Detective Conan


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stock-永遠の恋-


36


「あ、れ?」
「あ、どうも。お久しぶりです」
「…どうも。蘭ちゃん学校は?」
「え?もう夏休みですよ?」


久しぶりに毛利さんに会いに来た。
平日の昼間、高校生とは会わない時間帯に。
のに。
見事、毛利家で1番会いたくなかった人間と遭遇した。
というか、この子しかいなかった…。
そういや工藤くんも毎日暇そうにメールしてきてたな。
夏休みなんてことすっかり忘れてた…。
自分の愚かさを呪うわ…。


「今日は父に用ですか?」
「あ、うん。毛利さんに、というか、2人目が生まれるって聞いたから前祝?毛利さんにはいろいろお世話になったから。赤ちゃんは順調?」
「わざわざありがとうございます。母は2人目とは言え高齢出産になるから安静にしててほしいのに、なかなか聞かないんです」
「確かに妃さんはちゃきちゃきと動きまわってるイメージあるね」
「あ、お茶出すので座ってください」
「…じゃあ1杯だけ」


ほんとはお茶もいらないんだけど。
ここで無碍に断って下手に詮索されるのも面倒だ。
と、いうか。
この子のこの反応、やっぱりあのヘタレ、私に言った言葉よりかなりオブラートに包んで言ったな…。


「どうぞ」
「あ、ありがとう。…いただきます」
「…名前さん、て」
「うん?」
「新一の家、出たんですか?」


きた。
まぁ妥当な切り出しだ。


「あー、うん。お金貯まったし、マンションに引っ越した」
「そうなんですか。…ここの近所、ですか?」
「うん、職場が近いからね」


ずずー、っと飲むお茶が、わざとらしいくらい音を立てた気がした。
ああ、私探られてるわ…。
やっぱりこの子全然諦めてない。
あのヘタレ、どういう話し合いしたんだよ。


「あの、」
「え?」
「おかしなこと、聞いていい、ですか?」
「うん?」
「…名前さんと新一って、つきあってるんですか?」
「……………いや、それはない?」
「ほんとですか?」
「え?う、ん。つきあってはいない、よ」


何をもって「恋人」になるのかはわからないけど。
少なくとも私たちは、そういう言葉を交わしたわけではないし、まぁ1度は関係を持ってしまったけどそれっきり。
恋人らしいことはしていない。
強いて言えば友達の延長上にいる感じだ。
よく言う「友達以上恋人未満」てヤツ。
まぁ…、ごくごく稀に工藤くんのあまりの可愛らしさにくらっとくることはあるけど、私たちが恋人なんて言ったら世界中に恋人たちが溢れかえる。
それくらいなんとも清い友人関係が続いている。


「良かったー!やっぱり園子の言う通り私の考えすぎだったんですね!」
「え?」
「あ、園子って私の親友なんですけど、彼女と言ってたんです」
「何を?」
「名前さんと新一じゃ釣り合わないって」
「……そう?」
「そうですよー!名前さんは落ち着いてて大人ーって感じの人だから、新一みたいな推理バカ釣り合いませんよ!」
「…そう、かな?」
「だいたい年も離れてるし名前さんが高校生の新一を相手にするわけないですよね!」
「………そうだね」
「あ!お父さん帰ってきた!お父さーん!名前さんが来てるよー?」
「んあ?…おー!名前っちゃん!」
「…ご無沙汰してます、毛利さん」
「ほんと久しぶりじゃねーか!元気だったか?」
「お陰さまで。…もうすぐ2人目が生まれると聞いたのでこれ、前祝いになりますが。良かったら…」
「おー!わざわざ悪ぃな!いやー、年甲斐もなく出来ちまって!あっはっはっ!!」
「ははっ…」


ああ、チクショー。
自分でもわかっていることでも、改めて当事者に言われると重みが違うじゃないか。
「高校生」を相手にするわけない。
して悪いかこんニャロォ…。
同い年のこの子には、きっとわからない。
彼のあの真っ直ぐな瞳も、たまに見せる自嘲気味な寂しい笑顔も、どれも人の心に鮮明に「工藤新一」という存在を刻みつける。
彼は人を惹きつける天才だ。
それは男女問わず、年齢問わずに惹きつけられる。


「じゃあ私はこれで」
「お、もう帰るのか?ゆっくりして行けばいいじゃねぇか」
「締め切りが近いものがあるので。また来ます」
「おー。わざわざありがとな!」
「名前さんありがとうございました!」
「…お邪魔しました」


結局わかったことは、蘭ちゃんは工藤家に出入りはしなくなったかもしれない。
でも、工藤新一の隣にいることに全く違和感を持っていない。
むしろ、隣にいれるのだと、隣にいるものだと、思っているのかもしれない。
それはきっと今も、工藤くんがそういう対応を彼女にしているということ。
…あの男、何が話し合ってきただ。
全く何も話し合われていないじゃないか。
まさか本当に「出入り禁止」しか話してないのか?
…あり得ない。


「何の用?」
「何の用?じゃねーよ!今日こっち来るから一緒に昼飯食いに行くって言ってただろ!いつまで待たせる気だよっ!」
「機嫌が悪いから行かない」
「え?機嫌?」
「お達者で」
「あ、ちょっ」


ピッと終了ボタンを押す。
彼女のあの言葉は、無邪気な凶器。
グッサリ突き刺さった棘は、自分に自覚がある分きっとなかなか抜けない。
じゃあどうする?
棘を抱えたまま過ごす?
そもそもあのへタレがきちんと話し合えればこうも頭を抱える必要がないのに。
まるで甲斐性のナイ亭主が一夫多妻にして妻達があーだこーだ場外乱闘してしまったような錯覚をしてしまうわ。
1つため息を吐きながら電源が落ちた携帯を握り締め、工藤くんの家とは逆方向に歩き出した。

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bkm

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