Detective Conan


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stock-永遠の恋-


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「じゃあ今は一緒に暮らしてないの?」
「はい。私は近くのマンションで暮らしてます」


よくわからないまま、工藤くんとそのご両親とランチに行くことになり、その昼食の席での話の中心はやっぱり息子の同棲について。
そりゃそうだろう。
私が親でも気になるわ。


「もうそのマンションにずっといるの?」
「はい?」
「うちに戻って来ないのかしら?」
「…はい?」


まさか親御さんから同棲のススメを受けるとは思わなかった。


「だってー、新一ったら名前ちゃんと知り合ってから料理始めたり、お掃除頑張ったり!すっかり働く女性の味方になったんだもの!このまま中途半端で止めるのはもったいないわ!」


…なんつー自分勝手な同棲のススメだ。
いや、この家庭科能力ゼロな息子を持つ母としては心配なのはわかるけど。


「そうそう、お前博士の家で毎日カレーを作ってたそうじゃないか」
「毎日、ですか?」
「えっ!?な、ちがっ!」
「そうそう!1週間毎日カレー食べさせられたって博士ぼやいてたわよ?」
「ばっ!な、んで、そういうことをっ!」


…毎日作ってアレだったのか。
作り始めた初日のカレーはどんなに無残だったんだろうか。
もはや「カレー」という括りにするのもカレーに対して失礼だったに違いない。


「新ちゃんは私が言っても全く!料理覚えようとしなかったから、名前ちゃんが言ってくれてほんとに助かってるのよ!」
「…はあ」
「ただでさえこの子と離れて暮らしててどんな生活してるのか心配だったのよー!まぁ新一のことだからどーせ?コンビニのお弁当かデパ地下のお惣菜か蘭ちゃんの作り置きを食べてた、ってところでしょうけど」


さすがだ、お母さん。
息子のことをよくわかってらっしゃる。


「その新一がやーっと自分から進んで料理するようになったんだから、途中で止めちゃうのはもったいないじゃない!」
「そうそう。せめて我々に振舞ってもらうまで止めてもらっては困るからなぁ」
「…作ってあげれば?ご両親に」
「やなこった!マズイだなんだと、文句言われるのが目に見えてら」
「いやーねぇ、新ちゃんたらそんなこと言うわけ」
「ほんとのことなんだから仕方ないじゃない」
「…」
「…」
「…」
「…なに?」
「いや…」
「名前ちゃん随分はっきり言う子なのね…」
「変におだてても本人のためになりませんし」
「確かにその通りだな。マズイものにマズイと言うのは仕方ない」
「…ぜってぇ作らねぇ」


普段金光したカード持たされてるんだから、たまに帰国した時くらいご両親に手料理食べさせてあげればいいのに。
親不孝な子だよ。


「ああ、そうだ!今回ね、こっちに来たついでだから温泉行こうって言ってるだけど名前ちゃんも一緒にどう?」
「え?温泉、ですか?」
「そう!優作と軽井沢に行った帰りに万座に行こうかって話ししてるんだけどね」


真夏に軽井沢。
そんなベタなセレブまだいるんだな…。
でも軽プリのアウトレットは行きたいかも。


「ねぇねぇ、興味ない!?」
「…温泉より、軽井沢のショッピングなら」
「じゃあ軽井沢から一緒に行く!?」
「…えっ!?」
「私息子の恋人とお出かけするの夢だったのよー!」


む、息子の恋人とお出かけ?
いきなり泊りがけでか?
なんつーか、発想が独創的だわ…。


「で、でも私仕事が」
「おや、名前くん夏休みは?」
「え?まだ、です、けど?」
「じゃあ名前ちゃんの夏休みに合わせて予約しましょう!」
「…えっ!?…いやいやいや、私そんなお金もないですし、」
「あら嫌ねー!私たちと一緒にお出かけするのにお金の心配なんてしちゃダメよ!」


言ってみたい。
人生で1度でいいからその台詞を他人に言う身分になってみたいっ!


「いや、でもほんとにそういうわけには」
「…じゃあこうしようか」
「はい?」
「名前くんが夏休みを使って僕の取材を手伝うことを条件に、K出版で新作を出そう」
「…ええっ!?」
「あ!それいいわね!出版者の方も工藤先生に書いていただけるならなんでもしますって言ってたものねー!」


そ、そんな横柄なっ!!


「ちょ、キミもなんか言って!!」
「え?あ、いや、別に、いいんじゃねーの?」
「…はぁ?」
「名前さんと旅行、とか、いいんじゃねー?」
「…」


今ここにこの子の親がいなかったら殴ってた!
何ほんのり頬染めて照れてんのよっ!
あり得ないっ!!
私も自分勝手だって言われるけど、そのさらに上を行くわっ!
しかもペアでっ!!
何、なんなの!?
蘭ちゃんパニックが終わったと思ったら、宮野さんで、その興奮冷めやらぬうちに今度は両親かっ!!
なんでこの子といるとこうも問題が尽きないわけ!?


「…それでどうかな?名前くん」
「…同行させていだきます」


でも背に腹は変えられないっ!
これで工藤先生の新作を勝ち取れるなら冬のボーナスは私のものだっ!


「じゃあいつ行くいつ行く?」
「その前に編集長とこの事を話し合っておきたいのですが」
「ああ、僕から言っておきますよ。その方が喜ばれるだろうし」
「…お願いします」


あっという間に私の夏休みの予定が決まってしまった…。
今年は実家に帰ってゆっくりしようかと思ってたのに…。
お父さん、お母さんごめんなさい。
今日会ったばかりの人と夏休みなため今年も実家に帰れません…。


「おや、送って行きますよ。有希子の運転で良ければ」
「…健康のため歩いて行きます。ありがとうございます」


あんなロデオのようなドライビングテクニックの人の運転に誰が乗るもんかっ!
ここはアメリカじゃねーっての!


「じゃあ俺送って行くから」
「え、別にいらない」
「ああ、じゃあ我々は先に帰ってるぞ」
「名前ちゃんじゃあまた連絡ちょうだいね」
「え?あ、はい。いや、キミも帰りなよ」
「送ってきます」
「いやだからまだ昼間だし大丈夫だからご両親と」
「送ってく」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…じゃあ行こうか」
「おー」


最近、でもないけど、工藤くんは頑固な面を見せるようになった。
それは、まぁ、いいことなのかもしれないけど。
あのへタレた感じが可愛かったのに。
少し残念な私がいるのも確かだ。


「なんか、」
「うん?」
「うちの親がすみません」
「…ああ」
「ああいう人たちなんで、なんつーか、諦めてください」
「…でも楽しいご両親だね」
「まぁ…どっちかつーとそっちだろうな」
「特にお母さん。私の母親は物静かな人だから、対照的すぎておもしろかった」
「名前さん、て」
「うん?」
「出身どこなんですか?」
「…ムーミン谷」
「はぁ?」
「くらい山奥ってこと」
「…ムーミン谷、ねぇ」
「…興味あるなら、」
「うん?」
「連れてってあげる。今度ね」
「…はいっ」


ああ、やっぱり工藤くんはこういう方が可愛くて好きだ。
私から手を繋ぐと、少し顔を赤くする。
その表情でなんかもう、宮野さんのこととか、帳消しだよ。
繋いだ手から伝わる温もりに、顔が綻んだ。

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bkm

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