■ 2
「チャーチ、右を任せる!」
「はいはい、と」
リヴァイのらしからぬ出来事に関して、正直全く頭からなくなっていた。
て、いうかな。
普通に考えて他人の色恋沙汰、そんないつまでも覚えてるわけねぇだろ、って話で。
頭からすっかりなくなっていた俺は、今日もフラゴン分隊長さん指揮の下、訓練に励んでいた。
「あ!危ねぇっ!!」
「え?うわっ!?……ってぇなっ!何やってんだ、この馬鹿っ!」
「ははっ…ファーラン、悪ぃ…。」
いつも通りの、立体起動を用いた演習。
…で、ヘマやって俺に突っ込んできたイザベル。
コイツはすぐ調子に乗って周囲が見えなくなるのが困りものだが、そこはもう馬鹿だから仕方ないと思っている。
「うわ!痛ぇと思ったら手擦りむいてる!」
「舐めときゃ治るだろ。」
「後でエリザに見てもらお!」
「…エリザ?」
俺がエリザの名前を聞いたのは、この時が初めてだったと思う。
「おぅ!俺と同じ部屋の救護班の奴!すっげぇ良い奴な上、手当てとかもすっげぇ上手ぇんだ!」
イザベルがやっぱり馬鹿だと思うのは、こういうところだ。
救護班にいるなら、手当てが上手くなきゃ問題だろうが馬鹿が。
そう思いながら、1度大きくため息を吐いた。
「お、ウワサをすれば!」
「あ?」
「おーい!エリザー!!」
イザベルは馬鹿でかい声と共に、この場を離れて行った。
「イザベルはどうした?」
「ん?あー…なんか同じ部屋の奴見つけたらしい。」
それと入れ違いでリヴァイがこっちにやってきた。
「イザベルも嬉しいのかもしれねぇよな…。地下街いた時は、仲間は野郎共ばっかで、同じ歳くらいの同性の友達って呼べそうな奴、いなかったしなー…。」
随分、向こうの方に駆けて行ったはずのイザベルがきゃっきゃきゃっきゃ騒ぐ声が漏れ聞こえていた。
そのイザベルと一緒に騒いでいるのは、
「…いた…」
遠目でも白に近い金の髪が綺麗になびいているのがわかる女だった。
「は?いたって何が?」
「…アイツだ。」
正直、この時リヴァイが何言ってるのか咄嗟にはわからなかった。
「アイツって?」
「…薄暗いテントの中でも、あの髪の色は見えた。」
「テント?テント、って…………あーっ!!!」
不覚にもここでようやく、リヴァイの話が繋がった。
「あの子かよ!?」
「あぁ。」
「……あぁ、くそ!遠目でここからじゃよくわかんねぇな!」
リヴァイの言う「アイツ」ってのは、以前俺に言った救護班のあの子のことだろう。
あんなに目立つ髪の色、なんで今のいままで見つけられなかったんだよ、と思ったが、
「そういやあの遠征、帰る時雨降ってたからみんなフード被ってたな…。」
リヴァイがその子を見失ったのは、なんとも単純な理由だった(帰還後も基本救護班とは接点ねぇし)
「イザベルと同室らしいぜ?」
「…ほぅ…」
「ま、頑張れ。」
「…何をだ?」
「…さぁ?」
あの子をリヴァイがねぇ、なんて。
少しだけ下世話な目でリヴァイとエリザを見ていた。
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bkm