Detective Conan


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stock-永遠の恋-


25


「キミ」
「…」
「夏風邪はバカがひくって知ってる?」
「…るせぇ」


私の部屋で寝た翌日、工藤くんは見事に発熱した。
キミも結局夏風邪ひくようなバカだったってことね。


「名前さん、」
「なに?」
「…ここにいて、って言ったら、」
「あ、ごめん今日仕事だから」
「…」
「…まぁ、早く帰る努力はするから、薬飲んで寝てな」


工藤くんがああいうこと言うなんて、相当弱ってる。
仕方ない。
今日はフル稼働で定時で上がらせてもらおう。


「じゃ、お先です!」
「あ、苗字さん。…て、もういねぇし…」


休み明けだから仕事溜まって、ちょっと遅くなったな…。
一応レンチンすれば食べられるようなヤツ作って冷蔵庫に入れておいたけど、あの子放っておくとそういうことすらしなそう。
…やっぱり急いで帰るしかない。
これだけ走らされてるんだから、お礼はきっちり請求させてもらおう。
あ…、この靴…。
…リビングに明かりついてる。


「でも良かったー!学校休むってメール来た時は心配したけど、元気そうだね!」
「元気じゃねぇよ、飯作る気力ねぇのにパンもカップラも買い置きなくて腹減って死ぬかと思ったぜ」
「あのねー、新一。例えパンやカップラーメンの買い置きがあっても、風邪ひいてる時にそんなの食べてちゃ治らないでしょ!」


…急ぐ必要なかったか。
工藤くん、冷蔵庫も開けなかったわけね。
そりゃ腹減ったって蘭ちゃん呼ぶわ。


「…やってらんねぇ」
「姉ちゃんなんか言ったか?」
「オッチャンの屋台はいつ来ても美味しいね」
「ありがとよ!ほら、これサービス」
「あ、ありがと」
「なーに、何があったか知らねぇが食材持参で来るような客姉ちゃんくらいしかいねぇしな!」


あっはっはー、と笑うオッチャンに日本酒を入れてもらう。
飲まなきゃやってらんねぇ。
…まぁ、最終的にはこうなるんだろうってわかってはいたけど。
いざ目の当たりにすると打撃どころじゃない。
そりゃもう瞬殺だね。


「オッチャン、ジャグジーつきのマンション知らない?家賃は出せて13万」
「ねぇだろ、フツーに」
「…だよねぇ」


心身共に居心地が良かった場所に、変わりの場所なんかあるわけがない。
でも。
あの子のためにも、これ以上はほんとにいちゃいけない。
せっかくまた、蘭ちゃんとイイ感じになったのに、私が邪魔しちゃあ、ね。


「ただいま、と」
「…随分ゆっくりとしたご帰宅じゃねぇか」
「…」
「早く帰ってくるとか言ってたヤツが酒臭くなって帰ってくるかフツー」
「…学生のキミにはわからないだろうけど、大人になったら仕事のつきあいってのがあるの」
「…エラッソーになんなんだよ」
「…」
「俺もう寝るから。まだ熱あるし」
「そう、お大事に」
「…オメーなんなんだよっ!」
「…」
「…」
「…」
「…まぁどーでもいいけど。どーせガキの俺にはわかんねーんだろうし?」
「…」
「もう寝る」


…キミにはわからないよ。
わからない方が、いいし。
冷蔵庫に入れた作りおきの料理を捨てる。
私の作りおきの料理の隣に、蘭ちゃんの作りおきだろう料理のタッパがあった。
…こんなことなら、でしゃばるんじゃなかったな。
惨めなだけだ。


「…ふっ…」


堪えきれない涙が溢れ落ちる。
私はバカだ。
自分から首を突っ込んだ結果がこれなんだから。
ほんとは気づいてた。
早く出ていきたいのは工藤くんのためなんかじゃない。
こうやって、傷つきたくなかったから。
私は、なんて弱い生き物なんだろう。


「こんなに苦いなんて思いもしなかった」


真っ直ぐな工藤くんの瞳からは、こんな痛みを伴うなんて、思いもしなかった。
…違うか。
真っ直ぐだからこそ、痛みも強いのかもしれない。
ねぇ、工藤くん。
キミ言ったよね?
悲しみとか、痛みとか、そういう感情を吸い上げて、空が涙を流すんだって。
じゃあ吸い上げられる前に流れた悲しみはどうなるの?
吸い上げきれない痛みはどこに行くの?
その日は、部屋の隅でずっと、子どもみたいに膝を抱えていた。

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bkm

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