Attack On Titan


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ゴロツキ純愛ラプソディ


10


「あ、あのさ!その…兄貴が、ごめんな…。」


みんなで飲みに行って兄貴の言葉にエリザが突然怒って飛び出して行った後で、俺も後を追うように兵舎の自室に戻ってきた。


「…ううん、私の方こそイザベルの大切なお兄さんにいきなりごめんね…。」
「いや!それは大丈夫!兄貴怒ってなかったし、あれくらいじゃ風邪もひくわけねぇし!」


少し時間が経っていたからか、エリザは飛び出して行った時の勢いがなくなり、むしろ元気が無くなっていた。


「でも、さ、」
「…」
「なんでいきなりあんなに怒ったのか聞いていいか?」


兄貴がようやくエリザに話しかけた。
そう思った直後の出来事に、俺には何が起こったのか正直わからなかった…。


「嫌いなんだー、親しくもない人に髪のこと言われるの。」


そう言うエリザは笑っていたけど、…泣いているように感じた。


「いきなりグラスの酒ぶち撒けるほど?」
「…」


俺の言葉にエリザは一瞬、床に目をやった後、大きく息を吐いた。


「そう、だよね。イザベルは、知る権利、あるかも、ね…。」
「知る権利?」


呟くように言ったエリザの言葉に反応した俺をチラッと見てきた。


「私の髪、高値で売れるって知ってる?」


俺の目を真っ直ぐ見つめながらエリザは話始めた。


「私の両親はどちらも赤毛がかった茶髪で、こんな髪の色じゃないんだ。」


ポツリ、ポツリと呟くように言うエリザ。


「小さすぎてもう…よく覚えてないけど、私が生まれた時は母の不義の子だって言われてたくらい、両親と似てなかった。」
「ふぎのこってなんだ?」
「あぁ…、私の母親と、父親以外の男との間に出来た子、って意味。」


エリザは俺にもわかるように言い直してくれた。


「お前、親父の子供じゃなかったのか?」
「うーん…今となってはもうわからない、かな?」
「わからない?」
「…母親は幼い私を置いて家から飛び出して行ったから。」


ランプの灯りが揺れるだけの、薄暗い部屋で、


「…そして父親は、誰の子ともわからない私を育てなければならなかった。」


エリザの髪だけははっきりとその色を主張していた。


「だけど、嫌だったんだと思う。」
「…」
「だって私がお父さんの立場でも嫌だもん。自分の奥さんと他所の男との間の子供かもしれない子、育てなきゃいけないなんて。」


ちょうどその時、雲の間から月が出てきたみたいで、部屋に月明かりが差し込んだ。


「お父さんは私を見るたびにお母さんを思い出してどんどん心が疲れていって…。ある日ついに私を殺そうとした。」
「…え?」


その月明かりに照らされ、エリザの髪がまるで光っているかのように見えた。


「私の首に手をかけて殺そうとしたけど…。でもお父さん泣きながら言うの。『殺せるわけない』って。」
「…」
「それを見て、何を思ったのかは思い出せないけど、ただただ、お父さんと一緒に朝まで泣いていたのは覚えてる。」


俺は生まれも育ちも地下街だ。


「その翌日、何をどう変えていいのかわからない私たちは、それまでと何1つ変わらない生活を送っていた。」


汚ぇ水と空気で育ってきた。
…けど、死ぬ直前まで、親が俺を守ってくれていた。


「私の話し方、他の人と違ってゆっくりじゃない?」
「え?あ、まぁ、そう、だな。」


エリザは突然俺の方を振り返り、そう聞いてきた。


「…お父さんに殺されそうになるまで、誰かと話すことなんて、なかったんだ。」
「え?』


そう言ってまた、窓辺で夜空を見上げたエリザ。


「だけどあの事があってから、それまでは私と話1つしようとしなかったお父さんが、私に数言だけど、話しかけてくるようになった。」
「…うん。」
「初めて毎日、誰かに声をかけられるようになって、それがほんの2〜3言でも嬉しかった。」


それ以前は本当に話すこともなかったから、話し相手もいなかったから、話し方がわからずゆっくりになったんだってエリザは言った。


「もしかしたら私の生活は『酷い』と言われるようなものなのかもしれなかったけど…、それでもやっとお父さんと家族らしくなれた気がして、私は嬉しかったんだ。」
「…うん。」
「でも、事件は起こった。」
「事件?」
「…家に人身売買の人間がやってきて、私を連れて行こうとしたの。」
「え!?」


そこまで来てさっきのエリザの「高値がつく髪の毛」の話と繋がった気がした。


「おばさんが…お父さんのお姉さんが、私を売ったんだって。」
「…え、」
「どこの男の子供かわからない疫病神、これくらいして役に立て、って言われた。」


淡々と自分のことを話すエリザが、なんだか別人に見えた。


「でもその時、お父さんが人身売買の人と話して、私の髪の毛だけで手を売ってもらうことになったの。」
「髪の毛、って、」
「うん。男の子みたいに丸刈りにされた。長ければ長いほど、高値がつくから、って。…私を売ったおばさんも『仕方ないからこれで手を打ってやる』って引き下がった。」


そう言って俺を見たエリザは、とても悲しい目をしていた。


「それでその時は刈り取った私の髪の毛を持ってその人たちは去って行ったんだけど…、」
「だけど…?」


それまで淡々と語っていたエリザが急に言葉に詰まらせた。


「お父さんがね、言ったんだ。『お前はここにいちゃいけない。ここにいたらきっと…あの時俺に殺されていれば良かったと思うような人生しか、待っていない』…そう、言われた。」
「…」
「だから子供でも生きていけるように、訓練兵に志願しようと思った。それが私が12歳の時の話。」


そう言い終わったエリザは困ったように俺を見た。


「…エリザの親父は?」
「もう、いない。」
「それって、」
「…私を訓練兵として送り出した直後に、亡くなったんだって。」
「事故かなんかで?」
「ううん…。とても重い、病気だったみたい。お父さん、人身売買の人が家に来た時点でもう自分が長くないって知ってたんだろう、って、お父さんと仲が良かった村の人が教えてくれた。」
「…」
「『だから』あの時点で、私を訓練兵に送り出したんだろう、って。自分が亡くなった後で、おばさんがまた私を売らないとも限らないから…。」


そう言って笑うエリザが、泣いているように見えた。


「…で、お父さんと同じ病気の人、助けたいって思ったのが今の私の始まりかな?」


そこまで言うと、うーん、と1つ伸びをしたエリザの声は、少しだけ明るくなった気がした。


「でも私の頭じゃ医者にはなれないし、そもそも勉強出来るお金がない。だから訓練兵の訓練が終わった後、兵団お抱えの医療チームに入るため勉強させてくれって団長に言ったの。」
「それでその後、」
「うん。調査兵団の救護班に任命されるまでになった。」


正面から見るエリザの顔は、もういつものエリザだった。


「そういう経緯があるから…、あんまり親しくないのにこの髪のことを話題にする人はどうしても、そう言う目で見てるのかもって思っちゃって、信用出来ない、って言うか、」
「兄貴は違う!!」
「え?」
「兄貴はすっげぇ信用出来るってゆうか兄貴を信用出来なきゃこの世で生きてる人間誰も信用出来ねぇよ!ってくらい良い奴なんだからな!!」
「う、うん?」
「ただなんて言うか…話すのが下手、って言うか…苦手って言うか…、でも絶対エリザの髪を売ろうとか思って話振ったとかじゃねぇからな!!」
「…」
「そこは俺が保証するしっ!!兄貴は絶対そんなことしないし、むしろそんな奴らボッコボコにやっつけるような奴だし本当にそんなつもりで言ったんじゃなくて」
「わかった。」
「え?」
「…今度会う機会があったら、謝る。それでいい?」


俺が半分叫びながら言っていた言葉に、エリザは参った、とでも言うように手をあげ、困った顔で笑った。



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