■53
どうして私は青子に対して言葉を投げかけたのか…。
どうして青子は私に対して言葉を投げつけたのか…。
「それって白馬くんに失礼じゃない…」
「名前だって青子のこと言えないじゃん…」
私の言葉に反応した青子に対して、
「それって私が何か失礼なことした、って意味？」
何かが沸々と湧き上がるままに、言葉のナイフを突き立てた。
「…それって、自分は何も失礼なことしてない、って意味？」
私の言葉に、青子は…どこか悔しそうな瞳で私を見た。
「…何、どういうこと？」
「………」
青子は答えない。
ただ黙って、床を睨みつけた。
「ねぇ、言ってくれなきゃわからないよ。」
「……」
「私が誰に対して失礼なことを、」
「快斗は名前が好きなんだよっ！？」
突然、青子は悲鳴にも近い叫び声をあげた。
「な、に、言っ、」
「なんで？なんで気づかないの？あんなに快斗と一緒にいるのにどうして快斗のことわかってあげないの？快斗はずっと、名前が好きだったんだよ！？…青子じゃなくて、名前が好きなんだよ…」
声を震わせながらそう言ったあとで、青子は俯いた。
「…なに、それ」
「……」
「快斗、快斗、って、なんで？なんで快斗のことしか気にかけないの？」
「え？」
「白馬くんが、あんなに青子を思ってるのに、なんで快斗なの？白馬くん、ほんとに青子のこと思ってるんだよ？…私じゃなくて、青子を思ってるんだよ？なのになんで、気づかないの？」
たぶん私の心は、風船のように膨らんでいたんだと思う。
青子に向けて突き立てた言葉のナイフは、私に跳ね返り、パンパンに膨らんだ心の風船を突き破り、今まで言えなかった言葉を辺りに溢れかえらせた。
「同じ日に生まれた同じ顔なのに、何をするのも、いつも青子の方が優秀で、…白馬くんだって…、私じゃなくて、『優秀な』青子の方が好きで…。そんなに恵まれた環境にいることに、どうして気づかないの？」
泣きそうな顔で見つめた先には、もう1人の私が立っていた。
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bkm