Detective Conan


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stock-永遠の恋-


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「オネーサンあっちだって!!」
「…」
「あっちに向かって打つの!!」
「…」
「俺、的じゃねーってっ!!どういうコントロールしてんだよっ!!」
「キミのその顔と声が異常に腹立つからいいんだよ」
「よくねーよっ!!!」
「ほら、じっとしてなさい、黒羽快斗くん」
「だからあっちだって言ってんだろ!!?」


毛利家からの出てあまりにもむしゃくしゃしていたため、バッティングセンターに向かった。
中に入ろうとしたら、工藤新一のそっくりさんに声をかけられた。
なんでもカップル割りが効くから一緒に中に入らないかって。
まぁ安く上がるなら、とそっくりさんもとい、黒羽快斗くん(18)と一緒にバッティングすることになった。
顔も声もそっくりで、しかも18歳の高校3年生。
…工藤先生の隠し子なんじゃないの?
それか双子の生き別れ。


「オネーサン、ストレス発散すんのはいいけどもっと他人に害のないやり方でやれよ」
「他人じゃないでしょ?」
「え?」
「キミは私をナンパして、私はそれに乗った。で、意気投合して一緒にバッティング。ほらもう友達」
「…オメー変人て言われんだろ」
「まだ狙われたいみたいだね、黒羽快斗くん」
「冗談だって!ほらほらスマイル、スマイル!」
「キミ、」
「うん?」
「今度気安く私に障ったら問答無用で股間蹴り飛ばすからね?」
「…気をつけます」


顔は工藤くんでも、工藤くんよりもへタレていないらしい黒羽快斗くんは、さっきから頬やら肩やら腰やらをさりげなく触ってくる。
…同い年、同じ顔でもここまで違うとある意味おもしろい。


「で?」
「え?」
「オネーサンはなんでそんなに機嫌が悪ぃの?」


最近の高校生は詮索好きらしい。


「ずばり!恋のお悩み?なんならこの快斗くんが聞いてあげちゃうよ?」
「結構よ」
「そんな、あっさり…」


なんだって高校生に悩み相談しなきゃいけないんだ。
しかも今日出逢ったばかりの初対面のガキに。


「オネーサン、もっとにこやかにならないと嫌われちゃうよ」
「…どうしても蹴り飛ばされたいみたいだね、黒羽快斗くん」
「いやいやいや!俺はオネーサンの心配してるんだって!こんな時間から女1人でバッティングセンターとか。相当ストレスたまってんじゃねーの?」
「…キミまさか探偵とかぬかさないよね?」
「え?俺?いや、俺は普通の学生」
「なら良かった」
「なに、オネーサンの彼氏探偵なの?」
「…彼氏じゃないし」
「へー?なにセフレ?」
「…」
「こ、殺さないで下さい!!そのバット下ろしてください!!冗談ですからっ!!」


最近の高校生は口の聞き方ってものを知らないらしい。
この顔とこの声でセフレ発言をされて本当にイラッときた。


「と、とにかく。オネーサンと親密げなその人は探偵?」
「…どうだろうね」
「どうだろうね、って」
「黒羽快斗くん」
「いちいちフルネームで呼ばなくていいんだけど」
「そう?わかったわ、黒羽快斗くん」
「…まぁなんでもいーけど」
「キミ、好きな子とかいないの?」
「え?俺!?」
「そう。こんなバッティングセンターの前で女ナンパしてないで、高校最後の夏を一緒に過ごしたい彼女はいないのかって聞いてるの」
「…俺の話はどうでもいーだろ」
「そう、キミ片思いなわけ」
「そんなこと一言も言ってねーじゃねぇかよ」
「あれ?じゃあ喧嘩中?でも喧嘩中にヨソの女ナンパしてるってバレたら破局じゃない?」
「…喧嘩なんか日常茶飯事だし」
「キミも素直じゃないね」
「オネーサンに言われたくねぇよ」
「…素直じゃないから今キミといるんだけどね」
「まぁなぁ…」


ちらっと見る黒羽快斗くんの横顔は工藤くんと似ている気がするけどでも。
工藤くんとは全然違う。
それだけは、わかった。


「オネーサンも片思いなの?」
「うーん…、微妙なところだな」
「は?どういうこと?」
「両片思いに近いのかもしれない片思い」
「…両片思い??」
「両方思ってるみたいだけど、実は違う方にも気がいってるんじゃないかって言う片思い」
「…相手の男が?」
「ま、仕方ないことなんだけどね」
「なんで?」
「え?」
「何が仕方ないことなんだよ」
「…彼の近くにすっごく魅力的で彼とはお似合いの女の子がいるから」
「なんだそれ」
「うん?」
「合う合わないは他人が決めることじゃねーだろ。一緒にいてフィーリングが合うかどうかで決まることだろ?何いい年こいて他人と比べてんだよ」
「…キミ」
「あ、感動したならサインしてやってもいいぜ?」
「今私の年バカにしたね?」
「えっ!?」
「そう。蹴り飛ばされたいのね、黒羽快斗くん」
「ち、ちょっと待てって!!」
「男なら覚悟を決めな」
「どんな覚悟だよっ!!?」


でもこの子は良いこと言った気がする。
合う合わないは他人が決めることじゃない。
自分で判断することだ。
私は工藤くんといて、
うわー!もう好き!好きすぎてどうしよう!!
なんてことはないけど。
ひどく落ち着く。
ホッとできる、安心感がある。
それは確か。
それは以前、工藤くんも言っていた。
あれこれ考えずにその言葉を信じればいいのかもしれない。
でも、


「どうもすっきりしないんだよね」
「まだ蹴り飛ばしてーのかよっ!!もう十分だろっ!?」
「急所外してやったんだから喜びな」
「全然嬉しかねーよっ!!」


信じればいい。
けど。
信じきれない何かは、彼女の18年に比べたらほんの1年にも満たない私の怯えなのかもしれない。
これからどんなに時が流れても、彼女が工藤くんと過ごす時を超えることは出来ない。
私が1年、2年と重ねれば、それだけ彼女も工藤くんとの時を重ねるってこと。
私と彼女の17年という距離は、そうそう埋まることはないし、彼女と工藤くんの18年という絆は、揺るぐこともない、だろう。
それに怯えて信じきれないでいる。


「わかってるんだけどね」
「ソーデスカ。じゃあもう僕がギブアップしてることもわかってますよね?退いてください」
「あ、黒羽快斗くん、練習相手になってくれてありがとう」
「…まさかバッティングセンターでプロレス技かけられる日が来るとは思わなかった…」
「キミ意外と隙あるよ?もっと気張ってないと突然技かけられても防げない」
「突然技かけられることねーからいいんだよっ!」


はっきり言ってこういう考えは好きじゃない。
でも。
最近考えてしまう。
どうやったら、私は蘭ちゃんに勝てるのか。
工藤くんは確かに私に好意的なんだろう。
でも、根底に蘭ちゃんに対する信頼がある限り、私はいつまでも蘭ちゃんの影を感じる。
しかも無意識の宣戦布告を受けたようなものだし。


「思ってた以上に厄介?」
「自分でわかってりゃいいんじゃねーの?俺もう2度とオネーサンをナンパしねー」
「いやでも私だってきちんと考えてるんだけど」
「何考えてるのか知らねーけど、オネーサンがきちんと考えることってろくでもないことだと思う」
「キミほんとにチャレンジャーだね」
「え?」
「まさか日に2回もプロレス技を公衆の面前で炸裂させることになるとは思わなかった」
「いやいやいやって、おいやめろって!!」


人の感情を勝ち負けで計るなんてバカげてる。
でも。
あの子が当たり前のように感じている、工藤くんの隣が喉から手が出るほどほしい人間だっているんだ。
あの子の無邪気で無垢な凶器に、負けたくないってはじめて思った。

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bkm

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