Detective Conan


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stock-永遠の恋-


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「…んっ」
「ああ、気がつかれましたか?」
「…首が異常に痛い」
「ええ、そこ殴りましたから」


声のする方を見ると、月をバックにゆらゆらとマントを揺らしながら手すりに立っている大怪盗がいた。
この感じからどこかの屋上らしい。
どこの屋上かわからないけど。


「私今頃万座の屋上露天風呂で有給消化してる予定だったんですが」
「…」
「どういうことなのかもちろん説明していただけるんですよね?」
「…」
「怪盗キッドさん」


口の端を持ち上げて笑うキッド。
その表情からはやっぱり何を考えているのか掴めない。


「…なんで犯行現場に呼び出されたんですかね、私」
「なぜって、そりゃあ」
「そりゃあ?」
「恋しい女性に逢いたいと願ったからですが」
「…」
「…」
「…」
「…」
「じゃ、帰ります」
「まぁまぁ、まだ夜は始まったばかりですよ?」
「いえ、いっそこれから万座に向かうんで」
「工藤くんとですか?」
「…別にあなたには関係ないことだと思いますが」
「おや、随分とつれないことを言われるんですね。そのつれない態度に私の心が涙を流してしまう」


天下のキザ怪盗と言われるだけある。
さっきから耳が鳥肌を立て始めてるわっ!


「なんの冗談かわかりませんが、こういうことはもう金輪際止めていただけません?」
「それは何故?」
「迷惑以外の何物でもないからです」
「あなたは本当に歯に絹着せない方ですね」


何がおかしいのかくすくすとキッドが笑う。
遠くに、パトカーのサイレンが聞こえた気がした。


「以前、あなたになるとおもしろそうだ、と言ったこと、覚えてらっしゃいますか?」
「え?ええ、まぁ」
「あれ、訂正します。あなたになると、ではなく、あなたといるとおもしろそうだ」
「…工藤くんをからかえて、ですか?」
「そこはまぁ、否定はしないですけどね」


しないのか、大怪盗。
むしろしてあげてほしかった、新一くんのために。


「あなたは例えるなら原石、ですかね」
「…原石って年でもないですが」
「ご冗談を、麗しいお嬢さん」
「…」
「私が狙うビッグジュエルの中でも、とびきり輝く可能性のある原石、というところですかね」
「…私あなたに何しましたっけ?」
「あなたがご存知ないだけで、とても楽しい一時を過ごさせていただきましたけど?」
「…え?」
「私はいつでも、あなたとともにありますから」


意味がわからないのは私だけだろうか。
楽しい一時?
いや、この人と会ったのはこの前のトイレで眠らされた時だけだし。
あ、でもその後、姿は見えないけど助けられたんだっけ?


「そう言えば、」
「はい?」
「その節は助けていただいてありがとうございました」
「…え?」
「あのトランプ、あなただって聞いたから」
「…ああ。あれはあなたの姿になってご迷惑をおかけしたほんのお詫びのつもりです」


真っ白い手袋で人差し指を立てて私のクチビルに触れてきた。
…この人いつの間にこんな近くに来たんだ?


「あの時の怪我は大丈夫でしたか?」
「え?ええ」
「あなたが心配で心配で夜も眠れないかと思いましたよ」
「…私あなたにそういう風に言われる覚えは微塵もないんですが」
「…ほんと、つれない人ですね」


指を離してフッと笑うキッドの横顔が、誰かに似ている気がした。
…でも誰に?


「…ああ、そろそろタイムオーバーですね。ここに降りるまでに随分と目撃されてしまいましたし」


いつの間にか、パトカーのサイレンがすぐ近くでうるさいくらいに鳴り響いていた。


「またいらしてくださいね、私の予告状の先に」
「…私男の呼び出しを気軽に受けるような女じゃないんですけど」
「知ってます」
「だいたいキザな男、大嫌いなんですけど」
「私は気の強い女性、好きですよ」
「…」
「…」
「キッドーーっ!!」


バタン!と屋上の扉が開いたかと思ったら、新一くんの声が聞こえた。
ああ、良かった、そう思って新一くんを見た瞬間、顎を掴まれた。


「では、またお会いしましょう?月明かりが、あなたまでの道を照らし出してくれた夜に」


ちゅっ、と、この場に不釣合いなくらい軽快な音がクチビルから響いた。
全く持って良くわからない。
良くわからないけど、1つだけわかったこと。
何の嫌がらせか、キザな大怪盗は新一くんから私を標的にしたらしい。
そして新一くんをからかうようにキスして去っていった。
新一くんの目の前で。
それだけはわかって、背後からの素人の私でも感じる殺気にこの後どうすればいいのか真剣に頭を抱えた。

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bkm

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