■13
「レディース!アーンド、ジェントルメーン!!」
パッと会場の照明が落とされたと同時に、
「今宵もあなたを摩訶不思議な魔法の世界へお連れいたしましょう!!」
軽快な声が室内に響き渡った。
直後、
「きゃあああ!!」
「快斗ー!!」
「こっち見てぇ!!!」
会場の至るところから歓声があがった。
…さすがチケット即日完売の人気マジシャン。
会場に入った時から思ってはいたけど、ほぼ女性の声しか聞こえない。
でもそんなことはいつものことなのか、快斗さんは笑顔で手を振って答えていた。
そこから流れるように次々とマジックが繰り広げらる。
中にはアシスタントが必要になるような大掛かりな物まであったけど、それをずっと笑顔で快斗さんは進行していた。
「さて、ここで少し雑談でも挟ませてもらいましょうか」
いくつかマジックを披露した後、ステージ中央に用意されたイスに快斗さんが腰をかけながらそう言った。
その間、快斗さんの後ろは慌ただしくセット替えをしているようだ。
…違うな。
慌ただしくセット替えをしなければいけないから、ステージ中央のイスに座って快斗さんが観客の目を逸らす必要があるんだ。
ということは、次は舞台装置にヒントがあるマジックなのかな?なんて考えていたら、
「快斗、結婚してっ!!」
どこからともなく、そんな声が会場内に響き渡った。
えっ、なんて思う間もなく、
「やだよ!!」
快斗さんは即答した。
「だって考えてみてよ。いくら俺のファンでね、こうやってショーに来てくれてるとは言え、知らない子と結婚なんて出来ないでしょ!」
それまでステージで見せてた笑顔とはまた違う、苦笑に近い顔で快斗さんは答えた。
「彼女にして!!」
さっきと同じ人だろうか?
快斗さんにめげずに言葉を投げかける女性に、
「彼女ー?それもだめー」
再び快斗さんはお断りの言葉を口にした。
「俺ねー、こう見えて結構…古風?なのかな?自分から攻めたいの。追われると逃げちゃう。全力で逃げちゃう。もう体に染みついた性分だよねー。だから自分からその子を攻め落としたいの。絶対無理!ってくらいの難攻不落な子を攻め落としたい。その子とだったら結婚する。…って、何言わせんだよ!」
ハッと我に返ったのか、どことなく恥ずかしそうな顔をした快斗さんに、
「待ってるー!」
相変わらず声が飛ぶ。
「おー。たぶんねー、来世の来世くらい?俺と君がマジシャンと観客じゃなくて、友達とか、幼馴染とかね。そういう間柄で生まれるかもしれない来来来世くらいになら、もしかしたら君と俺であんなことやそんなことになるかもね」
そこまで言うと会場が笑いに包まれた。
…こういう物に疎いのは私だけで、快斗さん、来来来世の嫁候補まで決まるほどの人気マジシャンなんだ。
半ば呆気に取られている私に、
「さて!そんなこと話していたら、準備も完了したようなので次のショーに移りたいと思います」
それまでのどこかふざけたような雰囲気に包まれていた会場の空気が一気に切り替わった気がした。
「今宵のメインイベント!…この世で唯一、私だけが扱える魔法をあなたにお見せ致します」
それは気のせいなのかもしれない。
でもこの時の私はさっきの手紙のこともあり、快斗さんが「私に」見せてくれるのだと強く確信していた。
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bkm