Detective Conan


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stock-永遠の恋-


82


「いやー、実に有意義な時間だ!」
「えぇ!本当ですね!」


酔いどれシャーロキアンの2人は実に生き生きとした笑顔で語り合っていた。
…もう寝たいんだけど。


「父さん、」
「なんだ?」
「私たち東京から移動してきて疲れてるんだけど、」
「あぁ…。それもそうだな。この続きはまた明日にしようか。なぁ、新一くん」
「あ、僕はぜんぜ」
「明日にして」
「…」


僕は大丈夫です、とでも口走りそうな新一くんを静止しお開きを促した。
…てゆうかコレ明日も続くのか?
いっそこの2人放っておいて、明日千沙と飲みに行こうかな…。


「おい、母さん」
「はい?」
「新一くんはどの部屋で寝るんだ?」
「え?えぇ、一応名前の部屋に通しましたけど、」
「駄目だ!」


まぁ、そうだろうな。
この堅物な父さんが、結婚前の娘が連れてきた彼氏を同じ部屋に寝泊りさせるなんて思えない。


「結婚前に新一くんにもしものことがあったらどうするんだっ!」
「……………えっ!?僕ですか!?」


え、そっち!?


「当然だろう!有希ちゃんの大切なご子息に何かありでもしたら土下座どころじゃ済まない切腹だっ!!」


…落ち着け私。
相手は酔っ払いのオヤジだ。
しかも自分が好きだったアイドルの息子に会ってしまって浮かれまくっているミーハーだ。
相手にしたら負けだ。


「でも何かあったらもしかして私たちは藤峰有希子と親戚になるってことかしら?」
「なにっ!!?…………いや、駄目だ駄目だ!有希ちゃんの大切なご子息になんということを!!それだけは駄目だっ!!」


父さん一瞬「藤峰有希子と親戚」に揺れたな…。


「とにかく!」
「はい?」
「新一くんは1階客間に寝ること!いいね?」
「はい」


鶴の一声ならぬ、ミーハー頑固オヤジの一声で、私は2階の自室、新一くんは1階の客間で寝ることになった。
2階の私の部屋に置いていた荷物を取りに行き、新一くんを客間に通した。


「…ったく、有希ちゃんの大事なご子息の心配する前に嫁入り前の娘の心配しろってんだ!」
「いやでも的を得てるよな?」
「え?」
「明らかに俺の方が危険だ」
「…」
「…ってーなっ!!!」
「キミ今度その減らず口を言ってみろ。2度と使い物にならないようにして父さんに切腹してもらうからな」
「…意味わかんねーし」


酒のせいでやや顔の赤い新一くん。
…いや、酒を飲まなくても顔を赤くする特技があるから顔の赤さは関係ないのか?


「あぁ、そうだ」
「うん?」
「キミに言っておくことがある」
「言っておくこと?」
「この部屋、出るぞ」
「……………」
「……………」
「…は?何が?」
「いやだから、この部屋オバケが出るぞ、って」
「はぁ?オメーそういうの信じてたっけ?」


新一くんは心底バカにしたような目で私を見てきた。
…なんかムカつくな、コイツ。


「生憎俺は非科学的なことは信じないんでね」
「そう。そう思うならお好きに。ここで寝た客人は大抵物音を聞いて帰るから」
「へー、そりゃ楽しみだ!」


そう言った新一くんを客間に残し、自室に戻った。
…しっかし、父さんがあんなお茶目なおっさんだとは思いもしなかった。
解散間際はただのイラッとくる酔っ払いだったけど。
話の流れで出なかったから言わなかったけど、有希子さんと会ってむしろ食事も旅行も一緒にさせていただいたと知った時の父さんはどうなるんだろうか…。
父の威厳を今の今まで信じてきた娘としては言いたいような、言いたくないような…。
まぁ…、それも機会があればでいいか。


「ふぁあ…。さすがにもう限界」


久しぶりの実家で、久しぶりの自分の布団に潜り込み寝ることにした。


「名前!いい加減起きないか!」


父さんのその言葉に目覚まし時計を見ると、まだ朝の7時前って言う時間だった。


「お前がいつまでも寝ていて、新一くんが起きてたらどうするんだ!もっと気を使わないかっ!!」


鶴の一声ならぬオヤジの一喝。
…とても昨日「有希ちゃんのご子息」とうっきうきでシャーロキアンぶりを発揮したおっさんとは思えない回復ぶりだ…。


「朝早いのは父さんだけで、新一くんは朝弱いよ」
「なんでお前がそんなこと知ってるんだ?」
「………いや、なんか低血圧そうじゃない?彼」
「まぁ…、今の若い子はそういう子が多いからな」


とにかく1度部屋を覗いてみろ、なんて言う父さん。
…危ない危ない。
休み前日は「有希ちゃんのご子息」と一緒のベッドで寝てるんだなんて知られてみろ。
昨日の父さんのテンションならほんとに切腹しかねない。
これはしばらくは同棲、と言うか同居な域だけど、それは伏せておこう…。


「新一くん起きてるー?」


ノックと同時に部屋のドアを開けると、


「あ!待て!!」
「っ!?」


部屋で新一くん以外の何かが蠢いた。


「…なんだそれ」


新一くんが抱きかかえたもの。
それは、


「昨日寝ようとしたらほんっとに物音してさ。どうも床下から聞こえてくるみてぇだから畳みひっくり返して調べたらコイツがいたの!」


どこからどう見てもイタチだった…。


「キミ夢が無さすぎだ」
「へ?」
「心霊現象を突き止めちゃダメだろ」
「だーから心霊現象なんて実際はぜーんぶこんなもんなんだって!」


なぁ?なんてイタチに言う新一くん。
…田舎田舎だとは思っていたし自負もしていたが、まさか床下にイタチが潜んでいる家だったとは…。
心霊現象を解明されたことよりもその事実が重い…。
その後イタチを抱きかかえた新一くんに驚いた父さん、母さんだったけど、なんてことはない。


「じゃあ山に返せばいいだろ」


父さんのその一言で決着がついた…。


「うすうすそんな気がしたけど、野生に戻すんだな…」
「なんならキミが米花町で飼ってもいいんだぞ」
「戻すか、山に」


厳密には裏庭でイタチを解放したら、いそいそと山に帰って行った。
もううちの軒下に来るんじゃないぞ、なんて思いながら見送った。


「で?今日は何すんの?」


知識欲旺盛なこの青年はとにかく大人しく家にいる、と言う選択肢はないようだ。


「じゃあ、」
「おぅ」
「村で唯一の大型スーパーに行くか」
「…唯一?」


私が小学生の頃に出来た、当時としては超!大型スーパーだったわけだが、今となってはしなびた田舎のスーパーで落ち着いてるスーパーに新一くんを連れて行くことにした。


「俺スーパー行きたいわけじゃねぇんだけど」
「あぁ、どっちにしろ行かなきゃだったんだ」
「え?」
「母さんが『いやだわ!都会の男の子が食べるようなもの何にもないから、ちょっと新一くん連れて買いに行ってきてちょうだい!』って言ってさ」
「いや別に『都会だから』食生活違うわけじゃ、」
「まぁまぁ、キミに好印象を持ってもらおうと必死なうちの両親を大目に見てやってくれ」
「うーん…」


ぶらぶらと。
日々の喧騒からじゃあり得ないほどのどかな沿道を歩く。
いつか通った、通学路。
まさかこの道をこの年で、高校生のお子様と歩くことになろうとは思いもしなかった。
なんて。
少しだけ感傷に浸っていた。


「名前?偶然だねー!」


スーパーまで通り道、昨日うちにやってきた私の幼馴染とも言える友人、千紗と会った。


「他に行くとこないからな」
「ははっ!確かに!…えぇ、っと、工藤くん、だっけ?何にもないところで驚いたでしょ?がっかりしたんじゃない?」
「…いえ、空気が澄んでいて景色も綺麗な良いところじゃないですか」


それを「何にも無い」って言うんだこの八方美人が。
その後同じくスーパーに行くと言った千紗を伴い、再び歩き出した時、千紗がポロリと口を滑らせた。


「そう言えば、久住もこっち戻ってきてるよ」


かつての通学路で、かつて一緒に歩いた友人と、…かつての彼氏とも呼べないようなつきあいだった男の話をする羽目になるとは思いもしなかった。

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