Attack On Titan


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ゴロツキ純愛ラプソディ


13


「リヴァイさん…、来ないな…。」
「そうですね…。」


彼が怪我をした遠征から帰還し数日経ったある日、医師がぽつりと呟いた。
あの人のことだからとっくに傷は良くなってるだろうけど、後日検診くらいはしたいとぼやいていた。


「イザベル、少しいい?」
「おー?なにー?」


医師のその言葉に同調した私は、イザベルに聞いみた。
…けど、


「そりゃあ仕方ねぇだろ!」
「仕方ないじゃなくて、」
「だって医者に見せるって言ったら注射するだろー?」
「…え?ううん、診察では、」
「兄貴は注射痛ぇから嫌いだし!」


なんとも子供っぽい返事がきた。


「そ、れは、」
「うん?」
「ずいぶん、可愛らしい人なのね…。」


ようやく出た言葉がそれだった。
注射が嫌い?
自分の身体に障るなと言ってきたあの人が?
歴代の調査兵の中でも群を抜いて強いと言われている、あの人が?


「兄貴は可愛いんじゃなくて、カッコいいんだ、って!」


本当に、おもしろい人だと思った。
イザベルを、きっとずっと、守っていた人。
あの混沌とした地下街で、誰よりも強いと言われていた人。
…………もしかしたら。
そんなに強いなら…。
この頃から、そんな下心が生まれていたのかも、しれない…。


「今度飲みに行こうって言ってただろ?」
「うん?」
「兄貴とファーランも呼んでいいか?」


イザベルは、本当にこの2人と仲が良いんだろうと思う。


「うん、いいよ。」
「マジで!じゃあさぁ、この間サイラムに聞いた酒屋で、」


…あの人は誰より強い。
そして赤の他人のイザベルを守ってきたような慈悲深い人だ。
だから…。
だからもしかしたら、私も…、守ってもらえるんじゃないか、って…。
兵士になって、身体的にはあの頃と比べ物にならないほど強くなったけど…それでもやっぱり、1人でいたくないと思うのは、弱さからだろうか…。
いつからか彼に対して、そんなことを思うようになっていた。
だけど……。


「…そういう風にしか見ない『人間』が多いから恋人なんて必要ないのよ…!」


兵舎に戻る頃には酔いも冷めて冷静になり、やってしまった、と思った。
あの人はそういうつもりで言ったんじゃないかもしれない。
だけど


ーお前のその髪は嫌でも目につくー


あの言葉は、どうしても許せなかった。
その後帰ってきたイザベルに生い立ちなんかを話して、


「…今度会う機会があったら、謝る。それでいい?」


なんて約束してしまったけど…。
思えば今の今まで、誰かに許しを乞うために謝るなんてこと、したことがなかった。
むしろ私が許しを与えなければいけない立場…そんなような目にあってきていた。
…そういえば赤の他人に自分の生い立ちを話すなんてことも、初めてだ。
その相手が地下街で生まれ育った人だというんだから、世の中何がどうなるのかわからない。
けど全然、悪い気はしなかった。
蔑まれたり、売買の対象として見られ逃げるだけの日々から少しだけ抜け出せたような、そんな感じがした。
そんなある日、


「医者はいるか?」


彼が救護班にやってきた。


「どうしました?」
「手首を捻ったようだ。」
「どれ……、あぁ、そうですね。しばらくここをテーピングで固定させましょうか。」
「頼む。」
「エリザ、私は団長のところに行かなければだから、」
「はい、やっておきます。…じゃあそこに座ってください。」


彼は私が指差した椅子に腰下ろした。


「………」
「………」


2人きりの救護室に、カチャカチャと、処置準備のための器具の音だけが響いていた。


「この間は、」


そんな中で、


「悪かった。」


彼が口を開いた。


「あ、いえ…、私の方も、すみませんでした…。」
「………」


思わず見た彼は無表情に痛めている手首を眺めているだけで、何を考えているかわからない。
その彼を横目に、再び彼の手首に巻くテーピングに目を落とした。


「お前の髪は嫌でも目につく。」
「…」
「だがそれは、」


彼はあの日と同じことを口にしたと思ったら、そのまま言葉を紡いだ。


「誰よりその髪が、お前に似合っているからだ。」
「………」


驚いて手を止めて彼を見ると、彼も真っ直ぐと私を見つめ返していた。


「…あ、りが、とう、ござい、ます…。」
「………」


彼は言うだけ言って、口を閉ざした。
…これは、口説かれたってことなんだろうか?
ううん、今までを振り返っても、こんな風なこと言う人、後々私を売ろうとしていた人くらいしかいない。
今の言葉を深読みせず言葉通りに信じるのは危険だ。
だけど…。


ー兄貴はすっげぇ信用出来るってゆうか兄貴を信用出来なきゃこの世で生きてる人間誰も信用出来ねぇよ!ってくらい良い奴なんだからな!!ー
ーただなんて言うか…話すのが下手、って言うか…苦手って言うか…、でも絶対エリザの髪を売ろうとか思って話振ったとかじゃねぇからな!!ー
ー兄貴は嘘もつけないような奴で絶対そんなことしないー


この日生まれて初めて、この髪が私に似合っていると言われたことに、胸が熱くなっていった。



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bkm

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