■もしも新一が下手だったら前編
「女イカせた時あるか?」
始まりは中道のこの言葉。
その日はサッカー部の元チームメイト相沢や中道たちと学校帰りにバーガーショップに寄っていた。
なんの話からか自分の彼女の話になったんだが。
「でも工藤はいいよなぁ…」
「は?何が?」
「だってお前、あの巨乳を好き放題していいってことだぞ?お前アレが自分の彼女についてたら何させるよ?とりあえず挟ませるよな?挟ませるだろ?わかるよな?俺の気持ち!」
「中道の彼女貧乳だからなぁ…」
「え?オメー見たことあんの?コイツの彼女」
「おー。工藤がいなかった時みんなでプール行ってな」
「アイツは貧乳ってより抉れてんだよ!」
「お前が惚れたくせに!」
「じゃなかったらあんな胸のない女とっくに別れてる!!」
そう叫ぶ中道。
…まぁ、なぁ?
俺も確かに挟ませたけど。
しかもよくわかんねぇうちに毎回それが恒例になってるし…!
「でもほーんといいよなぁ、名前ちゃん!」
「…名前が何?」
「お前よく考えてみろよ!あの童顔巨乳!誰得だ?ごちそうさまな体だよな?」
ごちそうさまって…。
「工藤、1枚でいいぞ」
「何が?」
「名前ちゃんにグラビアポーズさせってぇ!!脛蹴んじゃねぇよっ!!」
「悪ぃな、足組み替えたら当たっちまった」
「ふざけんなお前っ!ちょっと彼女が胸デケェからってなんなんだよっ!!1枚くらいいいじゃねーかよっ!!」
「よくねーだろ!…だいたい何絡んでんだよ!自分の女にグラビアポーズしてもらえばいいだろ!相沢、オメー彼女いただろ?」
「相沢くん、エッチ下手なんだもーん!…て、浮気されたらしいぞ」
うわぁ…。
それヒデェ…。
「じゃあ聞くけどお前ら自分にテクあるとでも言うのかよ!?」
「当たり前だろ!」
「…どっからくるんだ、中道の自信は…」
「キミたちとはキャリアが違うんだよ!」
「…なぁにがキャリアだ。そう思ってんのオメーだけで大したことねぇんじゃねーの?」
「言ったな?じゃあ工藤、お前は女イカせた時あるか?」
「え?」
「名前ちゃん!イカせてんのかって聞いてんの!」
「…ま、まぁ、なぁ?」
と言うものの、はっきり言って自信がない。
初めての時のような痛がり方はさすがにもうしねぇけどさ。
正直なところコイツも気持ちいいのか?とは、思ったり思わなかったり…。
「なぁなぁ、女がイクってどんな感じ?」
「食いつくな、エッチが下手な相沢くん」
「ウルセェ!…で?どんな?」
「どんな、ってすぐわかるぜ?なぁ、工藤?」
「え?あ、ああ…」
「わかるってなんで?」
「よがり方が全っ然違うから!」
とりあえずその場は話を合わせて解散したが…。
…普段とは違う喘ぎ方?
俺そんなん思ったことねーんだけど!
…てことは何か?
名前はイッたことないってことか?
え、あれだけヤってて1回もなし!?
は!?俺もしかして自己満オナニー野郎とか言う!?
…マジかよ!
「ん…くすぐったい…」
いつものようにヤって、いつものようにベットでジャレてる時。
名前は俺が顔や髪を撫でると目を細めて笑う。
…ほんっと、猫みてぇな奴!
「名前オメーさぁ、」
「んー?」
名前の黒髪を掬いながら話かけると、くすくす笑いながら返事した。
「1度聞いておこうと思ったんだけど、」
「なにー?」
「…オメー、イけてっか?」
目を細めてくすくす笑ってた名前の顔色が明らかに変わった。
「…イケてねぇんだな?」
「…………ほ、ほら!私初めてだったし!」
「それ大分前の話だよな?初めてヤってからどのくらい経ったと思ってんだ」
「で、でも私そんなだって工藤くんとしかこんなことしないからわかんないしっ!」
俺以外としてたら相手の男マジで蹴り殺すぞ、おい。
「じゃあ聞き方変える」
「う、うん?」
「オメー気持ち良いって感じてるか?」
名前が明らかに困った顔をしてるのがわかった。
「で、でも痛くなくなったからきっとそのうち…!」
「…気持ち良いわけじゃねーんだな?」
俺の言葉に名前の顔色がさっきとは違う意味で変わっていった。
「ち、違うよ!き、気持ち良いよりまだちょっとくすぐったい方が大きいだけでっ!」
「でも気持ち良いわけじゃねーのは確かだろ?」
ってことは俺は今まで自分1人気持ちよくなってたわけか?
−相沢くん、エッチ下手なんだもーん、て浮気されたらしいぜ−
…コイツに限ってないとは思うが、工藤くんエッチ下手なんだもーんなんて理由で他にフラフラされたら…!
−あの童顔巨乳だぜ?何させるよ?挟ませるよな?−
冗談じゃねぇっ!!
んなことさせ
「ご、ごめんね…」
「へ?」
俺が思いを巡らせてる最中、名前は名前で何か思うことがあったらしく。
それまで寝転んでいたのにいきなり起き上がり、謝られた。
「ご、ごめんなさい…」
しかもコイツなんか泣きそうになってねぇ…?
「何謝ってんだよ?」
「わ、私がおかしいんだよね!?」
「は?」
「ふ、普通は気持ちいいんだよね?私不感症なのかな?で、でも痛いとかはほんと無くなったから、き、きっとそのうちっ!!」
一瞬何言ってんのかわからなかった。
今の名前の言葉を理解したら、なんかすげぇ、申し訳なくなった。
だってそうだろ?
コイツの中で俺が下手って言う選択肢はなく、ずっと自分のせいだって思ってたってことなんだから。
「わ、私は別にそんな工藤くんにぎ、ぎゅっ、てされたり?ち、ちゅう、とか?されるだけですごい嬉しいし!」
「…」
「だ、だから別に気持ち良いとかは二の次って言うか、そりゃあ気持ち良い方がいいのかもしれないけど私自身別にそんな工藤くんと一緒にいることが大事であってそこは重要じゃなかったって言うか、」
「…」
「だ、だから別に今のままでもいいんだけど、く、工藤くんが嫌なら練習するし!」
…どういう練習する気だ?
半泣きになりながらワタワタと話す名前にさすがにそこはつっこまなかった。
名前のそんな姿を見てたら、あ、それ俺のせいなんだ、なんて言えるはずもなく。
だからってそのまま放置できる性格でもなく。
ドサッ
「いいぜ」
「え?」
「オメーがどうやったら感じるのか、じっくり調べてやるよ」
俺の探求心に火がつき、ハーフタイム終了。
試合再開のホイッスルが頭の中で鳴り響いた。
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bkm