきた。


「…顔が、」
「どストライク」


私がやっと口にした言葉を引き継いで、大きく頷きながら快斗さんは言った。


「そうなったら後はもう、お近づきになるしかねぇじゃん?とりあえず青子にポロッと言ってみてあわよくばおじさんから七海ちゃんに伝わらねぇかなーとか?この間やっぱりチケットじゃなくて番号交換しとけば良かったとか?いろいろ考えちゃったんだけど、」


快斗さんがポロポロと種明かしをしていると、


「ふっ、」
「え?」
「あはは!」


自然と笑いが込み上げてきた。


「私今まで生きてきた中で顔がどストライクなんて本人に言う人間初めて見ましたよ!」
「…」
「どうやって帰ろうかって考え初めるところだったのに、帰るに帰れなくなるじゃないですか!」


私の言葉に、


「なぁ」
「はい?」
「もう1軒行く?」
「なんでですか!ここで解散しますよ!」


すっかりステージにいたマジシャンの姿はなくなり、マジシャンと観客という私たちを隔てていた距離がなくなった気がした。
それは私のステージに彼が下りてきたと思ったけど、本当はこの時すでに彼のステージに一緒に立たされたのかもしれない。



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bkm

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