■68
「私、白馬くんのことが好きなの」
それは音にしてしまったら10秒にも満たない短い言葉だった。
でも私にとっては、生まれて初めて抱くことの出来た大切な想いの詰まった言葉だった。
「…」
白馬くんはポカン、と口を開けて、幾度となく瞬きをした。
「…」
それは白馬くんにとっては意外なことだったんだろうか…。
…私とそっくりな青子の心を求めているのに、私の心には、気づこうともしなかった…。
「…あー、っと、僕は、」
…今までずっと、そうだった。
「私、」
「はい?」
「…私は私だ、って。『青子の双子』としてじゃなく、『私』を見てくれた白馬くんのことが、好き」
今までずっと…青子しか見てこなかった白馬くん。
「白馬くんが誰を好きでも、…私は白馬くんが好き」
白馬くんが青子のことを好きだったとしても。
それでも私は…。
「…僕は、」
軽く目を伏せながら、白馬くんは呟くように言った。
「あの日出逢ったのが青子さんだから、青子さんを意識し始めた、と言うのは否定しません」
「…」
「ですが実際はあの日出逢ったのは名前さんだった。…ならばそう言うことを取り除いて僕は青子さんを好きなのだろうかと自問自答しました」
私を見ずに語られるその言葉は、私にたどり着く前に、澄み渡る青空に溶けて消えていってるのかもしれない。
「今までの僕自身の行動、青子さんそして…名前さんの行動を振り返った時、1つの結論に達しました」
そう思うくらい「フられるんだ」と言う今のこの状況を不思議な気持ちで聞いていた。
「僕自身、まだはっきりと断言できるわけではないのが我ながら情けないところではありますが…、僕はもしかしたら青子さんではなく名前さん、あなたのことを好きになってきているのかもしれない」
「………え?」
そう言葉にした白馬くんを見上げると、今まで見たことのないような…、どこか照れ臭そうにしながら私を見ていた。
「ですから、僕は青子さんといる時よりも、名前さんといる時の方がずっと…居心地が良いんです」
「…」
「かつて、曽祖父の家にいた頃のように揺るがない安心感と、安堵感がある」
そう言った白馬くんは、とても穏やかな表情で私を見ていた。
「ですがそれイコール名前さんを好きか、とすぐ結びつけられるほど僕自身安易な人間ではないと思っているのでそう問われたら迷うところですが…。でも青子さんよりも名前さんを好きになってきはじめているのではないかと思い初めてきたので、試しに僕の恋人になってみませんか?」
その表情は、今までずっと青子に向けられていた表情で…。
「…そ、」
「はい?」
「そ、んな曖昧な理由で誰かとおつきあいなんて出来るわけないじゃない!」
「…ですが1番効率の良い方法で、」
「そんなの嫌!『試しで』なんて絶対つきあえない!」
嬉しいのか、恥ずかしいのかわからない。
ただもしかしたら私が終わらせようと思っていた想いは、さっきの白馬くんのの言葉のように、空の中に溶けていったのかもしれない。
そんな風に思った。
Fin
bkm