キミのおこした奇跡


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はじまりの出逢い


最初の出逢い


例えここが夢だとしても、まず今自分がどこにいるのか把握したい。
そう思い携帯の入っている制服のポケットに手を当てた。
でも、携帯がいつもあるはずの場所にない。
身体中をパンパン叩いて確かめるもそれらしい固さのものはなく、周りを見渡しても携帯はおろかカバンすらない。
知らない場所に正に、この身1つで投げ出されてしまったんだ。
愕然と、立ち尽くしながら不安と恐怖が頭を駆け巡った時。
無意識にポケットに手を入れたら、指先に何かが当たった。
取り出すとスカイブルーの小さなノートが出てきた。
もちろん、こんなもの私は身につけていた覚えがない。
困惑しながらノートの表紙をめくった。


「これ、って…」


思わず零れた独り言。
そのノートは子供のいたずらのような、不恰好な文字で文章が書かれていた。
その文字のせいで少し読みにくいけど平たく言うなら、ハウツー本のような内容。
この世界での私の立場、住む場所などが詳細に書かれていた。
どうやらこの世界で私の両親は亡くなったことになっている、らしい。
で、親戚の家を転々としていたが遠縁に当たる人が引き取ってくれることになった。
でもその人は転勤になったためこちらにはいなく、その人が使っていた部屋を1人で使って学校に通うことになる。
…といった内容だった。
会ったことない人が後見人てどうなんだろうなと思いつつも、先を読み進めた。
私には両親の遺産がありお金には困らない、らしい。
住む場所の住所も書いてあるけど、本当にこの地名があるのか不安がよぎった。
さらに読み進めると私が通う学校についても触れられていた。


「…えっ?帝丹?しかも中学校??」


あまりの驚きにまた声に出してしまった。
私は今年で17歳。
そして今日は確か5月20日だったハズなのに、こちらでは現在6月。
しかも中1という微妙な若返りを果たしている…。
…私、受験かなり頑張ったんですが…。
家庭の事情で転校してきたということになるらしい、転校先の名は帝丹中学校。
今が何日かまではわからないけど、転校初日は6月29日。
そこまで読んで頭を抱えた。
このノートはたぶん、あの声の主が用意してくれたもの。
でもなんでキッドのいる学校じゃないの?
いやそもそもなんで中学生?
コナンて確か高2と小学生がメイン…。
誰もいないじゃん中学生…。
正直な話、コナンよりもまじっく快斗の方が好きだったし、帝丹の人よりも平次や白馬くんが好きだった。
新一は主人公だけど、蘭が好きなのね、はいはい、って感じであまり思い入れがなかった。
まぁ…。
メイン舞台になる場所だし。
全く知らないわけじゃない、けど…。
帝丹…。
聞けばきっと、ああ、この人も帝丹だったんだ!
と思うかもしれないけど、今の私には新一、蘭、園子と少年探偵団くらいしか思い出せなかった。
う〜ん、と考えこんでみるものの、現状打破の解決策など出るはずもなく。
ノートに一通り目を通してもなす術のない私はとりあえずここに書かれているマンションに向かってみようと思った。
ホントに存在するのかも怪しいけど。
いやでも、この地名、覚えがないこともない、けど…。
でもそれは本当に、私の元いた街にはないところだし…。
だけど今の私には他に行くあてもなく。
かといっていつまでもここにいるわけにもいかず。
明るいうちに寝泊まりすることになるマンションを確認したかった。
そのためにはまず、誰かに道を聞かないといけない。
目の前に見える公園のような場所に足を向ける。
さっきほどまで子供たちの声が聞こえていた気がしたけど、人影はいつの間にかなくなり、辺りは傾きかけた日差しに包まれ静かになっていた。
耳に響くのは蝉の声だけ。
周囲を見渡すとここはどうやらかなり大きい公園で、子供が喜びそうな遊具がいくつかあった。
目を凝らすとその遊具の奥の方にフェンスで囲われている空間が見えた。
なんの根拠もないけど、何故か直感的にその空間に誰かがいる気がして、人通りの多いところで道を教えてくれる人を探さないといけないという思いとは裏腹に、自然と足がそちらに向いていた。
近づくにつれさっきの場所からだと見えなかった位置で、誰かが壁に向かってサッカーボールを蹴っている姿が見えた。
ボールを蹴る。
壁に当たる。
跳ね返ったボールをまた蹴る。
その行為をただただ繰り返していた。
徐々に近づいてみたら、たぶん、年の近い男の子。
サッカーなんて、観戦オンリーだけど。
そんな私でもその子のボール裁きは、ひどく滑らかに感じた。
決まった的があるわけいじゃないけど、彼の蹴りだすボールが壁を通るまでの間は、蝉の声すら聞こえなくなるほどの時間だった。
フェンス越しに何回か見ていたとき彼がそれまでとは違う場所に的を定めた。
放ったボールが近くにあった空き缶に見事に当たり、壁にぶつかりまた正確に彼の足元に帰ってきたのを見て、思わず拍手をしていた自分がいた。
その音に気づいて彼が振り返る。


「ナイッシュー!」


目が合った彼にそう言うと、照れたように少しはにかみながらも笑顔を返してくれた。
この世界に来て初めて出会った人物は、笑顔の可愛い男の子だった。

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bkm

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