Attack On Titan


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ゴロツキ純愛ラプソディ


12


私は「兵士」と言う職業のわりに、話す速度が遅い。
それはたぶん、幼少の頃、誰も話し相手がいなかったからだと思う。
唯一の家族のお父さんは、私と口を聞こうなどとはしなかった。
物珍しいこの髪の色のせいで、近所の子に虐められることはあっても、「友人」として話すことなどなかった。


「エリザ、コレとコレ。切れそうだから発注頼む。」
「はい。」


私が「まともに」話すようになったのは、お父さんが私を殺そうとした翌日から。
今思い返せばとてもぶっきらぼうな親子の会話だったと思うけど、それでもお父さんは毎日毎日、私に話しかけてくれた。
…まるでそれまでの時間を、取り戻すかのようにすら感じるほどの時間だった。
ほんの数分の会話で、間違えないように、きちんと伝わるようにと気を使っていたら、気がついたら、話す速度がゆっくりになっていた。


「俺はイザベル!よろしくな!」


そのお父さんが亡くなり、身寄りと言っても私を売ろうとしたおばさんくらいだった私。
兵士になれば、あるいは仲間が出来るんじゃないか、って思っていたけど、どこにいても目立つこの髪の色からか…、訓練兵の頃からずっと、私を遠巻きに見る人はいても下心なく近寄ろうとする人はいなかった。
そんな中、イザベルだけは普通に話しかけてくれた。
聞けば地下街から当時のエルヴィン分隊長(現団長)が連れてきた窃盗団の一員らしかった。
それを聞いて納得した。
「だから」私と仲良くするのかもしれない、って。
高値がつく私の髪を、狙っているのかもしれない、って思った。
だけど…、


「エリザー!」


そんなのすぐに違う、ってわかった。
イザベルは本当に真っ直ぐな子だった。
地下街で、それこそ窃盗団なんてしていた、なんて考えられないくらい純粋な子。


「で!その時兄貴とファーランが、」


この子はきっと、地下街なんていう薄暗い場所にいながらも、守られてきた存在なんだ、って。
たまに見かけるフラゴン分隊長の班の訓練を横目に思った。
いつもイザベルの横にいる2人の兵士。
特に黒い髪の兵士の方は、調査兵の中でも類を見ない強さだと言う。
イザベルはきっと、あの人に守られてきたんだ…。


「エリザ!!」


そんなことを思うようになった頃、壁外遠征でイザベルが真っ青な顔で救護班のテントに入ってきた。


「兄貴が怪我したんだっ!!!」
「大した傷じゃない。」
「ダメだって!!見てもらえよっ!!」


イザベルの話だと、さっき思わず肩を叩いたら珍しく痛そうな顔をしたらしかった。
その程度で?と正直思ったけど、「彼」はうちでは必要な兵士だ。
すぐさま医師が診察すると言った。


「これは…」
「こんなに血が!」
「…大したことない。」
「馬鹿を言わないでください!ガーゼをもっと持ってきてくれ!」
「はいっ!」


イザベルにテントから出て行くように言い、いざ診察、となりジャッケットを脱いでもらったら驚いた。
真っ白なシャツが背中一面、真っ赤に染まっていた…。
すぐ医師の治療が始まったけど…。


「痩せ我慢してるから、化膿し始めて熱も出てるじゃないですか!」
「別に痩せ我慢してたわけじゃない。本当に大したことないと思っていただけだ。」
「…我慢強いのもあなたの良いところですが、お願いですから怪我したらすぐに我々のところに来てくださいっ!」


じゃないとエルヴィン団長に我々が怒られる、と医師は言った。
その後施術も済み、そのまま彼はここのテントにいることになった(本人は帰ろうとしたけど医者が鎮静剤を打ってそのままここにいてもらうことになった)
…必然的に今日の当番だった私が彼につききりで看ることとなった。


「…っ、」
「あ、大丈夫ですか?」


医師の言った通り彼は、出血量もそれなりにあったし、熱も出てきたしでなかなか意識が定まらないようだった(薬の副作用というのももちろんある)


「あまり動かない方が、」
「…に…」
「え?」
「俺に、触るなっ…」


初めて私を正面から捉えた彼は、朦朧とする意識の中でもはっきりとそう言ってきた。


「…触りません。」
「…」
「傷が大丈夫か、看ているだけです。」


私の言葉を聞いた彼は、再び目を閉じた。
…この人は、イザベルを守ってきた人。
でもきっと、「仲間」以外は、信用しない人なんだ…。
その次に目を開けた時、彼はまるで睨むように私を見てきた。


「…触りません。」


そう言うと、彼はまた目を閉じた。
そして3度目に目が覚めた時、熱による顔の赤みが少し取れてきた気がして、彼の額に手を当てた。


「大丈夫ですか?」


触れた額の熱は確かにそれ以前よりも低いと感じた。
少しだけ、ホッとした息が漏れたのを見計らったかのように、


「この程度で死ぬとでも思ったか?」


彼はそう言ってきた。


「…ふふっ!そうですね。噂に聞く『あなた』は、きっとこの程度じゃ死にませんね。」
「……」


おもしろい人だと思った。
…イザベルを守ってきた人。
きっと「私たち」を信用していない人…。
そして傷口のガーゼを変えている時、


「…っ、」


彼はもう1度、目を覚ました。
…今度は睨むわけでもなく、ただ私を見ていた。


「もう大丈夫ですよ。」
「…そうか。」


たった一言そう呟いた後で、彼はゆっくりと目を閉じた。


「エリザ、交替の時間。」
「あ、はい。」


朝になる前に、交替の兵士が救護班用テントにやってきた。


「ねぇ!リヴァイさんがいるってほんと!?」


あの人はモテるらしいことは知っていたけど、交替に来た兵士もどうやらその1人らしく、引き継ぎよりも先にそう聞かれた。


「…えぇ、今寝てます。」
「やった!あ、後は私が看病するから!」


まるで犬か何かを追い払うように手で払われながらテントから出た。
…私はこの髪のせいで人身売買の対象か、いつ頃からか女からはそれは妬みとでも言うのか…、決して好意的ではない感情を抱く対象として見られるようになった。
それはここに来ても変わらない。
私とは普通に話す。
…けど、邪魔な存在。なのだろうと思う。


「…あぁ、イザベルに大丈夫だったって教えてあげないと…。」


大きくため息を吐いて、救護班のテントを後にした。

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bkm

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