■73
「え?今日あちらに戻られるんですか?」
「ええ!2人の擬似新婚生活を邪魔できないものー!」
私の引越し当日。
工藤家手配の引越しセンターに荷物の搬入を任せている間、有希子さんと話していたところ今日ロスに戻ると言われた。
てゆうか引越しセンターに任せるほど荷物もないし、荷解きまで頼むほど大変なわけでもないのになんだかほんとに申し訳ないお金の使い方をさせている気がする。
…払ってくれるって言うんだから払ってもらうけど。
「なんだかすみません、急かしてしまったようで」
「いいのいいの!不束な子だけど新一をよろしくね」
「…はい」
きっと世間じゃ逆だと思う。
うちの親が、相手の男に言う台詞なんだと思うけど、どうして私たちの場合は男女逆転が生じるんだろう。
「まぁ、今さらだけどね」
「何が?」
「こっちのこと」
私の引っ越しに我関せずとコーヒーを飲んでいた新一くんがツッコミを入れてきた。
この態度だけ見てるととてもへタレだとは思えないんだけどな…。
「では名前くん、うちの伜を頼む」
「…任せてください」
「名前ちゃんが頼もしいから私たちも安心してロスに行けるわ!」
そりゃーこのヘタレより頼りにならないと言われたら私が凹むわ…。
seeyou!と投げキスを飛ばしながら、工藤先生と有希子さんは一陣の風になってロスに去っていった。
「来る時も賑やかだけど、去る時も賑やかな人だったね」
「…悪かったな、煩くて」
「あぁ、いいのいいの。なんかもうそういうもんだって受け入れてしまうようなキャラだよね」
「…」
そういう風に人に受け入れられる人だったから、大女優になれたんだろうけど。
「引越しソバ食べるか?」
「キミが作ってくれるの?」
「…出前だけど」
「私、」
「あん?」
「キミの料理が食べたいなぁ…」
「え、」
「例え茹で時間が足りなかろうが、繋がったネギが出てこようが文句言わないから」
「…それが既に文句言ってんだって気づいてっか?」
「あ、でも生姜は摩り下ろして」
「聞いてねぇし」
「やっぱりチューブの摩り下ろし生姜より、自分で摩り下ろした方が旨味があるよね」
「はいはい。どーでもいいけど、俺が作るんだったらスーパーに食材買いに行くぞ?」
「…」
「なんだよ?」
「キミ熱でも出た?」
「…はあ?」
「だってこんなに素直にキミが料理をするとは…!」
「あのなぁ、俺をなんだと思ってるわけ?…まぁオメーらしくていーけど。ほら、行くぞ」
結局、湯がくだけの麺とすでに切れてるネギの袋を買った。
−俺をなんだと思ってるわけ?−
だからそれをはっきりさせようとしてるんじゃないか。
わざわざ引っ越してまで。
トントン
「はいー?どーかしたか?」
「キミに聞きたいことがあって来たんだけど」
「聞きてぇこと?…まぁ、入れよ」
お風呂上がり、新一くんの部屋に行ったらあっさり部屋に通された。
…この子、こういうことには抵抗ないんだな。
「で?聞きてぇことって?」
「ああ、うん。大したことじゃないんだけど一応確認しておこうと思って」
キミの意識に。
「確認?何を?」
「私とキミの関係は何?」
「………はっ?」
「1番、友人。2番、大家と居候。3番、恋人。4番、赤の他人」
「は!?え、な、何、」
「4択ね。この中のどれ?」
1本ずつ指を立てながら新一くんに尋ねる。
この期に及んでもまだすっとぼけたポンコツ回答したらその頭バリカンで刈り込むぞ。
そんな思いで少しずつ顔を赤くさせる新一くんを見ていた。
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bkm