Detective Conan


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stock-永遠の恋-


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「トロピカルランド、ですか?」
「そう、夏休み行きたいレジャー施設特集の1つで取り上げたんだけど、抜けがあってもう1回行かないといけないんだ」
「…なぜ私が?」


世間じゃ夏休み直前。
レジャースポット特集に各誌熱を上げている。
本来情報コーナー担当の私も、それに振り分けられたわけだ。


「工藤くんと行ったらどうかな?」
「…なぜ?」
「あの子いい子だねー!工藤先生に本当に連絡取ってくれてさ!まだ連載いくつか抱えてるから先の話になるけど、うちとの契約を前向きに検討してくれるそうだ!」
「…それがなぜトロピカルランド?」
「だから工藤くんに今後のことも踏まえてきっちりお礼しておかなきゃだろ?そこで苗字くんが抜擢されたわけだ!」
「…もっと別のお礼がいいんじゃないですか?」
「いいじゃないかー!イケメン現役高校生と遊園地!なかなかない機会だよ!行っておいで!」
「…仕事ですよね、私」
「もちろん!そういうわけで工藤くんと2人で頼むね!」


ということで、物凄く横柄な編集長からお言葉でトロピカルランド行きが決まった。
…なぜ今このタイミングでトロピカル。


「行かなくていいんだけど」
「は?」
「念のため言っておく」
「何がです?」
「上司命令だし」
「だから何がです?」
「トロピカルランド、行きますか?」
「…え?」


鳩が豆鉄砲、って感じ?
は?名前さんの口からトロピカルランド?
てところだろう顔をしていた。


「…じゃ、まぁ私はちゃんと誘ったということで、部屋に戻るわ。解散」
「ちょっと待て」
「…なに?」
「トロピカルランドがどうした?」
「…まさか行きたいとか言う?」
「名前さんと2人でですか?行きます」
「…いや、行かなくていいんだけど」
「オメーが誘ったんだろーが」
「…上司命令で」
「上司って、なんで?」
「工藤先生と素晴らしいパイプが出来たようで、ご子息に感謝したいそうだよ」
「じゃあやっぱり俺が行かないとじゃないですか」
「いや、ほんとに」
「いつですか?俺もう学校休みだし、いつでも大丈夫ですよ」
「…キミ遠慮って言葉知ってる?」
「知りませんし、知ろうとも思いません」
「…」
「あ、でも名前さん仕事だから週末じゃないとダメか」
「…いや、出来れば明日で」
「え?明日?」
「仕事のついでだから」
「ああ…。じゃあ明日行きましょう」


あっという間に決まってしまった…。
工藤くんと遊園地…。
少し嬉しい自分がちょっと嫌だ。
明日は仕事、明日は仕事。


「俺、正直トロピカルランドにあんまいい思い出ないんですよね」
「え?」
「いい思い出ないって言うか、むしろトラウマしかない」
「…キミなんでついてきたの」
「トラウマ無くなるかなぁ、と」
「はあ…」


遊園地にトラウマって、何、迷子にでもなったのか?
この子集団行動苦手そうだし、あり得る。


「今日の仕事は?」
「ああ、うん。抜け箇所のカバーだから仕事自体は1時間もかからないんじゃないかな?」
「いいんですか?その後別の仕事しなくて」
「いいんだって。工藤先生のご子息の機嫌を損なわないよう、接待してきてくれって言われたし」
「…父さん新連載OKしたんですか?」
「前向きに検討らしいよ」
「じゃあOKしたときのお礼に期待ですね」
「キミ遠慮って言葉学びな」
「言葉だけならもう知ってます」
「そう?じゃあその言葉実行して。特に私に対して」
「…」


今年のレジャー特集の記事はまぁありきたりぃなカップルデートコースとファミリーコースに別れてて。
抜けの部分はありがたいことにファミリーコースだった。
…カップルじゃなくて良かったよ、ほんとに。


「…俺去年ここ滑りましたよ」
「え?ボブスレーしたの?」
「いや、スケボーで滑り降りた」
「…はぁ?キミ何無駄に命張ってんの」
「いや、無駄じゃなくて、あの時は蘭を銃で狙ってた犯人がいて」
「…ああ」


蘭ちゃん、ね。
この子は蘭ちゃんのために命も賭けれるのか…。


「…これに乗るんですか?去年と形変わってる」
「改装してニューバージョンになったの。だから取材してる。私が乗るからキミ待ってて」
「いやでも2人乗りだし…」
「…すでに赤い顔してるキミに乗れとは言わないから安心して」
「乗ります、2人乗りだし」


トロピカルランドの夏の目玉アトラクションの1つ。
去年改装工事をして今までのゆっくり滑り降りるものより、よりスピードを楽しめるボブスレーになった。
ん、だけど。
そのボブスレーがパパ・ママと子供達が密着して乗るようなタイプのものだから、まぁ乗ったら密着するわけで。
へタレ工藤くんは乗る前からすでに顔を少し赤くしていた。


「ファミリーコースの取材ってことで親子用シートにしたんですけど、大丈夫ですか?」
「親子用以外は何があるんです?」
「カップル用がありますよ」
「それはどんなヤツ?」
「カップル用はもっとシートが倒れてるんです」
「…こっちでいいです」


このシートも見た感じかなり倒れてるのに、これ以上倒れてたまるか。


「キミ後ろね」
「はい」
「…もっと下がれない?」
「無理です」
「あ、親子用は前に座るお子さんが飛び出さないように後ろに座る親御さんが抱え込んでもらうことになってるんです」
「「はっ!?」」
「なので後ろの方は密着状態で前の方をきゅっと抱きしめてもらえません?構造上カップルシートよりスピード出なくなってますが念のため」


なんてこった!
親子用シートにそんな罠がっ!


「カップルシートは」
「それぞれにベルトがあります」
「やっぱりそっちに…」
「もう次の方待たれてるので今回はこれでお願いします。下まで1分もかかりませんから」


裏を返せば1分近くその状態のわけか…。
だからなんだってあえて今このタイミングでそういうイベントが起こるんだ。


「…キミ」
「は、はい」
「照れるのは構わないけど、私を放してふっ飛ばさないでね」
「それは大丈夫です」
「…ほら、手」
「え?」
「聞いてたでしょ?密着状態できゅっとしろって」
「…じ、じゃあ…」


おずおずと私のお腹の辺りに工藤くんの手が伸びてくる。
私ほんとに振り落とされないだろうな…。


「準備できましたかー?」
「あ、はい」
「後ろの方も大丈夫ですかー?」
「は、はい…」
「それじゃあ、行ってらっしゃーい!」


係員の掛け声とともにボブスレーが動き出す。
と、同時に工藤くんが両腕に力を入れたのがわかった。


とくん とくん とくん


背中越しに伝わる工藤くんの鼓動がすごく温かくて、1分なんかじゃ、ぜんぜん足りなかった。


「…キミいつまで顔赤くしてる気?」
「ルセェ」
「あれしきのことでキミもまだまだだねぇ…」
「誰にでもじゃねーよ」
「え?」
「相手がオメーだからだろうがっ!わかってんのかよ!」
「…私なんで顔赤い子に偉そうに怒られてるの?」
「ウルセー!」


赤い顔しながらも叫ぶ工藤くんが、すごく、愛しく思えるんだから不思議だ。
恋は盲目とは、昔の人はずいぶんといい名言を残した。
苗字名前が聞いた名言集ベスト100の中にランクインさせよう。
今だ赤い顔で口元を隠している工藤くんを横目に、さっき感じた背中の温もりを思い出していた。

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bkm

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