Detective Conan


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stock-永遠の恋-


49


「キミ、コーヒーは?」
「いただきます」
「はいはい」


翌朝、かなり熟睡できてすっきりした私は、いつもより早く目が覚めた。
お風呂場に行ってバスローブを脱いで自分の服を着直し改めて思ったこと。
工藤くんは真正のヘタレだ。
同じベットに入っていても手繋ぐだけでほんとーに何もなかったことに、むしろ私が凹んだ…。
あの年くらいの子って普通もっとがっつかないか?
あ、もしかしてヘタレがどうこう以前に私に色気が足りない?
…そうかもしれない。
この子あんな出るとこ出っ張りすぎてる蘭ちゃんをずっと見てきてるんだから。
…もっと色気むんむんな服でも着ればいいのか?
…。
……。
………考えただけで寒気がするから却下だな。
でもこのままだと私、この子とまたそういう関係になる自信がないんだけど。
当の本人はそんなこと知るよしもなく、実に優雅にモーニングコーヒーを飲んでるし。
…まぁ、急ぐ必要もないし、この子らしさを尊重しましょ。


「名前さん今日は?」
「え?」
「時間。ヘーキ?」
「ああ、うん。大丈夫だけど?」
「…じゃあ少し、隣に行くのつきあってくんねぇ?」
「隣?って発明家っていう博士の家?」
「そう。…名前さんの話してたから見てみたいんだと」
「…まぁ別にいいけど」
「さんきゅ」


工藤家の隣人とは実は未だ会ったことがない。
いろんな発明をしてるらしいちょっと変人なオッサンらしいけど、私そんな人と話し合うかな…。


「名前さん、コイツがええっと、宮野志保」
「…どうも」
「でこっちが苗字名前さん」
「…どうも」


おい、工藤。
どこが変人なオッサンだ、こら。
どこをどう見ても女じゃないか。
しかもかなり美人の部類に入る…。


「博士は?」
「外出中。…入って」
「名前さんどうぞ」
「…はあ」


おい、工藤。
私を置いて話を進めるな、こら。
この女は誰で、あんたの何だ?


「…どうぞ」
「あ、どうも…」


コーヒーを差し出されまさか煎茶にしてくれとも言えずいただくことにした。
…苦い。


「なぁ、博士に頼んでたヤツ出来てるか知らねぇ?」
「…ああ、たぶん博士の部屋にあるんじゃないかしら?」
「マジで?俺ちょっと取ってくるから名前さん、てきとーに寛いでて」
「…はあ」


この状況でどうくつろげと?
そこまで心臓に毛生えてないぞ、こら。


「…相変わらずね」


目の前の宮野さんは実に鮮やかに笑う。
コーヒーと白衣がよく似合う人だ。


「事件現場では誰をも寄せつけないほどのキレがあるけど、日常生活ではそうでもないでしょ?特に女関係」
「…はあ」
「変わってないわね。…まぁ半年やそこらで変わるわけないか」


何故と聞かれたら、感、と答えるしかない。
でも。
直感で、宮野さんは工藤くんが好きなんだと感じた。
…蘭ちゃんといい、あの男の周りにはどうしてこうも美女ばっかりが集まるんだ。
そしてそんな女のところに私を置いて行くなポンコツ探偵。


「…工藤くん、てっきり毛利さんとくっついたんだと思ってたんだけど」
「…蘭ちゃんのことも知ってるんですか?」
「ええ。…一緒のところ、見たくないから日本を離れたのに間違いだったみたいね」
「…そうでもないですよ?未だ蘭ちゃん蘭ちゃん言ってるし」
「…ほんと、相変わらず」


ああ、この人もポンコツに苦労したのね…。


「…でも安心したわ」
「え?」
「工藤くん。本当に毛利さんを選んでいたら嫌みなことこの上ないけど、あなたならまだその他大勢にも望みがあるもの。…みんなが憧れの王子様は、お姫様じゃなく農民の娘を選んだ、ってところかしら?」
「…ええ、私庶民派ですから」
「そうみたいね」


私も口が悪いって言われるけど、私の斜め上をいくな…。
蘭ちゃんといい、あの男、きっちりフってないわけね。
…いや、そもそも好かれてることに気づいてないのかもしれない。
ため息が出るわ。
その時、くすっ、と宮野さんが小さく笑ったのに気づいた。


「なるほど」
「…なんですか?」
「健気に待っていたお姫様と違って、農民の娘は王子の鈍感なところにご立腹なわけ」
「…私が農民の娘なら宮野さんは貴族の娘ってところですかね」
「何故?」
「自分のことを自分で決められない不自由な立場だからです」
「…」


それは全て、工藤くんの決断に委ねてるということ。
…ある意味少し前の私と、重なる。


「結局、お姫様の前から逃げ出したってことでしょ?…それじゃあ、幸せになれませんよ」
「…そうね」
「灰原ー、博士の部屋にもなかったけど?」
「…そう?じゃあ持ち歩いてるのかしら」


…灰原?
え?この人宮野さんじゃ…。


「…昔、そういう名字だった時があるのよ」
「…なるほど」


じゃあこの間帰国してきて夜中に会いに行ったのは宮野さんだったわけだ。
…このポンコツ探偵がっ!!
全く悪びれることない工藤くんを尻目に苦い苦いコーヒーを飲み干した。

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bkm

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