Detective Conan


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stock-永遠の恋-


31


「苗字さーん、今日飲みに行きません?」
「全額奢りなら行きます」
「えっ!?」
「ワリカンなら引っ越ししてお金ないからパス」


工藤くんとトロピカルランドに行ってから6日が経った。
あの日、工藤くんは帰ってこなかった。
そりゃそうだ。
私が彼の立場でも同じことをする。
その翌日の、工藤家最後の夜も彼と会うことはなく、翌朝家を出る時は以前と同様ポストに鍵を入れて工藤家を後にした。
部屋の前で呼び掛けても返事がなかったし、もしかしたらずっと帰っていないのかもしれない。


「ただいまー…」


何もない広い空間に我慢できなくなるだろうから、結局8帖の1DKを借りた。
これ以上広いといたたまれなくなり、きっと家に寄り付かなくなる。
と、言っても家具がまだ何もないから、ここもかなり虚しい空間だ。
…何をしていても、瞳を閉じた時ですら、最後に見た工藤くんの顔が頭をよぎって何もする気が起きないんだから手に負えない。


「ま、予想通りの展開なんだけど」


もともと彼は蘭ちゃんのところに戻るんだろうって思っていたんだから。
でも、それがこんなにも痛みを伴ってくる出来事になろうとは思いもしなかった。


ピンポーン


「はい?」
「あ、苗字さん、お疲れ様です!」
「高木刑事、お疲れ様です」


このマンションに引っ越してきて驚いたこと。
高木刑事が同じマンションの同じフロアに住んでいたってこと。
引っ越してきた当日、佐藤刑事を連れ込んでいたところにちょうど引越しの挨拶に行ったものだからちょっとした騒動になった。
ほんと、世の中と言うものは意外と狭いものだ。


「どうしたんですか?」
「あ、先日の引越しの挨拶の時にいただいたお礼に、これ」
「…金沢のお土産?」
「はい、佐藤さんと行ってきたんですー!」
「…幸せそうですね」
「そりゃーもう!」
「目障りです」
「…」


高木刑事は佐藤刑事に無事プロポーズしたらしい。
結納とかはまだみたいだけど。
誰が仲人をするかで揉めてるとかいないとか。
縦社会は大変だ。
特に相手は警視庁捜査1課のアイドルだし。
でもまぁ、


「お土産わざわざありがとうございました」
「あ、いえいえ。それと」
「…何か?」
「佐藤さんから伝言です」
「はい?」
「いつでも電話してくれ、だそうですよ」
「…はあ」
「佐藤さんも、苗字さんのこと心配してます。不器用なところが他人事じゃなく妹みたいに思えてくるんだって。だからもっと」
「高木刑事」
「はい?」
「人の世話を焼く前に自分のことどうにかしたらどうです?」
「え?」
「佐藤刑事にプロポーズしたから、警視庁内で肩身狭いらしいじゃないですか」
「…またそういう情報どこから調べてくるんです」
「出版社の1社員のネットワーク、舐めないでください」
「舐めてませんよ。苗字さん舐めたら痛い目みそうだし」
「よくご存知ですね」
「…と、とにかく。佐藤さんも心配してますから、もし何か悩んでるなら」
「心に留めておきます。では」
「あ、それから」
「…まだ何か?」
「…工藤くんに会いましたよ」
「そうですか。では」
「あ、ちょっ」


高木刑事は捜査1課の人間だ。
そりゃ現場で会うだろうさ。
ありがたいことにあの後から私のメイン分野の情報コーナーの詰めがあり、事件が起きても現場に狩り出されることはなかった。
ん、だけど。
それも今日で区切りがついたから、きっと次の事件からは行かされる。
一緒に暮らすようになってから、こんなに長いこと彼と会わずに、話もしない期間はなかった。
たかが6日。
されど6日。
…あの子は側にいなくても、私を窒息させる気だ。


「ほんと、厄介なヤツ」


なんのために工藤家を出たのか、自分で自分がわからなくなってきてる。
ここまで深入りする恋は、初めてだ。
その相手がまさか、高校生だなんて笑える。


ピンポーン


「…高木刑事、まだ何か言い忘れですか?いい加減くだらない用件なら」
「くだらなくなんかねーよ」
「…キミなんでここに」
「1探偵のネットワーク舐めんじゃねーよ」
「…高木か」


あの口軽男っ!
この仕打ち金つばだけじゃ足りないぞ!


「キミ何の用?」
「とりあえず上げてください。話ありますから」
「1人暮らしの女性の部屋にむやみやたらと上がりこむものじゃないよ」
「そうですか?俺は別にここで話してもいいですけど、名前さんが困るんじゃないんですか?世間体的に」
「…」
「引っ越したばかりで玄関先で若い男と口論してたらマズイんじゃねーの?」
「…キミって」
「あ?」
「ほんと厄介」
「お互い様だろ。で、どうすんの?ここで話すか?」
「…上がって」


この子に引越し先も言わないで出てきたのに、全く意味がなかった。
この後の話し合いが気が重いけど、このマンションに引っ越してきて初めての客は1番会いたくて、1番会いたくなかった工藤くんだった。

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bkm

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