Detective Conan


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catch me if you can


15


「今日も凄かったねー!」
「私が黒薔薇に選ばれたかった!」


マジックショーも終わり、観客が帰路に着き始める頃、私は未だ席から立てずにいた。
カサリと音を立て手元の紙を見下ろした。


BAR 59min 2200


青薔薇を受け取った時、薔薇の花びらに挟まっていた小さな紙切れにはそう書かれていた。
…快斗さんは、意図的に私の薔薇だけ黒く変えた。
それは多分、この紙を渡すために。
そう思うのは、傲慢なのかもしれない。
だけど、1度そう思ってしまったら、もうそうとしか考えられなかった。


「あ!黒薔薇のお姉さん!」


ようやく座席から立ち上がった私に後ろから声をかけてきた人がいた。
振り返ると、恐らく黄色い薔薇を希望した女の子とその母親らしき人がいた。


「お姉さんの薔薇、すごく綺麗な青色だね!」


にこにこと笑いながら言う女の子に、


「ほしい?」


自然とそう口にしていた。
女の子は一瞬目を大きく下後で、


「ううん!それはお姉さんの薔薇だよ。快斗くんがお姉さんの夢が叶うように、ってくれたんだからお姉さんが持ってなきゃだよ!」


そう言ってきた。
…なるほど、快斗さんは子供の心も掴んでいるのか。
そんなこと思いながらも、そうだね大事にするね、なんて返事をしていた。


「いらっしゃいませ」


紙に書かれていた時間まで余裕があったので、近くのトイレに駆け込み念のため身だしなみを整えた。
…念のためとはいったい何の念だろう。
でもやっぱり少しはどうにかしなければ失礼ではないのか。
自分で自分にツッコミつつ、化粧直しとも呼べないだろう技術で化粧を直した。
それでもやっぱりまだまだ時間があると思いつつも、他を見て回るような気も起きずにいたので、そのまま指定のバーに向かった。


「お一人ですか?」
「あー…後から来ます」
「何名様お越しになります?」
「たぶん1人です。…たぶん」


そう、「たぶん」1人。
…快斗さんが私を今日の打ち上げに呼んだとかじゃない限り、1人なはず。たぶん。
でもマジックショーのスタッフ、アシスタントが何人いるのかわからないけど、そんなに少ない人数なわけがない。
ならこのこじんまりとしたバーでは狭い気がする。
となると、やっぱり来るのは快斗さん1人なはず。たぶん。


「個室もありますが、お連れ様が来られるまでカウンター席にいらっしゃいますか?」
「あ、はい。そうします」


頷く私を見てバーテンダーはカウンター席を指した。


「後から来られる方は恋人ですか?」


カクテルを作りながら聞いてくるバーテンダーに首を横に振った。


「会うのは今日が2回目の人なんですが、その人にここを指定されて」
「なるほど。じゃあその方が来る前にあまり酔わないようにしないとですね」


シャカシャカとシェイカーを振りカクテルを作るバーテンダーは微笑みながら言った。


「まぁ…そう、ですね…」


それは当たり前のことなんだけど、あえて口にされたことに少し違和感を覚えた。
そんな私に気づいたのかバーテンダーは、


「当店の名前の意味、ご存知ですか?」


カクテルを差し出しながらそう尋ねてきた。


「59minの意味ですか?」
「えぇ」


出されたカクテルに軽くお礼を言いながら質問に質問で返すと、バーテンダーはにこやかに笑った。


「この店名は、もうすぐ新しい時間が始まるということを表しています。 時間に縛られずそれまでとは違う楽しい時間を過ごして頂きたい、そういう思いを籠めたのですが、お連れの方が当店を指定されたのなら、お客様と楽しい時間を過ごしたいと思われているんじゃないかと思いまして」
「なるほど」


バーテンダーが作ってくれたカクテルは、ほのかに甘酸っぱいものだった。
…快斗さんがどういう人なのか、今はまだわからない。
でもバーテンダーの言うような意味を籠めてここを指定してくれたのかもしれない。
そんな少しの期待とも言えないような物を抱きながら、彼の到着を待っていた。


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bkm

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