■12
−やっぱり!!青子、白馬くんのひいおじいさん知ってるよ!!−
「やはり」と言う気持ちは確かにあるものの、それ以上の落胆は、思ったより色濃く僕の中に影を落とした。
「まぁ…、予想の範疇ではありますけどね」
「何か仰いましたか?お坊ちゃま」
「いや…。今日もばあやが淹れてくれたコーヒーは美味しいよ」
「まぁ…!ありがとうございます」
過去のほんの一瞬、言葉を交わしただけの僕と彼女。
彼女が覚えていないことなど、十分にあり得た。
…だがそれでも、過去のたった1度の時間の共有を覚えていてもらえなかった侘しさというのは、拭い切れなかった。
「キッドが出たぞー!!」
「これはこれは中森警部ご機嫌麗しゅう。…今日もイギリス帰りの探偵くんと一緒とは驚きました…」
「別に好きで一緒にいるわけじゃない!!コイツの親が俺の上司でだなぁ!!」
「おや、ご迷惑でしたか?中森警部」
「え!?い、いや、別にそんなこと一言も…」
「…それより、今日という今日はお縄についてもらいますよ、怪盗キッド」
「…麗しい女性の言葉でしたら喜んで捕まるところですが、生憎私にその気はないので今日も変わらず、皆さんの前からお暇させていただきますよ。では…」
「煙幕かっ!?窓を開けろ!!キッドを逃がすなーーっ!!!」
…怪盗キッドはほぼ間違いなく、黒羽快斗だ。
彼女が僕を覚えていないのは、仕方の無いことだと思う。
だが…。
彼女が何も知らずにキッドの傍にいるというこの事実は、今の僕にはとても許しがたいことだ。
それに確かめたわけではないが、江古田に編入してからのこの短期間でわかったこと。
恐らく青子さんは…。
「警部!キッドは南西の方角へ飛び去って行きました!このままでは宝石が、」
「追いましょう、中森警部」
「当たり前だっ!全車に告ぐ!キッドは南西の、」
「彼」を仕留めるということは、僕にとって公私共に必要なこと。
目の前から飛び去って行った白き罪人の姿を、いつまでも目で追っていた。
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bkm