キミのおこした奇跡


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広がる不安


闇の猫男爵


「はぁ…」


本日土曜日。
部活も終わり、1人で喫茶店に来ています。
ちょっとボロッちぃけど、美味しいんだって!って、蘭とマシンガン園子のオススメ喫茶店。
中学生が1人で来る雰囲気ではないけど、てゆうか中学生が来るような雰囲気じゃない気もするけど…。
ス○バやマ○クとかと違って静かで落ち着ける場所だ。
…戸籍について悶々とした日を送っている。
区役所も学校があって行けないっていうか、そもそも区役所の場所わかんないし…。


「…本でも読も…」


これ父さんの書いたヤツの中でも簡単なヤツだから、って工藤くんから借りた工藤優作著推理小説をカバンの中から取り出す。
わけわかんない時はいっそ現実逃避がいい。
そう考えた私は、本の世界に逃げることにした。
オレンジジュースの入ったグラスを手前に持ってきて、本を読み出す。
途中、ストローを口に含みオレンジジュースを飲みながら。
…。
……。
………。


ぶくぶくぶくぶくぶくー


思わず口に含んでいたストローに息を吐き、オレンジジュースを気泡だらけにしてしまった。


「なにやら難しそうな顔をしていますが、その本には何が書かれているんですか?」
「あ、ただの推理小説です」
「ほぅ。ただの推理小説に何故そんな難しい顔を?」
「コレ友人のお父さんが書いたものなんですけど、それがちょっと…」
「…ちょっとおもしろくない?」
「あ、いえ、そうじゃなくて…」
「なんです?」
「…難しい漢字が多くて…」
「ああ!どれが読めないのかな?」
「あ、はい、ええっと、この字なんですけど…」
「どれ…、ああ、これは咀嚼(そしゃく)と言ってね、言葉や文章の意味や内容をよく考えて理解することを指すんですよ」
「ああっ!なるほど!そしゃくって言うんですね!」


意味まで教えてもらちゃった!
ああ、そういう意味だって考えると詰まってたところから話が進む!


「その小説はどうですか?」
「うーーーーーん…」
「…そんなに悩むようなものなのかな?」
「いえ、そうじゃなくて…。たぶんおもしろいんだと思うけど…。簡単だって言われたのに難しい漢字多くて途中で止まってばかりで最後まで読めなそう…」
「ああ…。確かに小学生には少し難しいかな?」
「私小学生じゃ」


それまでカウンターで本を見て座っていたんだけど、ちょっと頭に来たから隣の席で話しかけてきた人を睨みつけてやった。
ら、


「うん?どうかしましたか?」


この顔っ!!
まさかの工藤優作本人っ!
え!?
私今すっごい失礼なこと言わなかった!?
いやでも私も失礼なこと言われたよね!?


「何かな?」
「…私小学生じゃありません」
「え?」


チラッと、さっき見た著者近影を見る。
…間違いない。
ほんとに、本人だ…。


「私、息子さんと同級生です」
「おや、こんなに可愛いお嬢さんがうちの愚息をご存知とは。アイツも隅におけない」


優作さんは実に優雅にコーヒーを口に含んだ。


「でもそうか。女性の年齢を間違えるとは私もまだまだ…。いや、申し訳なかった」
「あ、いえ、よく間違えられるんで…」
「良かったら名前を教えていただけませんか、可愛いお嬢さん?」
「あ、はい。芳賀あおい、です」
「え?」
「え?」
「…そうか、君があおいくん…」
「…知ってるんです、か?」
「ああ、君の噂はかねがね。うちの愚息が随分と世話になってるようで感謝しているよ」
「…はあ」


工藤くんが話したのかな?
でも工藤くんのことだから「俺が世話してやってんだ!」って言ってそうだけど。


「でもまさかこんなところで噂のあおいくんに会えるとはね!逃げてきた甲斐があったよ」
「に、逃げてきた?」


え?誰から?


「ああ、気にしないでくれ。いつものことだから」


…売れっ子になるといつも何かから逃げなきゃいけないのかな?
名前が売れるって大変なんだ…。


「それで?」
「はい?」
「その本、難しいと言うわりには随分熱心に読んでるね」
「…だって借りた手前読まないと怒られるし」
「怒られる?誰に?」
「…工藤くんに、です、けど」
「…こんな可愛いお嬢さんを怒るとは、帰ったら説教だな」


うん、それは大賛成です。
でも最近チョップされることがなくなったからまだいいんだけど。
いや、この間有希子さんの前でチョップされたな…。
喫茶店での思わぬ出会いは、意外と花が咲きそのまま優作さんと話込むことになった。

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bkm

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