■喧嘩するほど?
「あ!芳賀さん!」
「毛利さん」
「次移動なの?」
「うん、次美術なの」
「蘭、その子が例の転校生?」
「そうだよ芳賀あおいさん。芳賀さん、こっちが朝言ってた私の親友の鈴木園子」
生園子!
…園子、中1の時は前髪あったんだね。
「初めまして鈴木さん」
「あ、止めてくんない?」
「え?」
「鈴木、なんてそっこら中にゴロゴロいるから、園子って呼んで!」
「わかった、園子ね。じゃあ私もあおいでいいよ!」
「あ、じゃあ私も蘭て呼んでね」
「うん、蘭わかった」
なかなか順調な「友達」ポジションを滑り出した感じだ。
「で?」
「うん?何、園子?」
「お噂は聞いてますわよ、奥さん!」
「園子止めなよ…」
「何よー!蘭だって気になってるんでしょ!?」
「えっ!?う、う、ん…そりゃあちょっとは?」
「ほらみなさいよ!」
「…なんの話?」
「とぼけんじゃないわよ!工藤くんよ!工藤くん!」
「ああ、それ…」
「あんニャロめ、女に興味ないとか言っておきながらちゃっかり転校生に手出して!」
モーセ工藤がわけた人だかりは、あっという間に噂という名の高速弾丸に変わり学校中にあることないことばらまいたようだった。
弾丸は想像以上に数があったらしく、お昼過ぎた頃にはすでに否定するのがめんどくさくなってくる数だった。
いやでもここだけはきちんと否定してないとダメだよね?
「大丈夫、私工藤くんとなんでもないから!蘭、安心して!」
「え?私?」
蘭の手を握って真剣に説得したら、真剣に驚かれた。
「私好きな人いるし!」
「…え!?あおいの好きな人って新一じゃないの!?」
「全然違うよ!その人は工藤くんよりもカッコよくて、工藤くんよりも紳士で、工藤くんよりも」
「工藤くん工藤くんウルセェんだよっ!!」
ああ、また元凶がきたコレ…。
「安心しろ、俺もオメーなんか好きじゃねーよっ!!」
「ちょっと新一!」
「それは良かった、ほんとに」
「あおい…」
工藤くんは蘭が好きなんだからそれは当たり前なことだ。
でもあの顔で言われるとちょっと胸がチクッとする気がしなくもない…。
あの顔がきっと黒羽快斗にダブってしまうからだ。
今、黒羽快斗に「オメーなんか好きじゃねー」とか言われたら私立ち直れるかな?
…無理だな。
いくら楽観的な私でも、それ目的でここに来たのに、そんなこと言われたら立ち直れない。
「ほら新一謝って!!」
「あ?なんで俺が」
「工藤くんが心にもないこと言ったからあおいが落ち込んじゃったじゃない!!」
「え?私?…別に落ち込んでないよ?」
「ダメ!新一、ちゃんとあおいに謝って!新一が仲良くなった女の子なんてほんとに珍しいんだから、大事にしなきゃ!」
「いや俺は」
「謝んな、工藤くん!」
「謝って新一!!」
「…わ、悪ぃ…?」
「あ、うん、こちらこそ?」
ああ、良かった良かったと、蘭と園子がホッとしてるんだけど。
私の頭にはクエスチョンマークが飛んでいた。
今謝られる必要あった?
「つーかオメーさ、」
「うん?」
「俺に学校で話しかけんなよ?ウルセェことになっから」
だからあなたが今話しかけてきたんですよね?
このにゃんこ何?
おバカなの?
自分の5秒前の行動も忘れるくらいおバカなの?
「なーんかオメーと話すとうだうだ周りがウルセェ」
「その言葉をそっくりそのまま工藤くんにお返ししていいでしょうか?」
「は?なんで俺に言うんだよ。オメーが俺に話しかけなきゃ済む話だろ?」
「…じゃあ金輪際私に話しかけないでいただけますか?」
「オメーが喧しく工藤くん工藤くん連呼しなきゃ話かけねーよ」
このにゃんこめっ!!
可愛い顔してるくせになんだこの性格!!
顔が黒羽快斗じゃなきゃ殴ってたわ!!
「まぁ、そう言うことだから気をつけろ。それと、放課後教室まで行ってやっから忘れんじゃねーぞ」
「ああ、うん、わかった。待ってる」
「オメーらも早く教室戻んねぇと先生来るぞ」
そう言ってさっさと教室に戻っていく工藤くんの後ろ姿を見送る。
「ね、ねぇ蘭、あの2人今喧嘩してたんじゃないの?」
「よくわからないけど、丸く収まって一緒に帰るみたい?」
「あれが2人だけのコミュニケーションか…。喧嘩するほどってヤツね!」
何かをヒソヒソ話していた蘭と園子に別れを告げ午後の授業に向かった。
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bkm