Detective Conan


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stock-永遠の恋-


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「父さん、お帰り」
「あぁ…、来たのか」
「うん。紹介するね。工藤新一くん」
「初めまして、工藤新一です」
「………………」
「あ、あのぅ?」
「あぁ…。娘がいつも世話になってます」
「あ、いえ」
「まぁしばらくゆっくりしていきなさい」
「はい」


そう言って父さんは自室へ向かった。


「…松本警視みてぇだな、オヤジさん…」
「キミの気持ちはよくわかる。○暴にいそうな顔だろう?」
「いや、そこまで言ってねぇけど、」
「アレで町役場の地域環境課の責任者だ」
「どんな環境整備してんだよ!だいたいなんで堅気の人間が顔に傷作ってんだよ!」
「あぁ、アレは昔近所で大量のスズメバチが発生して環境課の代表で駆除要員に借り出されたはいいけど、駆除中に木の枝で顔を切ってしまってついたんだそうだよ」
「…仕事熱心な人なんだな」
「だから真面目が服を着てるって言ったじゃないか」
「あら?お父さんは?」


私たちが話してると後ろから母さんが声をかけて来た。


「部屋に行ったみたいだけど?」
「そうなの?…覚悟しててね、新一くん」
「え?」


母さんはフフフと笑いながらまた台所に消えていった。


「か、覚悟って何の?」
「…さぁ?」
「…参考までに聞いていいか?」
「うん?」
「オヤジさん、格闘技の経験は?」


…だいたい私と同じような「覚悟」と受け取ったんだな。
そりゃまぁ、そうか。


「娘の私から言わせてもらえれば、」
「…おぅ」
「格闘技の経験はないと思うけど、」
「あ、そうなのか?」
「少なくとも君のような優男に負ける人ではないと思う」
「…………」


若干口元を引きつらせた新一くん。
ガタイの差から気づいてほしいものだ。
そしてとりあえずご飯まで居間にいるか、ってなった時、父さんが何かを持って戻ってきた。


「名前、新一くん。そこに座りなさい」


そう言われて指差された先に腰を下ろした私たち。
それを見て父さんが軽く頷きながら、私たちの向かいに腰を下ろした。


「父さん、もう1回紹介するよ。工藤新一くん」
「はじめまして」


とりあえず話の切り出しを、ともう1度父さんに新一くんを紹介した。


「聞いたところによると新一くんのご両親は、」
「あ、はい。父は工藤優作、小説家です」
「ということは、」
「はい?」
「君のお母上は、」
「あぁ、はい。母は昔『藤峰有希子』と言う名で女優をしていました」


…『お母上』?
もともと堅苦しい感じの人だったけど、『お母上』?
その時父さんが、テーブルの上にバサッと持ってきた何かを置いた。


「見なさい」
「え?あ、じゃあ…失礼します」


父さんが新一くんに差し出したのは、見るからに高そうな箱。
なんだアレ、桐箱か?
新一くんが蓋を開けると、


「かっ、」
「もう20年近く前になるが、君のお母上の姿だ」
「かあ、さん…」


中からこれでもかーー!!って言う昔の有希子さんが出てきた。


「…父さん、コレ、」
「お父さんは昔藤峰有希子ファンクラブに入ってたのよ」
「昔じゃないっ!今もだ!」


私が生まれてからこの方、この父親のこんなにも燃えてる姿を見たことがあっただろうか…。
いや、いっそ「萌えてる」なのか?
私も生まれて初めて見る父の姿に、


「そ、そう、なんですね…」


新一くんも目を白黒させていた…。
…母さんの言ってた覚悟ってこのことだったのか…。


「いいかい、よく聞きなさい」
「はい?」
「君のお母上である藤峰有希子さんという女性は、」


そしてそこから延々と父さんの有希子うんちくがはじまった。
…たまに昔の雑誌の切り抜きやらなにやらの写真を見せながら…。
堅物で面白みの全くない人だと思っていたけど、何この人、実はこんなに面白い人だったのか。
チラリ、と新一くんを見ると、今日1番顔を引きつらせているんじゃなかろうか、という顔で笑っていた。


「その有希ちゃんが20歳と言う若さで結婚引退するなんてっ…!あの時は日本中の男が泣いたんだぞ!」
「はぁ…」


自分の母親を、今日初めて会った恋人の父親から「有希ちゃん」呼ばわりされたらきっと私が新一くんでもそんな返事しか出来ないだろう。
むしろキミはよく答えてやってるよ。


「一体どんな輩が私たちの有希ちゃんを、と思って君の父親の小説をその時初めて読ませてもらった」
「え?父の本、読んだんですか?」


父さんの一言に、生返事ばかりしていた新一くんが生き返ったかのように質問した。


「あぁ。どれを読んでも同じだろう、と当時の最新刊をね」
「…それはどの話かお伺いしてもいいですか?」


そう言った新一くんに父さんは困ったように笑った。


「君の父親の代表作、『闇の男爵』シリーズだよ。タイトルは忘れてしまったがね」
「そうですか…」


タイトルを忘れた、ってことは父さんは工藤先生の本を気に入らなかった、と言うことか。
まぁ…、推理物は好みがあるからな…。


「タイトルは忘れてしまったが、」
「はい?」
「その話は前後編の前編でね」
「はい」
「実におもしろかった」
「…え?」
「こんなものを書く男なら仕方ない、という思いと、それでもやりきれない悔しさがあって君の父親の作品は以来2度と読んでいない」


…自分の父親のことなのに、今日初めて知ることが多すぎる。
なんだ、この人新一くん曰く「松本警視のような顔」なわりに可愛い性格じゃないか。
ただの無口、生真面目な公務員だと思ってたわ、父さん。


「君の父親のせいですっかり推理小説にはまってしまって、」
「推理物お読みになるんですか?」
「あぁ。だがやはり、好きな推理小説家をあげるとしたらコナン・ドイルだろう」
「ホームズがお好きなんですか!?」


しまった、と思ったのは時すでに遅し。
新一くんの中の起爆剤に引火した瞬間だった。


「ですからその時コナン・ドイルは、」
「…ほぅ、そういう解釈をするのか」
「えぇ!僕ならきっと、」


こうして、我が家で1番の堅物であるはずの父さんとシャーロキアンぶりをはつらつと発揮させている新一くんは意気投合しムーミン谷の夜は更けていった。
…もっとも父さんのあの様子だと、シャーロキアンじゃなくても「有希子さんのご子息」と言う段階で無理矢理にでも意気投合させそうな勢いだったけど。
やれやれ、と思いながら、大盛り上がりかどうかは疑問だが、盛り上がっている男たちの間に酒につまみにといそいそ準備をしていった。

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