Detective Conan


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stock-永遠の恋-


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「…母の、お見舞い、ですか?」
「そう。…弟さん、誕生おめでとう」
「ありがとう、ございます」


自分で言うのもなんだけど、明らかに部外者の私がここにいるってことは、彼女には何かしら思う部分があるんだと思う。
…この子も新一くん同様、頭の良い子だし。


「お1人、じゃ、ない、ですよ、ね?」
「…うん」
「…新一と一緒、ですか?」
「彼と、というより工藤家の人たちと、一緒」
「…おじさんたちと…」


そう言って、蘭ちゃんは黙り込んだ。
めでたい出産の場が、とんだ厄介者の出現で台無しってところだろう。
我ながら、よく来たものだ。
いくら有希子さんに誘われたからとはいえ、その図太さに自分で自分に呆れる。


「じゃあ私、これ病室に持っていくから」
「名前さん」
「うん?」
「…少し、いいですか?」


めでたい出産の場が、修羅場と化すんだろうか。
いやでもこの子はどちらかというと本能で動く毛利さんと違い、理性がんじがらめな妃さんの血を色濃く引いてそうだからそこまで悪化しないか?
どっちにしろ、いつかは私も話し合う時が必要だったんだろうし、それがたまたま今日になっただけ、だ。


「こんなところで聞くのもなんだけど、」


運の良いことにお昼の片付けも終わり、食堂には誰もいない。
夕飯の時間も、まだ先だ。


「私前、肝心なこと聞き忘れてたから…」
「肝心なこと?」
「以前は、新一とつきあってるのか聞いたんですけど、」
「…そう言えばそうだったね」
「…名前さん、は、」


俯き加減で憂いを帯びながら話すこの子は、本当にどこぞのお姫さまのようだ。


「新一のことが、好き、ですか?」


優しく凛々しく、誰からも愛され、誰にもでも分け隔てなく愛情を注げる。
どうして「彼」は、このお姫さまを選ばなかったんだろうか。


「ごめんね、蘭ちゃん」
「…」
「でも、誰よりも好きだよ」


ずっと逃げていたこと。
それがたった一言口にしただけで、こんなにも気持ちが楽になるんだ、って知った。


「良かった」
「…え?」


泣くかなぁ、とか。
凹ませちゃうだろうなぁ、とか。
自分で言っておきながら何を言うって感じなんだけど。
でも、そんな心配をしていたら、蘭ちゃんが顔を上げ、柔らかく笑った。


「新一、1人で騒いで相手にされてないんじゃないかって、心配だったから」
「え?」
「…私、フラれたんです。…ううん、フラれる以前の問題かな」
「…フラれる以前の問題?」
「告白すら、させてもらえなかったから」


蘭ちゃんは、強い子だ。
決して涙を見せない。
でも、苦笑いしてるその顔が、すごく泣いているように見えるのは、どうしてだろう。


「名前さん、新一と警視庁に行く日に会ったの覚えてます?」
「え?あ、ああ、あったね、そんなこと」
「名前さんが先に行った後、新一が慌てて追いかけて行こうとしたんです」
「…うん」
「あの時私呼び止めたんです、新一を」
「…」
「…その時に新一に言われたんです。…あの人」


水の入ったボトルは、手の中でずっしりとその存在を主張している。
ボトル越しにひんやりと冷たさが伝わった。


「名前!と、蘭!?」
「あ、新一も来てくれたんだね!ありがとう!」


なかなか戻って来ない私を、新一くんは迎えに来たようだった。


「…えーっと、俺達そろそろ帰るかって話が」
「ああ、うん。…新一、コナンくん見た?」
「え?あ、ああ」
「…うちにまた、コナンくんが帰ってきたんだよ」
「…」
「新一がいない時、いっつも私を守ってくれた」
「…」
「今度は私が守ってあげなきゃね!」


物語のお姫さまは、か弱くて頼りなくて、王子さまを待っている子たちばかり。
でも実際は、強くて脆くて凛としていて儚げなんだ。


「あの子は絶対良い女になるよ」
「…」
「もうなってるけどね」
「…」
「キミやっぱり戻るなら」
「ソレ、もうとっくに済んだ話のハズだけど?」


物語の王子さまは、強くて正義感に溢れ、可愛いお姫さまを守る存在。
でも実際は、へタレで生意気で真っ直ぐで頑固な少年だった。


−あの人普段は強がってるけど、ほんとはすっげぇ弱い人で、他の誰でもない、俺が守ってやんねーとダメなんだよ−


太陽がだいぶ傾いた空を見ながら、病院を後にした。

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bkm

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