Detective Conan


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stock-永遠の恋-


23


「名前さん知ってます?」
「…」
「夏風邪はバカがひくって言うんですよ」
「キミどっか行って」


昔から熱を出しやすい方だったけど。
たぶんきっと、柄にもなく考えすぎてショートしたんだと思う。


「俺学校行くけど」
「さっさと行って。キミ邪魔。いると眠れない」
「…病気の時くらいその口の悪さどうにかなんねぇのかよ」
「…早く行け、ヘタレ」
「へ、ヘタレ?なんだソレ!」
「キミ煩い。早く出てって」
「…じゃあ出て行きますけど」
「…」
「ここ、携帯置いとくから、なんかあったら電話しろよ?」
「…」
「…」


工藤くんが、こっちを見てたような気もするけど、よくわからなかった。
熱で頭がボーッとする。
ああ、なんか変な夢見そうだな。
前に熱が出た時は、空飛ぶ富士山がスカイツリーに叩き落とされてる夢だった…。
今回もきっとろくでもないに違いない。
せめて平和な夢が見たい。


「名前さんて、新一の家に住んでるんですか?」


なんだってよりにもよって蘭ちゃんなんだ…。
私の人間関係なら他にもいて、彼女は出て来なくて良さそうなのに。


「新一、料理するようになりました」


しかも1人や2人じゃない。
ところ狭しと蘭ちゃん、蘭ちゃん、蘭ちゃん!


「私にしてくれなかったこと、名前さんにはするんだなって…」


たくさんの蘭ちゃんが、私を見てる。
そんな責めるような目で見ないでよ。


「新一が」
「新一は」
「新一」


…ごめんね、蘭ちゃん。
キミたちのすれ違いを、いいように利用してしまった。
きっとキミは、私を許せないだろうね。


「私には新一しかいないんです」
「推理のことしか頭にないけど」
「でも、新一が1番大好き!」


私も、好きだよ、工藤くんが。
生意気で、自信家で、なのにいざって時に押しが弱い工藤くんが、好きだよ。
時間も、思いも、彼との距離も。
みんなみんな、キミにはかなわないかもしれないけど。
でも、


「オメーを探しに行こうとしたんだろうが!」
「真っ直ぐ帰ってきてください」
「あいっかわらず口の悪ぃ女だな!」
「名前さんが、教えてくれんだろ?」
「バカみたいに喜んでた俺がマヌケだったってことか?」
「名前さん」
「名前さん」
「名前さん」
「…で、」
「え?」
「行かないで」
「…どこにも行きません。ここにいます」


工藤くんが、この間私がそうしたように、手を繋いでくれた気がした。
その温もりが、どんな言葉でも言い表せないほどにひどく、ホッとさせた。


「ん…ぅん…」


どのくらいそうしていたのか、室内はすっかり闇に包まれ、制服姿のままの工藤くんがベットに寄りかかるようにして寝ていた。
その手が、しっかり私の手を掴んでいたのは言うまでもない。
…どこからどこまでが夢だったんだ。


「工藤くん」
「…」
「工藤くん」
「ん…」
「起きて、工藤くん。キミまで風邪ひく」
「…名前さん?」
「もう大丈夫だから、起きて自分の部屋に行きな」
「…ああ、俺そのまま寝てたのか。名前さん熱は?」
「もう大丈夫」
「ほんとかよ…。……まだあるんじゃねぇの?」
「キミ」
「うん?」
「普段あれだけリアリストなのに熱の計り方はなんでそんなにメルヘンなの…」
「…え、」
「体温計。そこに置いてあるから、とって」


体を起こして座り直す。
この感じだと、確かにまだ熱があるな…。


「37.7度…」
「まだ熱あるじゃねぇかよ」
「…もう1回寝るから出てって」
「ご飯は?」
「いらない。食欲ない。だから寝かせて」
「お粥作ってくるから待ってろ」
「…は?キミ作り方知ってるの?」
「蘭から聞いた。だから寝て待っててください」


…蘭から、ね。
結局キミが最終的に頼るのも、彼女なんだ。


「ほんとにいらないから作らなくていい」
「食べないと治るものも治らねぇだろ」
「食べたくなったらその時考えるからもう出てって。朝まで入って来ないで」
「…オメーなぁ。人の心配に対してそりゃねぇだろ」
「愚痴言うなら出てって」
「…へぇへぇ。出て行きますよっ!」


扉の閉まる音を聞いて、もう1度横になる。
体が弱ると、思考まで弱ってくるから困る。
いや、心が弱ってきたから、体も弱ったのかもしれない。
早く治そう。
で、早く新しい部屋見つけよう。
また夢を見る。
今度は蘭ちゃんはいない。
いるのは小さい私。
ここにいたいって、泣いてる私。
…思った以上に重傷だ。
どうしてくれる、名探偵。
まさかこの年でこんなにも高校生に振り回されるとは思わなかったわ。
キミが不器用な優しさを見せるたびに、私の心は軋んでいく。
キミは、それを推理できないの?
泣いてるのは、私なのか、夢の中のこの子なのか。
ただただ、心が涙してることだけは感じた。

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bkm

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