Detective Conan


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stock-永遠の恋-


9


「名前!私プロポーズされた!」
「ほんとに?良かったね!」
「近々ここ解約して、あっちで一緒に住むから出てってね」
「なんですって!?」


現在の日本のご時世というのはとても世知辛く。
私1人の安月給だけじゃセキュリティのしっかりしたマンションに住めるわけなく。
安いアパートに住んでいたものの、隣の部屋に強盗が押し入ったのを機に、建て替えが決まり、追い出された過去があり。
その時に我こそはと名乗り出てくれた友人Aと友人名義のマンション(でも2階)でルームシェアしてたわけだが。
まぁ…友人A宅に転がり込んだってのが正しいんだけどさ。
それにしたって、来いって言ってくれたのあんたじゃないか。
男の前に友情というのは脆く崩れ去ってしまうらしい。
いや、結婚すんだからそういう問題じゃないか。
でもだからって出てけって…。


「おいおい、職場はオマエのホテルじゃないぞ」
「重々承知してます」
「さっさと部屋見つけろー」
「…先立つものをください」
「働け」


世の中ほんと世知辛い。


「寝不足ですか?」
「え?」
「目が充血してて、目の下にクマができてますよ」
「…キミ女性の顔をそんなに見るものじゃないよ」
「あ、女性でしたね。失礼しました」


最近ソファでしか寝てないせいか反論する体力がないわ。


「…ほんとに何かあったんですか?」
「え?」
「ストレスはバッティングセンターで俺目掛けて打ってた辺りで解消されたと思ったんですけど」
「あれはわざとじゃないから」
「あれがわざとだったらほんと怒りますよ」
「…ごめんね、実はわざとだった」
「…」


あー、なんか肩も凝ってるし、寝た気もしないんだよな…。


「あ、そう言えばかなり上達しましたよ!りんごの皮むき!」
「へー、そう」
「…自分で宿題とか言っときながらすげぇ興味なさそーに言うな、オメー」
「あ、ごめん。ほんとに興味なかった」
「…」


いい加減社に寝泊りするのもしんどいんだよな、周囲の目が…。


「…キミさぁ」
「はい?」
「1人暮らしだっけ?」
「そうですよ」


いやでも、いくらなんでもそれはマズイぞ私。
たとえこの童貞と何もなくても、世間の目がそうとは思わない。
しかも3面記事になった直後。
格好の餌食!
こんなに女を捨てていたとしても、私だって可愛いお嫁さん!というきっと他人が聞いたら吐き気がするだろう夢くらいはある。
しかも1年ちょいルームシェアしてた同い年の友人が結婚するってことは、私もそれなりの年齢に入ってきたってわけで。
なのにこの3面記事をともに飾ってしまった童貞と一緒に住もうものなら、行き遅れになりかねない。
そんな危険な種は自ら撒かない方がいい。


「1人暮らしですけど、なんです?」
「…部屋余ってますか?」


とは思ったものの、この睡眠不足の体では正常な思考回路というものが成り立つわけがなく。


「余ってますけど…、どうしたんです?」
「…困ってる友人を助けてください」


背に腹は変えられない。
このお坊ちゃんと住んでお金貯めてさっさと出て行こう。
…このお坊ちゃんが家に入れてくれたらだけど。


「ああ、そんなことですか。別にいいですよ。うちほんとに部屋余ってますし」
「すごく助かります」
「だからその気持ち悪い敬語やめてください」


逆らうまい。
今は、逆らうより、居住確保が先だ。


「…荷物それだけですか?」
「はい」
「どうやって生きてきたんです」


キミにだけは言われたくない!
でも今日からこの子は私の大家!
逆らうな私。
逆らったら死ぬぞ。


「名前さん1階と2階どっちがいいですか?」
「え?」
「どっちも空いてるんで」
「…2階がいいです」
「敬語やめないと1階にしますよ」
「…じゃあ2階で」
「了解」


煌びやかな工藤家の階段を上がるのはお初なわけで。
無駄に扉の数が多い家だ。
そりゃー部屋も余ってるさ、って造り。
…工藤先生はここに住まないのになんだってこんなデカイ家建てたんだ。


「ここです」
「あ、うん」
「南向きで、景色もいいし、開いてる部屋の中ではたぶんここが1番ですよ」
「お世話になります。いたっ!なにすんの!?」
「だから気持ち悪いから敬語やめろって言ってるだろ」


このガキ、目蓋の上にチョップしてきやがった!
いや、ここで耐えろ私。


「あー…じゃあ引っ越しソバでも食べます?」
「キミが茹でるの?」
「は?出前ですよ」
「…」
「…」
「…私お風呂入りたいんだけど」
「ああ、はい。こっちです。…見ればわかるだろうけど、こっち捻るとシャワーで、ここが温度調節。でここのボタンでジャグジーになって、こっちがテレビです」
「…は?」
「え?わかりませんでした?そのうち慣れると思うけど、こっちが温度調節で」
「そこはわかった」
「そうですか?で、ここがジャグジーでここがテレビです」


民家の風呂にジャグジーとテレビだと?


「ジャグジーとテレビつきの風呂なんて一瞬どこのラブホかと思ったわ」
「はっ!?」
「キミんち何を目指して造ったの?」
「さ、さぁ?」
「宝の持ち腐れな息子しか住まないのにモッタイナイ」
「…」


民家でジャグジー。
予想外でしたわ、工藤先生。
いや、予想以上です、工藤先生。
売れっ子になるとこうも世界が違うんですね…。
これからこのきらびやかなお風呂に毎日入れるのか。


「キミ」
「はい?」
「見るだけならタダにしとくよ」
「見ねぇからさっさとカギかけて入れっ!」
「照れなくてもいいのに」
「そーいう問題じゃねーだろっ!!」
「冗談なんだからそんなに興奮するな、少年」
「…」


工藤新一のひくついたコメカミを尻目に、脱衣場のカギをかけた。

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bkm

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