■青い瞳のにゃんこ
「あの!練習中すみません!ちょっと聞きたいことがあるんですがいいですか?」
はにかんだ彼の笑顔があまりに可愛らしくて邪気を感じられなかった私は、そのままこの人に尋ねてみることにした。
私が声をかけると彼はゆっくりと近づいてきた。
可愛いっ!!と叫びださなかったことが奇跡なくらい、近づいてきた彼の可愛らしさに驚いた。
さっきまでサッカーボールを自在に操っていたようには見えない。
気持ち長めの前髪から覗く大きな青い瞳と長いまつ毛。
半袖Tシャツからひょろりと伸びる白く長い腕。
背も私とさほど変わらない。
青い瞳の可愛いにゃんこ。
それが彼への第一印象だった。
「聞きてーことって?」
首を傾げながら大きな瞳で聞いてくる目の前の可愛すぎるにゃんこに軽く悶えた。
「あ、あの、ここは、どこですか?」
「…は?」
大きい目をぱちぱちと何度か瞬かせ、こちらを見ていた。
言った後に、自分がものすごく怪しい発言をした気がして慌てて言葉を付け加えた。
「あ、スミマセン!あの、私、こっちにきたばかりで、それで道に迷っちゃって…。帰り道がわからないから教えてもらいたいんだけど…」
「あー、そういうこと。どこまで行きてぇの?」
あわあわと話す私に対して青い瞳のにゃんこはTシャツで汗を拭いながら随分と爽やかな笑顔を向けてくれた。
「あ、はい。住所はええっと米花町…」
ノートで確認しながら尋ねる私を、青い瞳のにゃんこはジーっと見つめていた。
な、なんか品定めされてるように感じる…。
「その住所なら知ってる。うちまでの通り道だし」
青い瞳のにゃんこの助けでなんとかマンションにたどり着けそうな私は、小さく安堵の息を吐いた。
「あー、でもどうすっかな」
困ったように呟く青い瞳のにゃんこ。
私と同じくらいの身長の彼は右手で顎を触りながら、何かを考え始めていた。
「ここからだと少し小道に入っからわかりにくいと思うんだよな…」
「はあ…」
わかりにくい、と言われてもそこに行くしかない私はなんとも情けない返事をした。
「んー…、じゃあ、オメーにまだ時間があんならしばらく待っててくんねぇ?練習終わってからでいいなら送ってくし」
見ず知らずの人に家まで送ってもらうというのはどうなんだろうとも思ったけど、何分この人物は人畜無害そうで青い瞳が印象的な可愛いにゃんこ。
お言葉に、甘えることにした。
「じゃ、中入って待ってて」
そういうとにゃんこは練習に戻って行こうとした。
「あ、あの!」
彼は声をかけられたことできょとんと振り向いた。
…この子、顔立ちがはっきりしてて、やっぱり可愛い。
成長したらイケメンになりそうな人だなぁ、なんて思いつつ続けた。
「送ってもらうだけじゃ悪いから、何か手伝います!球拾いとか、パスはあんまりうまくないけど…、何か手伝えることない、かな?」
そういうとにゃんこはまた右手で顎に触れ考えるような仕草をした。
…この子の癖かな?
「…じゃあ、そこに立ってもらってボールこっちに出してくんねぇ?」
にゃんこは自分で決めたシュートやドリブル練習をしているそうだ。
今日は部活がお休みだからここで自主練してたらしい。
可愛いだけじゃなくやる気のある少年。
…こんな弟ほしかった、なんて私のヘロヘロなボールを上手く壁に蹴り飛ばすにゃんこを眺めた。
にゃんこが決めたシュート本数残り1本。
「ラスト!」
私がボールを出す。
彼が正確に自分の足元にボールを持っていく。
ボールが蹴り上げられ一瞬時間が止まる。
ガッと壁に当たった衝撃音の直後、ボールがにゃんこの足元に帰ってくる。
「ナイッシュー!お疲れさまでした」
Tシャツで汗を拭うにゃんこの元に駆け寄る。
一つ息を吐いたにゃんこが爽やかな笑顔で迎えてくれた。
「さんきゅ。つきあわせて悪ぃな」
こういうひたすら繰り返すだけの練習ってそれはそれは疲れるだろうけど、このにゃんこは実に爽やかに笑っていた。
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bkm