Detective Conan


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stock-永遠の恋-


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「…何ニヤけてるんですか?」
「ニヤけてなんかいないわよ、失礼ね」


宮野さんの話を聞いて考え込んでいた私を尻目に、宮野さんは口の端を持ち上げコーヒーを飲んでいた。


「じゃあ何笑ってるです?」
「…別に?」
「思い出し笑いは他人から見たら気色悪いだけですよ」
「…」


宮野さんの入れるコーヒーはほんとに苦い。
客用に砂糖やクリープを出してほしいものだ。


「あなた見てるとおもしろいわ」
「…はあ?」
「毛利さんと対称的すぎて」
「…ああ」


顔良し、頭良し、性格良しのあの子と顔人並み、頭普通、性格普通よりむしろ悪い私を比較したらそりゃー真逆だろう。


「それで?」
「はい?」
「平成のホームズのパートナーは彼のトラウマを聞いてどうするの?」


そこなんだよ。
どうするって言ってもなぁ…。


「まぁ…、自力で超えてもらうしかないトラウマなんで…」
「そうね。あなたじゃどうすることもできないわね」
「…まぁ宮野さんにもどうすることもできなでしょうけどね」


掴み損ねた幸せに対するトラウマ、か…。
対処法として考えられることは、


「あ、宮野さんもう向こうに戻るんですよね?」
「ええ。明日」
「メルアド教えてください。彼に何かあったらメールします」
「…教えてもいいけど、気軽にメールして来ないでちょうだい」
「大丈夫ですよ。彼に何もなかったら一生メールしませんから」
「…」


まぁ…、工藤先生や有希子さん、それからまだ見ぬここの博士とやらも2人のことを知ってるんだから、私が今さら聞く必要もないんだろうけど。
でも何かあった時、私だけ蚊帳の外になるのは御免だ。
無鉄砲に事件に首をツッコむあの子のこと、同じようなことだって起こりかねない。
…そう考えたら以前来た西の名探偵にも連絡先聞いておくんだったな。
………いや、あの子はいいか。


「お、お帰り。灰原と話し合いは終わったのか?」
「ただいま、お陰さまでね」


一緒に住んでいるわけじゃない。
ただ荷物が工藤家にあったから、工藤家に帰ってきただけの話。


「なんだよ?」
「不憫な奴だなぁと思って」
「…はあ?」


幸せを掴むことへ対する躊躇いと恐怖。
…この子が世間一般の高校生だったのなら、感じ得なかっただろう思い。
最も世間一般の高校生なら私といなかったか。


「あら、じゃあ名前ちゃん、志保ちゃんと会ってたの?」


何故か今日も工藤家で夕飯をお世話になることになり、工藤先生と有希子さんとともに夕飯を頂いてる。


「はい。私が言うのもなんですが、歯に衣着せない随分な物言いをする人ですよね」
「…ほんとオメーが言うんじゃねぇよ」
「キミなんか言った?」
「別になんもー」


でも、彼女も私と同じ。
この子の隣には蘭ちゃんこそが相応しいと思って逃げ出した。
どんなに口が悪くても、あの子は嫌いになれないだろうなぁ…。


「それで何話してたんだよ、灰原と」
「別になんもー」
「…何真似してんだオメー」
「あれれー?ここに置いてたソースが無いぞー?おっかしーなぁ」
「…それ、やめねぇか」
「え?何が?」
「…」


新一くんがあからさまに不機嫌そうな顔をした。
うん、これでもう問い詰められることはないだろう。


「あ、そうだ。工藤先生、有希子さん」
「なんだい?」
「なぁに?」
「軽井沢に行く前に少しお話出ましたが、私またこの家に居候させていただいてよろしいですか?」
「…はっ!!!?」


拗ねてたはずの新一くんが真っ先に反応した。


「は!?え!?い、居候って!?」
「居候は居候。ダメでしょうか?」
「あら、私たちは全然大丈夫よ!むしろまたロスに戻るしこっちからお願いしたいくらいだわ!ねぇ、優作?」
「そうだね。料理もロクにできない息子を1人残していくのは心配で心配で」
「またロスに行かれるんですか?」
「ええ!あっちでの仕事もあるのよ」
「…有希子さんは引退されてから専業主婦になったと伺っていましたが」
「たまに向こうのテレビ局に呼ばれるのよ!」


世界的な大女優ともなると引退してからも引っ張りだこなんだろうか…。


「ですが工藤先生は、」
「ああ、名前君の出版社とはメールで頻繁にやり取りをすることになると思うよ。大丈夫、契約したからには君に恥を掻かせるような真似はしないさ」


バチン、とウインクする工藤先生。
ぶっちゃけこういうことが平気で出来る男は胡散臭くて嫌なんだけど、工藤先生がやると嫌味がない気がするから不思議だ。


「じゃあお引越しは明日ね!」
「それは無理です。仕事がありますから」
「あら、住所教えてくれたら引越し業者さんにお願いしておくから大丈夫よ!」
「…いえ、そんなお金は」
「いやぁねぇ!私が出すに決まってるじゃない!!」


1度でいい。
この人のように無駄に金を使ってみたい。


「ち、ちょっと待てよ!なんだよ、居候って!!」
「…キミまだそこで立ち止まってたの?」
「はあ!?なんだよその言い方!大事なことだろ!!?」
「私キミと一緒に暮らしたいの。ダメ?」
「………えっ!?い、いや、別にダメ、ってわけじゃ」
「じゃ、そういうことで!それで有希子さん、引越しは」
「ええ!今から電話してみて」
「だからちょっと待てってっ!!」


その後有希子さんとあーだこーだ引越しのことについて話し合いをして、次の休みに引っ越すことで落ち着いた。
その間赤い顔して頭を抱えていた新一くんに工藤先生が何か話しかけていたようだけど、余計顔を赤くして終わったようだ。
…掴み損ねた幸せに対するトラウマの対処法として考えられること。
それは壊れない幸せを彼に見せること。
って、言うと大概私の頭もオメデタイと思うけど。
絶対に壊れないものなんて、この世には存在しないのだから。
でもそれしか方法が浮かばないんだから仕方ない。


−夢を見た日はいつもは眠れなくなるけど、この間、名前さんがずっと手握っててくれたら、熟睡できたんです−


別に一緒に住んだからって、一緒のベットで寝るわけじゃないけど。
それでも、彼が熟睡出来る日が1日でも増えたらいいと、心から思う。

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bkm

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