Detective Conan


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stock-永遠の恋-


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「ごめんくださーい!名前ちゃんが婿さん連れて帰って来たってー!?」
「…嘘だろ、これで4人目だぜ…」


実家に帰って来たと言っても、うちは両親共働きで平日の昼間は誰もいない。
なんだなんだ、と少し肩透かしを食らったかのような新一くん。
…そこで終わらないのがムーミン谷の怖さだ。


「いやー!ほんっと、べっぴんさんになって!」
「おばちゃんも相変わらず若いね」
「またまたこの子ったら都会に行ってすっかり口が上手くなったんだから!」


あらいやだよ名前ちゃん。なんて言う1人目のおばちゃんが我が家に出現したのが今から30分前の、私たちが実家に到着してから5分後のこと。
どうやら村の放送局は「あの苗字さんちの名前ちゃんが都会から婿を連れてきた」と吹聴したらしい。
それを聞いたおばちゃんが手土産持参で、噂の婿殿の顔を拝みに来たわけだ。


「で!?で!?婿さんは!?」
「おばちゃん、私まだ結婚するわけじゃ、」
「この人だよ!この人!」
「あらやだ!えらい男前のお兄さん連れて来たのね!!あなた名前は!?」
「あ、俺は、」
「工藤新一くんて言うのよ!あんたは知らないかも知れないけどあの工藤優作の息子だって!」
「え?工藤優作って誰?」
「あ、父は、」
「ほら、小説家やってる!」
「あ〜…、なんか聞いたことあるような…。どんなの書く人なの?」
「そんなの読んだことないからわかるわけないじゃない!」
「「「あははははー!」」」
「は、ははっ…」


その後20分前に1人、また1人と増え、現在我が家の居間は見世物小屋と化していた。
チラッと新一くんを見ると、笑ってはいるものの、明らかに顔を引きつらせていた。


「ねぇおばちゃんたち。そろそろ父さんが帰って来るから、」
「えぇ!?もうそんな時間!?」
「あらやだ!すっかり話し込んじゃって!」
「ごめんね、父さん賑やかなの嫌いな人だから」
「いいのよー!あの子は昔っからそういうところあったから!」
「昔と言えばあの子小学生の時に、」
「おばちゃんほんとにそろそろお開きにしようか」


どうしてこうも「田舎のおばちゃん」という種族は話がどんどんとそれて行く生き物なんだろうか…。


「じゃあ婿さんと仲良くね!」
「ありがと」
「名前ちゃんと、このお兄さんの子供なら可愛い子が生まれるだろうねぇ」
「そうだといいね」
「早くお父さんお母さん安心させなさいよ!」
「考えとく。じゃあね」


ガラッ、と玄関の戸−実家近辺は主に引き戸−を閉め後ろを振り返ると、ずるずると床に座り込む青年の姿が見えた。


「俺この村嫌いになりそ…」
「まぁ希薄な都会のつきあいが当たり前のキミにはキツイよね」
「東京生まれじゃなくてもアレはねぇだろ!?」
「そう?アレはもうあぁいう生き物だと思ってれば可愛いものだよ」
「どこがだよ…」


あり得ねぇ…、と頭を抱える新一くん。
ムーミン谷の洗礼は思った以上にキツかったようだ。


ピンポーン


「まだ来んのかよ…!」
「まぁまぁ、そう言うな。おばあちゃんが生きてたらもっと凄かったと思うから。…はーい、どなたですか?……千紗!」
「名前!ほんとに帰って来てたの!?」
「え、え、何、どうした?だって関西の方で仕事が、」
「ちょっといろいろあって辞めたちゃったんだー。で、こっちに戻って来たってわけ!…ずっとメールも返さなくてごめんね」
「…誰?」
「え?あ、あぁ…、えぇっと、」
「初めまして、小林千紗です。名前のー…幼馴染?ってところ?」
「あ、初めまして、工藤新一です。…オメー幼馴染いたのか?」
「うーん…、キミと蘭ちゃんのように生まれた時から一緒にいたわけじゃないけど、小学校の3年の時に千紗が引っ越してきて、それからお互い大学で上京するのも一緒で就職した時に私が東京、千紗が大阪に行くってなって離れたから」
「名前とのつきあいはきっと、この村の中で1番濃いと思うよ」
「…1年以上全く音沙汰なかった人間がよく言うよ」
「だからこうして会いに来たんじゃない」
「寄ってく?」
「んーん、またにする。どうせしばらくいるんでしょ?」
「そうだね。3泊はするつもり」
「ならまた会いに来るよ。噂通りイケメン婚約者ともゆっくり話しがしたいし」
「どこらへんで婚約者になったわけ?」
「うーん、と、西村のおばちゃんのところまでは都会の彼氏だったんだけど、その後の井上のおばちゃんあたりから都会の婚約者になった?」
「イケメンてのは?」
「あ、さっき入れ違いで会ったおばちゃんたちが『若くてテレビに出てそうな男前でもう10年若かったら自分が嫁になってた』って騒いでたよ」
「は、ははっ…」


友人・千紗の証言を聞き、本日何度目かの引きつった笑顔を見せた新一くん。
この顔はきっと「もう10年若かろうが相手にしねぇよバーロォ」ってところだろう。
その後友人とは後日会う、ということで話が纏まり、この日は解散となった。


「もう10年若かろうが相手にすっかよ、バーロォ」
「…なんだか自分が怖い」
「は?」
「まるでエスパーになったような気分だよ」
「はぁ?」


ほんとにぐったりしながら、見事私の予想通りの言葉を口走る新一くん。
なんて可愛い奴だ。
新一くんにとりあえず、と、お茶を出した時、


「ただいま」


母さんが帰って来た。

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bkm

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