■ 4
リヴァイは圧倒的に人づきあいが下手だ。
それは女に限らず人間関係全般において言えること。
「よー、イザベル。」
「あっれ?ファーランどうしたんだよ?」
以前、アイツが酔った勢いでポロリと口にした過去。
…アイツは、一時期王都を騒がせた切り裂きケリーに育てられたらしい。
それが嘘か本当か、確認する術もないが、当時誰1人太刀打ち出来なかったと言う最早伝説とも言える大量殺人鬼「あの」切り裂きケリーに育てられたとすれば、ある程度、説明がつくことがある。
アイツのあの並外れた強さ然り…死滅したとすら思える表情筋然り、だ。
「俺だって買い物くらい来るっての!お前は?リヴァイと一緒か?」
「ううんー!今日は兄貴じゃなくて、」
「イザベル、終わったわ。ありがとう。」
それに伴い、世間一般じゃ思春期と呼ばれる時期に通るであろう「恋愛感情」とのつきあい方も、アイツはその殺人鬼のせいで麻痺して育ったんじゃねぇか、って思う。
「あ!エリザちょうどいい!コイツが前言ってたファーラン!」
だからこそ、怪我して参ってる自分の背中を摩り、額に手をやる等しながら寝ずに看病したエリザが、あっちからしてみれば単なる仕事だったとしても、それこそ天使やらなんやらに見えたんじゃねぇか、って思う。
特に俺たちのような地下街出身の人間は、赤の他人につきっきりで看護したりされたりなんて、誘拐した人間が病気になったとか以外あり得ない事だしな。
赤の他人の、しかも自分が弱ってる時に労ってくれたような奴に多かれ少なかれ、心は動くんじゃねぇか、って思う。
「お前、またロクな話してねぇんだろ?」
「いいえ。地下街で2番目に強いって聞いてます。」
だからまぁ…リヴァイにとって初めて出来た天使チャンのために、少し力になってやろうかなぁ、くらいな気持ちでエリザと一緒にいるであろうイザベルに声をかけた(もちろんかなり高い確率でエリザといると思ったからこそそういう行動に出た)
「2番目?」
「はい、1番は、」
「兄貴に決まってんじゃんっ!!」
間近で見るエリザは、兵団服を着ていないせいかそりゃあもう「女の子!」って雰囲気が全面に出てる女。
ガサツ、下品、馬鹿の三拍子揃ってるイザベルとはわけが違う。
アレ売ったらだいぶ高値つくよな?ってほどの、白に近い金の髪をなびかせて柔らかく微笑むエリザ。
その姿は確かに、そんじょそこらの女じゃ勝ち目ねぇだろうな、って部類の…イケてる女だった。
「お前らは?何しに来たんだよ?」
「私の買い物につきあってもらったんです。」
だが見た目も去ることながら、穏やかに話すその口調から、
「変なこと聞くけど、」
「え?」
「お前ら本当に仲良いのか?」
どう頑張って見てもイザベルと気が合うようには見えなかった。
「はっ?なんだそれ!どういうことだよ?」
「いやどうってわけじゃねぇけど…。」
「イザベルは私の知らないこと、いろいろ教えてくれるから。」
俺の言わんとすることがわかったのか、エリザが口を開いた。
「私はなんて言うか…、急いで話す、と言うことが苦手で…。『兵士』としてこの話し方を嫌う人も多いんですが、イザベルは普通に話してくれるし…。」
「だーって、んなこと言ったら俺だってしゃべり方汚ぇし?」
「…お前自覚あったのか…。」
「なんだよ今バカにしただろっ!ファーランのくせにっ!!」
「あ?ファーランの『くせに』ってなんだ。ファーランの『くせに』って!」
「ふふっ!」
俺とイザベルの会話を、口元を隠すように手で覆い笑うエリザ。
敷居と言うか、格式と言うか…。
そういうのが高そうな女。
それが直接話してみた後の印象。
「どー攻めっかなぁ…。」
「攻める?何を?」
それはまるで俺が恋でもしてるかのよう独り言。
それに対してリヴァイがツッコミを入れて来た。
「あぁ、いや、なんでもねぇよ。それより今日さ、イザベルが、」
予め言っておくが、確かにエリザは美人だ。
兵士だからなのか、服の上からでも出るとこ出てて締まるとこ締まってるのがわかる女だ。
でも断じて俺の好みじゃない。
俺はもっと擦れた感じの方が好きだ(と言うか気が合うし楽だ)
「何やってんだあのバカ。箒を選ぶ時は、」
「いやそれ俺に言っても…。」
だからこそ、どう接近していこうか攻めあぐねている。
…だがまぁ…、今ここで俺がどうにかしねぇと、コイツ本当に自分でどうこうするつもりねぇだろうし俺がなんとかしてやるしかない。
「今度イザベル連れてバーにでも行くかなぁ…。」
もちろんエリザも連れて来いと案に匂わせて誘うが。
「…お前がそういうところにイザベルを誘うの珍しいな。」
「そうかー?」
「あぁ。」
俺、しなくてもいい苦労してんじゃね?と、フッと冷静になるのはもう少し後のことで、この時はどうやったらこのどがつくほど人づきあいが下手なリヴァイとエリザを知り合い関係に出来るかと頭を使わせていた。
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bkm