キミのおこした奇跡


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夏休みの予定


専属家庭教師


「食べる時はご飯と一緒に口に入れてください」
「はあ?今度はなんだ?」
「塩加減間違えました…」


工藤くんちでカップラの誓いを立てた日の翌日。
学校に行ったら、また新しい噂で持ちきりだった。
なんでも工藤くんがサッカー部の仲間と帰ることよりも私を追っかけて走り去って行ったんだとか。
いやいや、蘭にならともかく、にゃんこがわざわざ走ってまで私を追いかけてこないだろう。
なんて思ったけど、にゃんこ自体が噂のせいで私に怒ってくることもなくなったし、どうでもいいかって放置することにした。


「…オメーこれ何作ったって?」
「ゴーヤチャンプルです」


そして、あの涙を工藤くんがどうとったのかわからないけど…。
結局あれから毎日工藤くんと一緒に帰って、夕飯を一緒にしている。
…工藤くんが不憫に思えて流した涙だったんだけど、にゃんこはいろいろ考えて何か勘違いしてる気もする。
でもそこもあえてスルーすることにした。
だってやっぱり私自身、1人で食べるより例えぼろくそに貶す人でも一緒の方がいい。


「どこらへんがゴーヤチャンプルなんだよ?」
「全体的にゴーヤチャンプルです」
「オメーこれ食ったか?」
「だから塩加減間違えたって言ってるじゃん!」
「間違えたって量じゃねーだろ!?病気になんだろっ!!!ゴーヤの味なんかしねーじゃねーかよ!塩だろ、これ!!オメー何したんだよっ!」
「…だ、って…」
「あん?」
「…塩もみするとゴーヤの苦味が取れるって書いてあったから」
「書いてあったからなんだよ?」
「塩もみした」
「…で?」
「したんだけど、」
「なんだよ?」
「…その塩を洗い流すの忘れてそのままフライパンに入れました…」
「…」
「…ごめんなさい」
「オメー寝ながら料理してんじゃねーだろうな?」


いや、もしかしたらこんなに貶されるなら1人の方がいいかもしれない。
最近そう思い始めた。


「これでも真剣なんです」
「全く真剣さが感じられねぇけどな」
「…」
「ほら、貸せ」
「え?」
「え?じゃねーよ。失敗作食ってやるって言ってんだそれ寄越せ」
「…工藤くん」
「あ?」
「腎臓悪くなっても私のせいにしないでね」
「…オメーとりあえず水持って来い」
「わかった」


貶されるんだけどさ。
盛大に文句言われるんだけどさ。
それでも工藤くんが私の作ったものを残したことはない。
今も、水を飲んでるのか塩を食べてるのかわからない勢いでゴーヤチャンプルを食べていた。
こっちに来て早2週間。
蘭じゃないけど、もう少しにゃんこに背があったら好きになってたのかもしれないなんて、思い始めた。
…いや、背が高くてもあの口の悪さでマイナスだな。


「あー、メシ食ったのか塩食ったのかわっかんねー夕飯だった」
「…お粗末さまでした」
「ほんっと、粗末なもん出すんじゃねーよ」
「…」


本日何杯目かの水のおかわりをしたにゃんこ。
それでもあの塩まみれのゴーヤを完食したのがすごい。
私なら吐き出す。


「そーいやさ、」
「うん?」
「オメーどうすんの?夏休み」


そう。
転校早々期末があって、恐怖すぎてその時の記憶がないくらい恐怖だったんだけど。
だってまさか中1のテストがあんなに難しいとは思わなかった!
さすが私立!!
いや、それはどうでもいいんだけど。
期末テストが終わって、7月も中旬にさしかかるってことは、夏休み目前なわけで。


「どーするも何も部活?」
「弓道部毎日部活あんのか?」
「うーん…あるような、ないような」
「なんだそれ」
「あ、うち基本自由参加なんだって」
「…来年行けんのかよ、全中」


それは私的に無理かもしれない…。
なんて、また貶される材料をみすみす提供する気はなかった。


「工藤くんは?」
「あー…」
「うん?」
「俺は、さ、」
「うん」
「前半部活やってて、後半は、ちょっと、」
「出かけるの?」
「あー…、親と、さ、」
「うん?」
「た、ぶん、2週間くらいか?ハワイにちょっと」
「へぇぇ、お金持ちは違うね!」


いいなぁ、夏休みにハワイ!
私海外旅行したこともないんだけど。
工藤くんはいっぱい海外行ってんだろうなぁ…。
親とハワイかぁ…。
ん?親?


「って、工藤優作!?」
「え?父さん知ってんのか?」
「え!?あ、う、ん、ほら!クラスメートが工藤くんちのお父さん、すっごい有名な小説家だ、って…」
「ああ…」


あ、危ない危ない。
一瞬でテンションメーター振り切れて、思わず叫んじゃったけど…。
よくよく考えると人の親を呼び捨てるってどうなの?


「じゃあオメーがファンとか言うわけじゃねぇんだな」
「あー…ファン、という、か、」
「うん?」
「闇の男爵、どんなのか興味あって買ったんだ、実は」
「は?マジで?…わざわざ買わなくてもうちにあっから貸すぜ?」
「いや、うん、買ったんだけどさ、」
「おー」
「買ったんだけど、難しい漢字が多くて読むの諦めた…」
「…」
「…」
「…芳賀」
「はい」
「オメー一番得意な教科何?」
「…音楽?」
「だよなー、やっぱり」


どういうことだろう、やっぱりって…。
一応、前の世界で中学の時は吹奏楽部だったから、音楽は、そこそこ、できる、はず。
…たぶん。
でも、ここ数日私の「できる」と蘭や工藤くんの「できる」のレベルが違いすぎることに気がついて自信ないけど。


「蘭から聞いたけど」
「うん?」
「オメー補習なんだって?」


…そんな情報流さないでっ!


「て、転校してきたばっかりだったから!」
「いやそれだけじゃねーだろ」
「…」


否定できないっ!
だって、どうせ中1レベルだからって、全く勉強しなかったんだもん!


「オメーさぁ、」
「うん?」
「今度教科書持って来い」
「は?」
「メシ食った後勉強見てやる」
「…え、見返りは何?」
「…人が食うまともな料理」


それは今がまともじゃないみたいじゃんっ!
今日はたまたま塩を洗い流し忘れたけどさ!
でも塩さえ流してたらきっとまともにっ!


「どっちにしろ俺も予習できてちょうどいーし。持って来たら教えてやるよ」
「…でも、」
「あ?」
「工藤くんがSすぎて勉強にならない気がす痛い痛い痛いっ!!」
「…人の好意に対して随分な言いようじゃねーか」
「痛い痛い痛いっ!!ごめんなさいっ!見てください!!お願いしますっ!!!」
「…わかればいーんだよ」


にゃんこめっ!!
思いっきり手首握りしめてきやがったっ!!
ちょっと手が大きいからっていい気になってっ!!
このにゃんこめっ!!


「とにかく」
「なに!?」
「…」
「…ごめんなさい」
「とにかく、夏休みの課題も、出たら持って来い。ハワイ行く前に片づくように見てやっから」
「え!?夏休みの宿題写させてくれるの!?」
「…オメーがやんだよっ!!」
「痛い痛い痛いっ!!!」


睨んだと思ったら、両手でコメカミぐりぐりしてきやがったっ!
にゃんこめっ!!
ちょっと成績いいからって今に見てろっ!!
夏休みまであと少し。
夏が終わる頃には、料理も勉強もデキル女になってやるっ!!

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bkm

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