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−名前さんには名前さんの良さがある。青子さんのように振舞う必要はどこにもないと思いますが?−
別に誰に何を言われたわけでもないけど、いつからか「青子のように振舞えない自分」にコンプレックスを抱いていたのは確か。
けど…「青子にならなくてもいい」とはっきりと言ってくれたのは、白馬くんが初めてだった。
「バ快斗ーーっ!!」
「…アイツも懲りねぇよなぁ」
快斗と2人きりの秘密基地。
今日も青子の元気な声が響く。
「青子、快斗はいつもどこに隠れてるのかって言ってたよ?」
「オメー言ったのか?」
「…ここは『2人だけの秘密基地』なんでしょ?」
快斗は一瞬驚いたような顔をしていたけど、すぐに笑顔になる。
「そ!ここは俺と名前だけの秘密の場所だぜ?」
「青子にも教えてあげればいいのに」
「そしたら意味ねぇだろー?」
屋上には快斗の声だけが響き渡る。
確認したわけじゃない。
けど、青子があんなにも快斗を捜すのはきっと…。
快斗は確かに私と青子を比べない。
いや、本音は比べてるのかもしれないけど…。
でも直接的に言われたことはない。
だけど…
−名前さんには名前さんの良さがある。青子さんのように振舞う必要はどこにもないと思いますが?−
私の目を見て言ったあの言葉に、ずっと感じていた見えない何かが取り除かれ、そしてその一言に大きく、心が動かされた気がした。
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bkm