■ビーカーラーメン
「芳賀、ケータイ出せ」
「え?」
「博士来るまで時間あるし、メールの練習つきあってやるよ」
少し薄暗くてひんやりした駐車場に止めたビートルの前に来たら、それまで無言だった工藤くんに話しかけられた。
いやいやいやいや
「隣にいるならメールじゃなくてフツーに話そうよ」
「オメーがメール練習してぇって言ったんだろ?それにつきあってやるって言ってんだ。どこにいようがいーだろ別に」
いや良くないだろ。
隣にいるのにメールするってどんだけ不仲?
…まぁ慣れる練習につきあってくれるって言うならつきあってもらうけどさ。
とは言っても隣にいる人に何をメールすれば…。
「早くしろよ」
「わかってるよ」
じゃあまぁ練習、だから、と、
to :工藤新一
sub :私は
本文:芳賀あおいです。
「それくらい知ってんだけど」
「だからメールで返してよっ!!」
「へーへー」
from:工藤新一
sub :Re〉私は
本文:知ってる
「他に言うことないの?」
「メールで返せ」
「…」
to :工藤新一
sub :Re〉Re〉私は
本文:他に言うことないの?
from:工藤新一
sub :Re〉Re〉Re〉私は
本文:ない
to :工藤新一
sub :Re〉Re〉Re〉Re〉私は
本文:あのねー、コミュニケーションて言葉知らないの?工藤くん女の子苦手なんじゃなくて、女の子に対する接し方わかんないだけじゃないの(#`皿´)
from:工藤新一
sub :Re〉Re〉Re〉Re〉Re〉私は
本文:は?どこに女の子がいんだよ
to :工藤新一
sub :Re〉Re〉Re〉Re〉Re〉Re〉私
本文:ここ!!工藤くんの隣にいるでしょっ!?
from:工藤新一
sub :Re〉Re〉Re〉Re〉Re〉Re〉Re〉
本文:俺の隣にはチビしかいねー
「何をやっとるんじゃ?君たちは」
「「博士」」
「2人で随分と真剣に携帯弄っとったがなんかあったのか?」
「…暇潰しにメールにつきあってやっただけだよ」
「新一がか?」
「なんだよ」
「…いやいや、それであおいくん、新しい携帯は使いこなせそうかの?」
「はい!大丈夫そうです!」
博士は和むなぁ。
良い人オーラがにじみ出てる。
「せっかくここまで来たんじゃ。今日は何か食べて行くか?」
「博士の奢り?」
「…まだ発明料が入ってなくてのぉ」
「冗談だよ」
「あ、私!今日お世話になったんでご馳走します!」
「「は?」」
「大丈夫!さっき携帯買う前にお金下ろしたから持ち合わせあるし!」
「…いやいや、中学生に出してもらうわけには」
「だいたい持ち合わせって、オメーそんなに金あんのかよ?」
「それは大丈夫!親の遺産?保険金?がいっぱいあるから!」
「「…」」
でもあれで一生暮らしていけるとは思えないから、高校行ったらバイト生活することになるだろうけど。
私が違うこと考えていたら工藤くんが頭を掻きながら口を開いた。
「あー…、俺今日は博士のラーメンでいいや」
「お、おお!そうじゃの!あおいくんもどうじゃ?ワシのラーメンは絶品じゃぞ!」
「…でも」
「なに、遠慮はいらんよ。ラーメンだけは優作くん、ああ、新一の父親じゃがな、彼の舌を唸らせたからのぉ!」
「博士のラーメンはそこらへんの店より美味いんだぜ?」
「…じゃあいいですか?」
「決まりじゃな!じゃあ買い出しに行くかの」
そんな流れで初阿笠邸でラーメンをご馳走になることになった。
「はっ!?ラーメンって言ったら醤油だろ!?」
「何言ってるの!?味噌でしょ!?」
「醤油だっ!」
「味噌だよっ!」
「両方作るからそうカッカッするんじゃない」
こっちに来て初めて口にしたラーメンは、今まで食べたどのラーメンよりも美味しかった。
「あおいくんどうじゃ、ワシのラーメンは?」
「はい!ほんとに美味しいです!」
「ビーカーでラーメンを茹で始めた時からは想像できねー味だろ?」
それは、うん。ほんとに。
しかも巨大メスシリンダーでスープ作ってるし…。
この人、だから独身なんじゃ…。
「煩いのぉ。あれはラーメン専用ビーカーじゃからいいじゃろ」
「まぁ俺はうまけりゃなんでもいーけどな。博士のラーメンはマジでうめーもん」
「うん、ほんとに美味しいです」
「これで良かったらまたいつでも食べに来るんじゃぞ」
「はい!ありがとうございます!」
ケータイも買えて、美味しいラーメンも食べれて、幸せ!
明日も良いことありますように!
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bkm