Detective Conan


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stock-永遠の恋-


55


「さすが最上階。絶景だね」
「…」
「あれ浅間山かな?」
「…」
「天気もいいし、良く見える」
「…」
「…いい加減独り言も虚しいんだけど」
「…放っといてください」


私が入ってから5分は経ったかなって時。
アイツやっぱり入って来ないか、なんて思い始めた頃、ようやく工藤くんは入ってきた。
…は、いいんだけど、


「いつまでそんな隅っこにいる気?」
「だから俺のことは放っといてください」


檜風呂の檜と一体化しようとしていた。
…キミなんのために赤い顔してまで入ってきたの。


「そこ、影になってて景色見えないでしょ」
「…」
「ほら」
「…え、」
「せっかく来たんだから楽しみな」


隅っこから動かない工藤くんに、手を差し伸べる。
当たり前だけど、動きはない。
…この子には旅先で開放的になるという言葉は通用しないらしい。
わかっていたけど、もう少し何かを期待していた私がいたのも事実で。


「キミ、」
「…なんです」
「女に恥を掻かせるなってお父さんから習わなかった?」
「…」


世間一般じゃ男に恥を掻かせるなって言うけど、あの工藤先生ならそれくらい言ってそうだ。


「…オメーに1つ聞きてぇんだけど」
「なに?」
「オメーには恥じらいとかねーのかよっ」


あるからキミの前でキムチ鍋食べなかったんだろうがっ!
なんて、言わないけどさ。


「そりゃあ私だって、」
「うん?」
「全く知らない人だったら絶対こんなことしないけど、キミだから一緒に入ってるんだけど?」
「…え、」


うわ、その心底驚いてますって顔、地味に傷つく…。
キミは私をどんな女だと思ってるんだよ。


「まぁそこにいたいなら止めないけど」


パシャン、と音を立てて工藤くんに背を向けてお湯に浸かる。
ここまで来てこれか…。
この子ほんとに私とどうにかなりたいと思ってるわけ?
いや、この子なら思ってないのかもしれない。
私は毎回毎回キミの家に行ってご飯作る家政婦じゃねーっての。
ああ、今までの蘭ちゃんの苦労が手に取るようにわかるわ…。


「あれ浅間山だろ」


ぐるぐる考えていたら声が上から降ってきた。
声のした方に顔を向けると僕照れてます!と言う顔の工藤くんと目が合った。


「んだよ」
「…キミ地理も得意なんだ」
「普通だろ?このホテルの位置とおおよその高さでわかる」
「そう」


檜と一体化するのを止めた工藤くんは私の隣に来た。
…まぁまだ距離あるけど。
それでもまぁ、ここに来ただけ良しとしよう。


「天気良くてよかったね」
「おー」
「私意外と雨女なんだけど」
「おー」
「でも今日は晴れて良かった」
「おー」
「…おい、こら聞いてんのか」
「聞いてるからそれ以上こっち来んなっ!」


ない。
それはないぞ、工藤新一。
こっち来んなってどういうことだ。


「キミさぁ、」
「なんだよ」
「今キミのキャパ超えのことしてるのは重々承知してるけど」
「…」
「もっと言葉選んでくれないとさすがに傷つくんだけど」
「え、」


一緒に風呂入っておきながらこっち来んなはないだろ、工藤新一。


「あ、いや、俺別に傷つけるようなつもりはっ」


私の肩を掴む工藤くんは、さっきまでの照れた感じはなく、強いて言うなら必死さが出ていた。
…ほんと、見てて飽きない子だ。


「俺ほんとにっ」
「キミ、」
「え?」
「タオル取れてるよ」
「うぇぇ!?」
「冗談」
「…っざけんじゃねーよ!」
「だってキミ緊張しすぎておもしろくない」


いや、ある意味すごくおもしろいけど。


「楽しまなきゃ、つまんないよ?」
「…なんかー、」
「うん?」
「俺だけ意識しすぎてバカみてぇ」
「やっと気づいたか」
「…オメーそこは普通否定するところだろ」
「普通と一緒じゃつまらないじゃないか」
「…ああ、なんかすっげぇオメーらしい気がする」
「でしょ」
「ほんと自分がアホらしく感じるわ」


そう言って工藤くんが笑う。
ああ、良かった。
って心底思う自分がいるから驚きだ。


「キミ」
「はい?」
「背中流してあげようか?」
「…え」
「もちろんタオルと言わずに手で洗ってあげるよ」
「…ええっ!?」
「なんなら背中と言わず体の隅々まで手で洗ってあげてもいいけど?」
「…かっ、からかうんじゃねーよっ!」
「だってキミからかうと楽しいし」
「…っ!」


お風呂で温まったからなのか、それともこの状況からなのか。
顔を赤くして悔しそうに睨んでくる工藤くんが可愛くて堪らない。
声を殺して笑うのがツラいわ。


「わかった」
「うん?」
「俺も名前さんの背中を流す」
「おっ、キミに出来るかな、名探偵」
「出来ねぇわけねーだろっ!さっさとこっちに来い!」


赤い顔して偉そうに。
ま、こういうのもいいかもね。


「バッ!なんでタオル全部取んだよっ!」
「…体洗うから?」
「背中だけ見せりゃいーだろっ!!」
「え、どうせだから体洗うし」
「だからタオル取るんじゃねーーっ!!」


工藤くんの叫び声がこだまする中、檜風呂堪能中。

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bkm

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