■12
「結局来てしまった…」
あっという間にマジックショーの当日。
その間にどんな服装で行くべきなのか、持ち物はどうするのか、そもそも会場までのアクセスは?なんてことを調べていた私は、中森警部に言われるまでキッドにされたことしか考えていなかったのが嘘かのように、上手く時の流れに乗れていた気がした。
…それにしもて、マジックショーなんて言うから家族向けだったり、カップルが多いのかと思ったけどとんでもない。
ほぼほぼ女性、それも恐らく快斗さんと同年代の女性客ばかりだった。
開場5分ほどで席の大半は埋まり、女性が多い場所特有の化粧品の匂いや香水が鼻についた。
「ねぇ!グロスない!?」
「えー?持ってきてないの?…はい、」
「ありがと!」
今まさに、私の席の横でも化粧直しが行われている。
良くみたら髪もかなりの気合いを感じる髪型だ。
爪もとても綺麗に磨き上げられている。
「…」
彼女たちの姿を見て、自分の爪に目を落とすと何んとも言えない気持ちになった。
…この前の家宅捜査で爪が割れて切ってから、ネイルケアなんてこともしていない。
服装もこれでいいか一応美和姉ちゃん(というか由美さん)に見てもらってオーケーが出た物を着てきたけど、彼女たちの服装と比べて地味な気がする。
こんなんじゃ、せっかくチケットをくれた快斗さんに申し訳ない。
もう少し綺麗な格好で来れば良かった。
「すみません、佐藤七海様でいらっしゃいますか?」
そんな後悔が生まれ始めた時、声をかけられた。
「はい、そうですが」
「良かった!これを預かってきましたので、後でお読みください」
「え?あ、はい?」
そう言って封筒を手渡された私は反射的に受け取った。
その封筒を眺めている間に、
「では失礼します」
「え?あ、ちょっ、」
封筒を届けに来た人は去っていった。
…いったい今の人は誰で、これはなんなのか。
誰から預かってきたっていうのか。
そう思いながら封筒を裏返すと
K
とだけ書かれていた。
この会場で、このアルファベットで私に手紙をくれる人は、1人しか考えられない。
隣の人に見られていないか確認した後、カサッと音を立てて中の手紙を取り出した。
今宵、あなたにとびきりの魔法をお見せします
後になって思うのは、初めて出逢ったあの日、私は彼に魔法をかけられたのかもしれないということ。
そしてその魔法はこの日、この瞬間に発動するようにかけられたのかもしれないということ。
そのくらい、彼からのたった1行の手紙は私の心を大きく揺さぶっていた。
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bkm