Detective Conan


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stock-永遠の恋-


6


「苗字くん、最近何かあったのかい?」
「え?」
「楽しそうに見えるけど、良いことでもあったのかな?」
「全然。しなくていい苦労が増えました」


家庭科能力ほぼゼロな工藤新一の家庭科教師と化してから、疲労が隠せない。
工藤先生のお宅はきっと蘭ちゃんと言う名のハウスキーパーを雇っていたに違いない。
そのくらいあの少年は何もできなかった。


「あ、工藤くん?今終わったからこれからそっち行く」
「てゆうか」
「うん?」
「いい加減公衆電話じゃなく名前さんの携帯からかけてきたらどうです?」
「そんなことしてうっかり番号バレたら困るもの」
「…」


幸いなことに工藤家と私の職場はかなり近い。
取材に行かなくていい時は職場からすぐに行ける。
…じゃなかったらやってられるか。


「日本茶の煎れ方もうまくなったね」
「そりゃあれだけぎゃーぎゃー言われたらうまくなるだろ普通」
「口の聞き方」
「…うまくなりますよ」


この生意気なお坊っちゃんは最近私にやたらフランクになってきた。
素が出るというか、口が悪くなる頻度が高くなった。


「そーいやこの間園子にオシャレに目覚めたかって言われましたよ」
「…ソノコって誰?」
「蘭の親友」
「へぇ〜」


そういや蘭ちゃんと同じ学校って言ってたし、彼女の親友と会う機会もあるんだろう。
微妙な関係だよな…。


「…蘭を」
「え?」
「最近、蘭を見ても何も思わなくなりました」
「そう」
「まぁ、まだ本堂見ると蹴り飛ばしたくなるけど」
「…キミ、ホンドーくんをかなり下に見てるよね?」
「え!?いや、そんなことは」
「そうやって人を見下すから、ある日見下したハズの人から見下されるんだよ」
「…名前さんて、たまにピンポイントで痛いとこついてきますよね」
「キミより長生きしてないからね」
「たかが5〜6年の違いだろ?」
「その違いが人を人にする時間を作るんだよ」
「…」


でもまぁ、アレだけ蘭ちゃん蘭ちゃん言ってた男が、本人見ても何も思わなくなったってだけ成長の証か。
結構なことだ。


「で?」
「はい?」
「宿題」
「ああ…。ちょっと待っててください」


あまりにも家庭科能力ゼロすぎる工藤新一に、会うたび宿題を出した。
今日の宿題はりんごの皮むき。
おっそろしーことにこの少年、包丁は学校の調理実習で握っただけってぬかしてた。
お坊ちゃんもここまできたら本物だ。


「はい、どうぞ」
「なにこれ」
「りんごです」
「…どこらへんが?」
「見るからにりんごでしょう!」
「食べるとこないじゃん」
「ここに実が残ってんだろ!!」
「キミこんなりんご客に出して恥ずかしくないの?」
「オメーが出せって言ったんだろ!!」


なんとも無残なりんごが工藤家の煌びやかなテーブルの上に乗せられた。
…酷すぎる。


「どういう包丁の使い方したらこうなるわけ?」
「オメーが言った通りにやったらこうなったんだよ!」
「もう2度とここに来なくてもいいんだけど」
「…名前さんが言った通りにやったつもりなんですけどね!」
「それはまずあり得ないわ」
「…」


この実より皮の方が分厚いりんごをどう修正して行けばいいってんだ…。


「キミ蘭ちゃんにほんとーに感謝しなよ?今までキミが生きてこれたのは蘭ちゃんのお陰なんだから」
「…わかってますよ」


ほんとにわかってんのかよ。
わかってたら、蘭ちゃんが選んだホンドーくんを認めてあげろってんだ。


「これからは名前さんに感謝しながら生きていきます」
「当然でしょ。足向けて寝たらこの家火つけるから」
「…」
「でも、」
「え?」
「包丁使うようになっただけ進歩?」
「…ありがとうございます」


人にはアメとムチの使い分けが必要だ。
特にこのお坊ちゃんは今までアメしか与えられてこなかったようだから、ムチの後のアメのやり忘れには気をつけないといけない。
ペットも餌付けの仕方を間違えたら大変なことになる。
それと一緒だ。


「じゃあ、今日も宿題はりんごの皮むきね」
「もう大丈夫ですよ」
「…食べ物粗末にするともったいないお化けが出るって習わなかった?」
「非現実的なことは信じない主義なんで」
「キミもっと夢見た方がいいよ。リアリストは時に嫌悪される」
「オメーが嫌いなだけだろ」
「うん」
「…」
「もったいないお化けが出るから、もっとりんごの皮むきうまくなった方がいい」
「へぇへぇ」
「…」
「ってぇなっ!何すんだよっ!!」
「あ、組み替えただけのつもりだったんだけど、足長くてごめんね。」
「今明らかに蹴り飛ばしたじゃねーかよ!!」
「じゃ次回は、このりんごの皮が切れそうなほど薄くなるくらいに上達してから呼んで。解散」


本日の授業終了で家に向かう。
ああ、さすがに夜もどっぷりだわ。
仕方ないか、仕事帰りだし。


「名前さん」
「え?」
「送ってきます」
「え、いらない」
「…夜、女性の1人歩きは危ないんで」
「キミほんとに私が危ないと思ってそう言ってる?」
「思ってますよ」
「そう、気持ちだけいただいとく。解散」
「だから送るって言ってんだろ!」
「いらないって言ってるでしょ」
「なんでだよ」
「家バレたら困るし」
「…オメーは俺をどういう風に思ってるわけ?」
「常識外れの生意気なお坊ちゃん?」
「…よーくわかった」
「じゃ、そういうことで!」
「車」
「え?」
「親の使ってないBMWあるから送ってく」
「キミ免許は?」
「誕生日来てソッコー取った」
「…今いくつだっけ?」
「18だけど?」
「私まだ死にたくないから歩いて帰るわ。解散!」
「あ、おいっ!」


初心者マークつけたBMWに誰が乗るか。
夜空を眺めながら、少し離れたところからついてくる足音とともに家路についた。

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