キミのおこした奇跡


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広がる不安


親猫、現る


もうほとんど勝平になってきた工藤くんと、なんら変わらない日常はあっという間に過ぎて行き。
気がつけば冬。
もう少しで師走、って時。
こっち来て初めてのクリスマスだなぁ、とか。
初めてのクリスマスだから初クリ?とか。
そんなこと考えてる頃だった。


「オメー年末年始どーすんの?」
「どーすんのって?」
「予定。あんのかって聞いてんだよ」


相変わらずな部活帰りに、工藤くんが珍しく予定を聞いてきた。


「うーん、とね。大晦日は紅白にアース・レディースが出るから見なきゃでしょ!年始は4夜連続探偵左文字スペシャルを見て推理力をあげるのっ!」


なんて行事が目白押し!


「俺終業式終わったらロス行くんだけどさ、」
「…それ何自慢?」


年末年始にロスァンジェルスですって!
夏はハワイで冬はロス!
にゃんこは何?
何自慢をしたいの?


「行くか?」


ああ、金持ち自慢したいのか。


「オメーも一緒に」
「…………はっ!?」


えっ!?
今私、海外旅行に誘われた!?


「前に親にオメーの話したら、この間電話で年末年始に呼んだらどーかって言われてさ」


工藤くんの親!
ってことはあの小難しい小説を書いた工藤優作と、今夕方の再放送で坂本乙女になってる工藤有希子!
それはぜひ会いたい!!


「航空券もうちが出すし、泊まるとこはロスの俺んちだから金かかんねーしな」
「い、いいの!?」
「あー、別にいーぜ。オメーが嫌じゃなかったら」
「行きたい!!」


人生初の海外旅行がまさかのロスァンジェルス!!
あ、でも…


「私パスポートないや…」
「今から申請すりゃ余裕で間に合うから大丈夫だって」
「…いや、そうじゃなくて」


パスポートって確か、申請には戸籍が必要なんじゃなかったっけ?
…私、この世界に戸籍なんてあるの?


「なに?なんかあんのか?」
「あ、ううん、別に…」


工藤くんが怪訝な顔してる。
ああ、一瞬で浮かれた気分が地に落ちた。
戸籍のことなんて、考えたことなかった。
…私、戸籍あるのかな?


「まぁ別にすぐ答え出せってわけじゃねーし、行きたくなったら言えよ」
「…わかった」
「あ、でも行くならパスポート申請に2週間は見とけよ?」


その後は工藤くんがなんか喋ってたけど、耳を掠めて抜けていく。
…戸籍あるのかな?
てゆうか戸籍って、けっこー大事な問題じゃないの?
なんか前に無戸籍についてすっごいニュースになってた時、お父さんとお母さんが話してた気がする…。
一気に不安が押し寄せて来た私は、工藤くんが話すことに適当に相づちを打ちながら、工藤家の門をくぐった。


「今日夕飯なんだっけ?」
「え?あ、うん、今日はカレー」
「あー、そういやこの前のカレー」
「新一覚悟っ!!」


工藤くんが玄関扉を開けた。
ら、聞こえた私の声でも工藤くんの声でもない声。
その声にサッと工藤くんが身を引いた。
瞬間、私の顔に水がかかった…。


「…あ、あれ?あなた誰?」
「もっとまともな再会はできねぇのかよ…」
「新一!良かったいたのね!知らない子に水鉄砲当てちゃったわ!」


工藤家の玄関扉を開けたら何故か、水鉄砲で顔を狙われました…。


「…とりあえずタオル出してやって」
「ああ、はい。ごめんなさいね、新一と間違えちゃって…」
「いえ…」


かなり豪快に水を掛けられ、差し出されたタオルで顔を拭く。
タオルから顔をあげると、驚き、というか、やっぱり、というか…。
ものすごい綺麗な女の人が立っていた。


「…俺の母さん。で、コイツが前言ってた芳賀あおい」
「ああ!あなたが噂のあおいちゃん!ほんとちっちゃい子なのね!」


水鉄砲で私の顔を狙った、あり得ないくらい綺麗な女の人は、工藤くんのお母さん。
昨日テレビで出た坂本乙女、いや、工藤有希子その人だった。


「初めましてあおいちゃん!いっつも新ちゃんがお世話になってます!」
「俺が世話してやってんだよ」
「またまたぁ!新ちゃんてばすーぐそういうひねくれたこと言って!」


…私この人昨日見た!
「竜馬いかんぜよ」みたいなこと言ってたっ!
まさか画面から本人が出てくるとはっ!
な、何か言わなきゃ!
きちんと挨拶しなきゃっ!


「あ、あのっ!」
「うん?なぁに、あおいちゃん?」
「ふ、フツツカ者ですがよろしくお願いしますっ!!」
「「…」」


ああっ!
こんな綺麗な人を生で見たことないからすごい緊張し


「痛いなっ!なにすぶはっ!」
「ちょっと新一!女の子に手をあげるなんてどういうつもりなの!?」
「どーもこーもねぇだろっ!明らかに今の挨拶おかしいじゃねーかっ!!」
「あら可愛いくていいじゃない!」
「よかねーよっ!!」


ぎゃーぎゃーと有希子さんと工藤くんが言い争ってるんだけど。
工藤くんにどつかれた私を有希子さんが庇うように抱き締めていて。
有希子さんて背高い上に、今ヒール履いてるのかな?
現在私は有希子さんのナイスなボデーの1番柔らかい部分に顔を埋めております…。
く、苦しい…。
この後しばらく続く母子の口論を、私は元女優の胸の谷間で聞いていた。

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bkm

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