キミのおこした奇跡


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初めての帰り道


カミングアウト


「てゆうかスーパーで何買うんだよ?」
「え?食材もろもろ?」


土手を抜けて住宅街に入る。
…私この道覚えなきゃなんだよな。
大丈夫かな…?


「食材って?」
「え?」
「親は?買って来いって言われたのか?」


−キミの両親は4年前に事故死したことになっている−


「あー…、いない?」
「は?いないって?海外行ってるとか?」


まぁ、そういう設定らしいし、いいか。


「うち両親とも事故っていないんだよね」
「…え?」


あのノートがどうして存在しているのか私にはわからないけど、ありがたいことにあのノートにあるように通帳には結構な額が振り込まれていたし、今日職員室で聞いた話では必要書類は全て後見人のサインがされていたようだった。
だからやっぱりこの世界での両親は探してもいないんだと思う。
逆にいたら驚きだ。
こういうことはいくら中学生でも、隠したところでバレるだろうし、正直にその設定を口にした。
特にこのにゃんこ、中途半端に隠し事しても見破りそうだし。


「いつ?」
「え?事故ったの?…4年前?」
「…オメーそれからどうやって暮らしてきたんだよ」
「ああ、うん、ありきたりだけど親戚の家を転々と」
「…」


それまで生意気そうな目でチビだなんだと言っていたにゃんこの瞳が、揺れた気がした。


「今は?あのマンションはどうしたんだ?」
「あれも親戚の家。その人転勤になってこっちにいなくてあの部屋空くから私が借りれることになったの」
「…」


嘘をつくと胸が痛むんだって、改めて知った。
にゃんこが、工藤くんが、すごく気まずそうに視線を泳がせていた。


「気にしないでね。私も気にしてないから」
「…おー…」


さっきとは違う感じに頭を掻きながら、工藤くんは何かを考えているように感じた。


「…オメー飯は?」
「は?」
「飯。1人なのか?」
「ああ、うん。そうなるね」


今度は顎に手をやり何かを考え出した。
このポーズはよくアニメでも見たよな…。
推理中とか、真剣に考え事してる時の工藤くんの癖なんだと思う。


「うちさー、」
「うん?」
「親が海外行ってて俺1人で暮らしてんだけど」


うん、知ってる、とは言わないけど。


「オメーが良かったら一緒に食うか?」
「…は?」


夕日に照らし出されたからかにゃんこの顔は、夕日のように赤かった。


「べ、別に毎日って言ってるわけじゃねーぞ?ただ、まぁ…誰かと食いたい時とか、あるじゃねぇか」


そうだよなぁ、と。
「あの」工藤新一でもやっぱり寂しいと感じるんだ…。
まだ中学1年生なんだし、当たり前だ。


「ありがと、工藤くん」
「おー」
「じゃあ今日早速夕飯一緒にする?」
「いいぜ。ま、どっちにしろ買出ししねぇとなんだろ?」


そうと決まれば、とスーパーで買い出し。
なんでも昨日テレビで見たとかで、親子丼が食べたいと言った工藤くん。
ああ、丼ものいいねぇ、と材料を買いこんだ。
どうせうちにお米やらも運ばないといけないからと、買い出した食材を持ってうちのマンションで食べることになった。
調理道具は全て揃ってるっぽかったし、なんとかなるだろう。


「…あり得ねぇ」
「それは工藤くんでしょ!?」
「オメー女だろっ!?なんでそんなに料理下手なんだよっ!!」
「工藤くんこそ人を夕飯に誘ったなら料理くらい出来るってフツー思うでしょ!!?」
「はあ!?俺が悪ぃのかよっ!?オメーちったー料理の勉強しろよっ!!」
「工藤くんも1人暮らしでしょ!!?料理覚えなよっ!!」


元の世界でお母さん任せだった私の料理の腕前は、トリップしたからと言ってうまくなるわけもなく。
工藤くんもろともそれは惨い親子丼となった。
まずは自炊できる術を学ばなければいけない。
この世界に来て3つ目の教訓が出来た。

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bkm

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