Detective Conan


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stock-永遠の恋-


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「言われて見ると面影ありますね」
「…なんの?」
「灰原哀ちゃんの」


新一くんからの衝撃発言の翌日。
どーーーーしても!!
もう1度会っておきたいと新一くんに頼み、宮野さんと2人で会う時間を作ってもらった。


「…あのお喋りあなたに言ったのね?」
「新一くんは私に嘘つけないですから」


宮野さんが心底めんどくさそうにため息を吐いた。
そりゃそうだろう。
あんな秘密ベラベラ話された日には、彼女の性格なら一瞬で血圧が上がるってもんだ。


「それで?わざわざそれの確認に来たの?」
「まさか。それだけのために来るほど暇人じゃないんで」
「随分と暇そうに見えるけど?」
「忙しい忙しいと言ってる人間より余裕そうに見える人間の方が安心感ありません?」
「暇と余裕は違うわ」
「この場合は同義語です」


…てゆうかこの子私より年下なんだよね?
なんで敬語なんだろ私。
…雰囲気か。
新一くんにはない雌豹のような雰囲気か。


「じゃああなた何しに来たの?」
「少し聞きたいことがあって」
「何かしら?」
「APTX4869の解毒薬は本当に完成しているんですか?」


それまで私とは目を合わせようとしなかった宮野さんが、しっかりと私を見据えた。


「どういう意味?」
「言葉通りです」
「完成してないって言いたいの?」
「そういう意味ではないんですけどね」


組織のこと、毒薬のこと、いろいろ聞いてから思ったことを、どうしても自分自身で確かめたかった。


「宮野さん、新一くんと寝た時あります?」
「…あなた喧嘩売ってるの?」
「ええ、少しだけ。先日のお返しです」
「…」


明らかに宮野さんのコメカミに血管が浮き出た…気がした。


「新一くん、今も魘されてるんです」
「え?」
「また小さくなるかもしれない、って。…そのこと知ってました?」
「…」


宮野さんがその綺麗な顔を驚きの表情で飾った。


「工藤くんがそう言ったの?」
「ええ。震えながら」
「…」


宮野さんは何か考えるような素振りをした。


「信じられないわ…。あの工藤くんが」
「…宮野さんのこと信じてないわけじゃないけど、朝起きて真っ先に自分の体を確認するって言ってましたけど?」
「…工藤くんが…」
「本当に解毒薬が完成されているなら、彼は何をそんなに怖がっているんですか?」
「…」


…新一くんの話だと、宮野さんは半分外国の血が混ざってるんだとか。
そうだよなぁこの作りなら。
そう思えるほどの綺麗な顔立ちだ。
…茨城と岐阜のハーフの私とはわけが違うわ。


「…あなたは知らないでしょうけど、」
「え?」
「工藤くん、江戸川コナンになってからも度々、未完成の解毒薬で元の姿に戻ってたのよ」
「…ああ、なんか小耳には挟みましたよ。失踪した高校生探偵が自校の文化祭に現れ颯爽と事件解決したとかしない、とか」
「…人の噂に戸は立てられないものね」
「それが人間ですから」
「…未完成の解毒薬を使ってでも彼が工藤新一に戻りたかった理由はいつも同じ」
「…蘭ちゃん、ですか?」
「…」


宮野さんはただ黙ってコーヒーを口に含んだ。
それが答え。


「APTX4869はプログラム細胞死アポトーシスを誘導するとともに、テロメアーゼ活性によって細胞の増殖能力を高める。投与された場合、エネルギー消費を伴うアポトーシス作用によって強い発熱を伴い、骨が溶けるかのような感覚に襲われた後、通常は死に至り死体からは何も検出されないが、ごくまれにアポトーシスの偶発的な作用でDNAのプログラムが逆行し、神経組織を除いた骨格、筋肉、内臓、体毛などのすべての細胞が幼児期の頃まで後退化することがある。…これが当時わかっていたAPTX4869のデータ」


正直なところここまでスラスラわけのわからない単語を並べられても、さっぱりなわけだけど。
かいつまんで話すと、APTX4869は普通に飲めばそのまま骨が溶けて死ぬけど、稀に幼児化して助かる人間がいた。
それが工藤新一と、宮野志保、ってことだろう。


「その薬の未完成の解毒薬、ということはもちろん、」
「命の危険すら、伴っていた…?」
「…解毒剤の効果が切れ、元に戻るタイムリミットが近づくにつれて呼吸が荒くなり、目もうつろになり激しい動悸に襲われる。…あの痛みは経験したものにしかわからないわ。それでも…」
「蘭ちゃんのために、工藤新一に戻った」


それも宮野さんの口ぶりだと1度や2度ではなく、何度も。


「結局あの時の彼の苦労が全く報われることがなかったようだから、この世に神様なんていないってことね」


ああ、なるほど。
ようやく理解できた気がした。
彼があそこまで怖がっていた理由。
自分の不注意で掴み損ねた幸せは、目の前に再び現れても結局掴むことができなかった。
ただ小さくなることが怖いんじゃない。
また、同じ思いを繰り返すことが怖いんだ…。
もしかしたらすぐそこまで差し出されていた蘭ちゃんの手を取り損ねた自分を、無意識で責めているのかもしれない。
昔の彼を見ていたらわかってはいたことだけど、なんというか…。
他人から聞くと意外と効くな…。


「まぁ神様がいなかったから、今あなたといるんでしょうけどね」
「そうだねー…。せめて天使くらいいたら宮野さんといたかもしれないのに世知辛い世の中だね」
「…あなた大概口が悪いわね」
「宮野さんには負けるけど」
「…」


蘭ちゃんのことは、ケリはついたのかもしれない。
でも「過去の蘭ちゃん」は今も彼の中で大きなウェイトなんだろう。
特に男女間特有のゴタゴタがなかった分、思い出が美化され残るだろうし。
彼の中で私が「過去の蘭ちゃん」を超えられる日は来るんだろうか…。
ケリがついた後も相変わらずあの子は、目の上のたんこぶだ。
宮野さんが入れてくれたアイスコーヒーは今日も、苦い苦い、味がした。

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bkm

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