Detective Conan


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stock-永遠の恋-


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「…これどういうこと?」
「いや、なんつーか、俺も必死だったし」
「明らかに折れてる上、これ血じゃない?」
「そー!そのヒールが見事に犯人に食い込んで」
「キミこれいくらしたと思ってんの?」
「…スミマセン」


裸足でコンクリの上を駆け回ったツケか、足の裏が痛い。
こんなんであのミュール履けるかななんて思ってたら、履く以前の問題だった…。
18000円の私のミュール…。
2ヶ月も履かなかった18000円…。


「でもまぁ助けてもらったし」
「そ、そーだよな!」
「出世払いで許してあげるよ」
「…」


さよなら、18000円…。
キミと出会えてテンション高い日々を過ごせたよ…。


「…じゃあ私どうしよ。履くのないや」
「あ、母さんので良かったら使ってください。服のサイズもぴったりだったし、足もたぶん合うと思うけど」


はい、って工藤くんから手渡されたのは、どう見てもシャネルのサンダルで。
安く見積もっても4万はすると思われるヤツだった。
服もたっかそーな服をお借りしたし…。
人はこうやって買収されていくんだな、きっと。


「名前さん?」
「ありがたく履かせていただくよ」


工藤くんに壊された18000円のミュールは、シャネルの4万円のサンダルの前にあっさり思い出と化した。


「歩けますか?」
「…大丈夫」


痛くないと言ったら嘘になるけど歩けないほどじゃない。
まさか工藤家からタクシーで警視庁に行けるような身分でもないし。
並んで工藤家を出ると、工藤くんがゆっくりこっちを向いた。


「手、」
「うん?」
「…貸す、けど?」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…ああ、うん。借りよう、かな」
「おー…」


顔を赤くして手を差し出してくる工藤くんは、昨日私のミュールを蹴り飛ばした人と同一人物だとは思えなかった。
自然と笑顔になったのが、自分でもわかる。


「…んだよ」
「べっつに〜?」


まさか工藤くんと手を繋いで歩く日が来るなんて、この家に初めて来た時は思いもしなかった。
人って現金。
足の痛みなんて、もう感じないんだから。


「新一?」


悪いことをしてるわけでも、いけないことをしてるわけでもない。
でも、声のした方に目をやった瞬間、ほとんど無意識に工藤くん手を振り払っていた。


「新一どうしたの?名前さんも…」
「…」
「新一?」
「え?あ、ああ、ちょっと事件のことで警視庁に、な」
「ふぅん…。名前さんも、ですか?」
「う、ん。私も、っていうか私が呼ばれてるんだ…」
「そう、なんですか?じゃあ新一は何しに行くの?」
「え?…つきそい?」
「何それー!新一邪魔しちゃダメだよ?」
「してねぇよ!いつ俺が」
「よっく言うわよ!だいたい新一は」


ああ…。
昨日の比じゃないくらいにテンション下がったわ…。
目の前で痴話喧嘩始めた工藤くんと蘭ちゃんにため息が出た。


「ごめん、待ち合わせ時間あるから行くわ」
「え?あ、すみません私ったら呼び止めちゃって」
「そーだぜ?俺ら時間ねーんだよ。なのにオメーはいっつも」
「キミ来なくていいから」
「…え、」
「呼ばれてるの私だけでしょ?1人で行く」
「ち、ちょっと待っ」
「あ、蘭ちゃん。工藤くんお昼まだらしいから一緒にランチしてあげたら?」
「え?あ、はい…?」
「じゃあね」
「おいっ!」


ああ、チクショー。
せっかく良い気分だったのに!


「警視庁まで」
「ドア閉めます」


…結局、どんなに助けられようが何度同じベットで過ごそうが、何も変わらないってことだ。
あの2人の絆の前には、呆気なく散るわけだ。


「アホらし…」


工藤くんが、蘭ちゃんの本当の気持ちに気づくまで、いつまでもついて回るってことだ。
その度にこうやって振り回されるとか、やってられっか。


「あ!苗字さん!」
「高木刑事お待たせしました」
「あれ?1人ですか?」
「そーですけど」
「工藤くんも来るかと思ったんですが…」
「高木刑事」
「はい?」
「婦女暴行事件の被害者聴取が男性警官てずいぶん配慮がないんですね」
「ああ、違います違います!聴取はこの後佐藤さんがやりますが、まず現在取調中の容疑者の確認をしてほしくて」
「…じゃあ行きましょう」


高木刑事は悪くない。
でもこのテンションの時に会いたくない人物リストに入っているのは間違いない。


「でもなんだかんだで苗字さんと工藤くん良い感じじゃないですか!」
「え?」
「昨日の工藤くんはカッコ良かったなぁ」
「…昨日何かしました?」
「覚えてないんですか?」
「最後の方はあまり…」
「工藤くん、ずっと苗字さんの顔を隠すように抱き締めてて、僕たち最初被害者が苗字さんだと気づかなかったんですよ」
「…」
「手当て中もずっとつき添ってるし、身元確認とかの簡単な聴取も全て工藤くんが僕たちに対応してくれたんです」
「…」
「まだ若いけど、現場慣れしてるって言うか…。僕が高校生の頃だったらきっと1番パニックになってたんじゃないかななんて!」
「ご自分でわかってるならいいんじゃないですか?」
「は、ははっ…」


今そんなこと言われても…。
あの子といると、ほんとに些細なことに一喜一憂振り回される。
深く息を吐いて高木刑事の後を追った。

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bkm

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