Detective Conan


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stock-永遠の恋-


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「…う、ん…」


カーテンを閉めていても漏れる真夏の日差しが、顔を照らして目が覚めた。
手足が痛いってことは昨日のアレは夢じゃないってことで。
…でも正直なところ、よく覚えていない。
工藤くんが来たあたりからの記憶が曖昧になってる。
確かあの後1課の人たちが来て。
佐藤刑事が何かを言ってた気がする。
…ああ、高木刑事もいたような。
それで私、どうやって帰ってきたんだっけ?
自分で歩いてきた?
工藤くんが連れて帰ってきてくれた?
わからない。
けど。
目が覚めたら、工藤くんに抱きしめられながら工藤くんのベットで寝ていた。
よく、覚えていない、けど、助かったんだと、思う。


「…ん…」


1度顔をしかめて工藤くんがゆっくり目を開ける。
寝ぼけて焦点の合わない綺麗な、青い瞳が私を見ていた。


「…名前さん!?大丈夫か!?」


ああ、うん。
たぶん大丈夫。


「どっか痛いとかは?」


痛いは痛い、けど我慢できないほどじゃないし。


「…もしかして声でねぇとか言う?」
「…だいじょうぶ」


思った以上に掠れた声だったけど。
あ、私よく見たら工藤くんの服着てる。
…私自分で着替えたんだっけ?
ああ、思い出せない…。


「名前さん」
「うん?」
「…」
「…」


以前の私の教えを守ろうとする工藤くん。
でも、頬につく前にぴたりと止まった。
至近距離で、青い瞳が私を射抜く。
そのままあるだろうと思っていた小さな衝撃は場所を変えて現れた。
ほんとに触れたか触れてないか、わからないくらいの躊躇いがちな優しい衝撃。


「…無事で良かった」


耳元で囁く工藤くんが、何故か泣いているように感じた。


「でも、」
「ん?」
「よく、わかったね。あれだけしかヒントなかったのに」
「ああ…。青い大きいバケツってのは業務用のゴミバケツ。名前さんが俺の家を出て1〜2分後には俺も後を追った。俺が追いつくまでの間に犯人と会って逃げたと仮定しても、俺が名前さんのミュール見つけるまでに3分もかからなかった。いくら全力疾走してるとは言え行ける範囲は限られてるだろ?業務用の大きなゴミバケツを路地に置いていて、かつ外壁は黄色、ここらへんじゃあそこしかねーし」
「…さすが名探偵」
「あれだけヒントがありゃ推理でもなんでもねーよ」
「それでも、」
「うん?」
「来てくれて、ありがとう」
「…おー…」


思えば、素面の時にこうやって自分からこんなにしっかり工藤くんに抱きつくって初めてかもしれない。
どくん、どくん。
ぴったりつけた耳に響く、脈打つ心臓が教えてくれてる。
工藤くんは今きっと、赤い顔してるに違いない。


「あ、」
「ん?」
「そう言えば、あのトランプもキミ?」
「…ああ。あれは」
「あれは?」
「…予告状を出した帰りのキザなコソ泥の仕業」
「…キザなコソ泥?…って、まさか」
「キッドだよ。だからあの界隈にたまたま中森警部たちもいたんだ」


そうか…。
だから2課の中森警部が…。


「でもなんでキッドは私を助けたのかな?」
「さぁなー?この前のお詫び、とか?」
「この前?」
「名前さんに成りすまして現場引っ掻きましたお詫び」
「…イマドキの怪盗はそんな律儀なわけ?」
「他は知らねーが、アイツはそういう奴だぜ」


ふん、と工藤くんが鼻で笑ったのがわかった。
怪盗キッド、か…。
工藤くんについていれば、かならずまた、会える。


「あ!」
「え?」
「てゆうかこんなことしてる場合じゃない!!」
「え?」
「仕事遅刻するっ!!」
「あ、昨日のうちに編集長さんに連絡しといたぜ?」
「え?」
「ちょっと俺が関わった事件に巻き込まれて怪我してしばらく休ませてくれって。事情聴取やらがあるからどっちみち行けねーし」
「いや、キミ勝手に何してくれてんの」
「あのなー、無断欠勤よりマシだろ?」
「そもそもなんで編集長の連絡先をっ」
「あ、俺あの人とメル友」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…さっき一瞬でもキミにときめいてしまった私の貴重な時間を返せこのストーカー」
「え?ときっ!?」
「そこで止まるな!」


ああ…。
事件に巻き込まれてなんて、絶対に根掘り葉掘り聞かれるに決まってる。
しかも事件が事件だから、そういうイメージが一人歩きして、私はきっとレイプされた女のレッテルを貼られるんだ…。


「名前さん?」
「…しばらく放っておいて」


ああ、職場で陰湿なイジメが始まったらどうしよう…。
ただでさえ男が多い職場なのに、そんな噂立って中には、じゃあ俺もやらせろよ、なんて言うバーロォが出てくるんだ。
そして私今度こそ無理矢理っ!


「いや、それはねーよ」
「え?」
「俺殺人事件て言っただけだからそこからイコール昨日の犯人に結びつけんのは無理があんだろ」
「…」
「そこまで強引に結びつけるヤツいねーと思うけど?」
「今、」
「うん?」
「キミが光って見えた」
「はぁ?」


とりあえずは俺もやらせろって言ってくるバーロォはいないかもしれない。
不幸中の幸いだ。
工藤くんの話によると午後から警視庁で事情聴取があるらしい。
まだ9時前だし、もう少し。
第一こんなきっかけでもなかったら、このヘタレとここに辿り着くのに何年かかったかっ…!
カーテンの隙間から日差し射し込む中、工藤くんの匂いと温もりに包まれてもう一度目を閉じた。

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bkm

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