キミのおこした奇跡


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新しい日常の始まり


貢物、献上


「…てゆうか、サッカー部の部室って、どこ?」


張り切って実習室を出た。
のはいいけど、サッカー部の部室なんて私知らない…。
とりあえずグラウンドに行けばいいのかな?


「って、サッカー部もういないし…」


えー。
せっかくレモンパイ、ラッピングまでしたのに!
なんか悔しいから電話しよ。
何回かコールした後で電話が繋がった。


「なんの用だ?」
「…もっと爽やかに出てください」
「用がねーなら切るぞ」
「ちょっと待ってよ!」
「なんだよ?」
「レモンパイ!作ったから持って行こうかと」
「…オメーまさか1人で作ったんじゃ」
「違うよ!さっき家庭科部で作ったの!」
「へー。今日もう作ったのか」
「そうそう。工藤くん作ったら持ってこいって言ったから電話したの」
「あー…、じゃあこれから着替えるから正門前で待ってろ」
「正門前ね?わかった」


ピッと電話を切る。
とりあえず、このラッピングが無駄にならないようで良かった。


「あー!あおいっ!今帰り?」
「あ、園子!うん、そうだよ」
「じゃあ途中まで一緒に帰る?蘭から聞いたけどあおいの家、米花町なんでしょ?」
「あー…、ごめん、人待ってるから」
「へ?誰?」
「工藤くん」
「…あ!こりゃ失礼!気が利かなくて!」
「そんなんじゃないって!」
「手に持ってるそれ何?」
「あ、これ?私家庭科部に入ったんだけど、さっきレモンパイ作ってさ。工藤くんが作ったの持って来いって言ってたから渡そうと思って」
「へぇぇぇぇ、あの工藤くんがねぇぇ」
「…園子その顔キモい」
「失礼なヤツね!」


この時の私は、園子がモーセ工藤がわけた高速弾丸よりも早く、弾数の多い最新式のマシンガンだとは思いもしなかった。


「芳賀?」
「あ、工藤くん、早かったね」
「…園子がいんなら俺帰るし」
「やーだ!私は邪魔しないわよ!まぁ2人で楽しんで!」
「…オメーその顔キモいぞ」
「あんたまで失礼ね!!ほら!さっさと帰んな!」


シッシッと園子に手で払われ学校を後にした。


「で?レモンパイって?」
「あ、これこれ!」
「…わざわざラッピングしなくてもいーだろ」
「いやなんか今運動部でレモンパイが流行ってて、みんな運動部の人にやるから私も人にあげるって言ったらラッピングを薦められたよ?」
「ふぅん…。良かったなぁ、ここまでラッピングしてんのに、家で1人虚しく食べることにならないで」
「別にそれはそれでいいし」


ラッピング越しにくんくん匂いを嗅ごうとしている工藤くん。
…猫って嗅覚いいんだっけ?


「あー、じゃあコレ一緒に食うか?」
「うん?」
「俺んちの冷蔵庫いい加減食わねぇとやべぇ食材あるし、ついでにメシ食ってけば?」
「…そのメシは誰が作るんでしょうか?」
「オメー家庭科部なんだろ?」
「…」


あれだけ文句言ってた人間が入部初日の人間に夕飯作らせるってどういうこと?
いや、このにゃんこはこういうヤツだって知ってたけどさ。


「まぁオメーの好きだけどな」


とは言っても、私も時間だけはあるからな。


「親子丼リベンジする?」
「ヤメロ」
「…何食べるんですかね?」
「レモンパイに合う夕飯」
「はあ?どんな夕飯よ、それ!」
「俺は知らねぇよ。オメーが考えろよ」
「…工藤くんが食べるんでしょ?工藤くんが考えればいいじゃん!」
「俺は食う専門。出されたものに文句言わねぇし」


よく言うよ、あれだけ文句言ったくせに!


「ま、親子丼と言わずに、オメーが1番自信のあるヤツにしろ」
「…作ってもらうくせになんでそんなに偉そうなの?」
「失敗作を食べてやるからだ」
「失敗なんかしないしっ!」
「へー、じゃあ失敗したら明日から1週間朝晩俺の荷物持ちな」
「はあ!?なんで荷物持ち!?ガキじゃあるまいし!」
「失敗すんのが怖ぇんだろ?」
「しないから!」
「じゃあいいじゃねーか」
「…いいよっ!その代わり美味しく出来たら工藤くんが荷物持ちだからね!!」
「出来ねぇから安心しろ」


にゃんこめっ!!
今に見てろっ!!


「へー。なかなか美味そうな見た目じゃねぇか」
「でしょ!初レモンパイなのにこの出来!私天才!!」
「…」
「…そのバカを見るような目止めてくれないかな?」
「ああ、悪ぃ、バカを見るようなじゃなく、バカだと思って見てた」


このにゃんこめっ!
そのレモンパイを食べたらあまりの美味しさにびっくりするんだからっ!!


「…」
「…」
「…」
「…美味しい?」
「…テメー口開けろ」
「え?」
「その口開けろ」
「え?何?」
「オメーがこれ食ってみろっ!!」
「ちょ、むがっ!げほっ!酸っぱい!何コレ!!」
「どこがレモンパイだよ!!この酸っぱさただのレモンじゃねーかっ!!!」
「…おかしい、言われた通りにしたのに…」
「おかしいのはオメーの頭だっ!何をどうやったらここまで酸っぱいレモンパイを堂々と人に食わせられるんだっ!!オメーもう夕飯も作んなっ!週末試合があっから腹壊すわけにはいかねーんだよっ!」
「…やだな、フツーよりはちょっと酸っぱいけど、おなかは壊さないって!」
「ちょっとじゃねーじゃねぇか!!そういうことは自分で全部食ってから言えっ!!!」


結局、その日は工藤家で出前を取って食べることになった。
…レモンパイ、どこで間違えたんだろ?

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bkm

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