Detective Conan


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stock-永遠の恋-


50


「灰原いつまでこっちにいるんだっけ?」
「来週には帰るわ」
「そか。じゃあその前にまた来るわ。じゃ、博士によろしく」
「お邪魔しました」


宮野さんは現在ドイツにあるなんとかっていう研究チームに入っていて、今は夏休みらしい。
それで思い出した。


―灰原の薬を信用しないわけじゃねーけど―


あの時、震えながら言った言葉の中にいた人。
…恐らく、工藤くんが世間から姿を消したあの1年に関係がある人。


「…名前さん?」
「なに?」
「…灰原と何かありました?」
「…」
「アイツ口悪ぃけど、なんつーか言葉知らないだけだから、さ」


バーロォ、言葉云々以前の問題だ。
蘭ちゃんといい、キミの周りはどうしてこうもああなんだっ!
ああ、もう嫌だ嫌だ。
こんな醜い嫉妬、したくないのに。


「名前さん今日どうする?とりあえず一旦家に戻ってさ」
「そうね」


私は何がこんなに不満なんだろう。
…不満?
違うな、不安、だ。
私たちは客観的に見たら恋人同士なのかもしれない。
でも恋人同士が本来交わす言葉も繋がりも、何もない私たちは今だ友達以上な脆く不安定な関係のまま。
そういう不安。
しっかりとした確証がほしいなんて、私もまだまだ。


「ぅっわっ!?」


工藤家の玄関を閉めて、靴を脱ごうとしていた工藤くんを廊下に突き飛ばした。


「…ど、どうしたんです?」
「…」
「名前さん?」


どうしたも何も、ない。
私はどうして、こんなにも不安で、こんなにも必死なんだろうか。
蘭ちゃんも、きっとたぶん宮野さんも。
この人からこうやって抱き締めてもらえなかったんだから。
こうやって、抱き締めてもらえるだけ幸せに思わないといけないのかもしれない。
この場所からもっと確かな温もりを求めてしまうなんて、どうかしてる。
それでも…。


「…名前さん?」
「…」


それでも、私は。


「あらやだ!タイミング間違えちゃったかしら?」
「うーん、親のラブシーンも見たくないと思ったが、息子のラブシーンも見たくないものだな」


突然開いた玄関扉から、男女の声。
これはもしかしなくても、


「と、父さん!?母さんも!ど、どうしたんだよ!?」


…やっぱり。


「どうしたも何も新ちゃんがなかなか連絡寄越さなくて心配してたら、志保ちゃんが日本に来るって言うでしょ?せっかくだから食事でもと思って来たのよ」
「いやでも、これは連絡寄越さないわけだな」
「い、いや、別に、これは、なんつーか、」


…ああ、これは私がどうにかしないといけないわけね…。
工藤くんから離れて深呼吸しながらゆっくり立ち上がった。


「お見苦しいところをお見せしてすみませんでした。苗字名前と言います」
「ああ、これはどうも。私は工藤優作とこっちが妻の」
「有希子です。いつも息子がお世話になってます」


ほんとだよ。
という言葉は飲み込んだ。


「工藤先生には弊社の堺が突然連絡さしあげたこと、本当に申し訳なく思ってます」
「堺?…もしやあなたはK出版の?」
「はい。社員です」
「…なるほど」


工藤先生と夫人は見つめあって何かを納得したようだった。


「いやね、うちの愚息が私の小説のこと、しかも出版社のことで口を出すのはおかしいと思っていたんですが、そういうことでしたか」
「…はあ?」
「阿笠博士から、新一がずいぶん仲良くしてる女の人がいるって聞いてたから、もう新ちゃんてばお母さんたちに内緒にして!って思ってたけど、苗字さんのことだったのねー!それなら優作にお願いするのも納得だわ!」
「…はあ」
「お前、こういうことは順を追って話なさい。博士の話だと一緒に暮らしてるそうじゃないか」
「え!?あ、いや、」
「そーよー!肝心なところ隠して言ってたらわからないじゃない!」
「…悪ぃ」


…よくわからないけど、この親は高校生の息子が年上の女と一緒に暮らすことに抵抗ないらしい。
さすがだ、工藤夫妻。


「新ちゃんたちお昼ご飯は?」
「まだだけど」
「じゃあ一緒に食べに行きましょう!ね、苗字さん!」
「…え!?いや、私は」
「やーねぇ!遠慮しなくていいのよ!それともディナーの方がいいかしら?夜は博士と志保ちゃんと食べようと思ってたけど、苗字さんも一緒に行く?」


さっきも思ったけど「志保ちゃん」て宮野さんのことだよな…。
…家族ぐるみのつきあいなわけですか。
そうですか。


「いえ、私夜はちょっと外せない用がありまして」
「そーお?じゃあランチは?大丈夫?」
「はい。よろしければご一緒させてください」
「もちろんよ!じゃあ行きましょう!」


嵐のような工藤夫妻の訪れに、急遽ホテルランチが決まった。
…ホテルでランチ。
さすがだ、工藤先生…。


「名前さん」
「うん?」
「夜外せない用って?そんなこと言ってなかっただろ」
「…持ち帰ってきた仕事を片付けないとだから」
「…仕事、ね」


そこに引っ掛かるな、ポンコツ探偵。
キミが考えるべきことはもっと別にあるはずだ。
蘭ちゃんのことが少し片付いたと思ったら、次は宮野さん。
どうしてこう次から次へと女が降ってくるんだ。
頭を抱えつつ工藤夫人がレンタルしたと言うアルファロメオに乗り、ランチに向かった。

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bkm

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