キミのおこした奇跡


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初めての帰り道


赦しを請う歌声


「だいたいなぁ!真っ直ぐ蹴るボールを真後ろの屋根の上に蹴り上げるなんてあり得ねぇだろっ!?」
「はい、スミマセン」
「ボール取りに行くのに何分かかってんだって監督に怒鳴られたんだぞっ!?」
「はい、スミマセン」
「スミマセンじゃねぇよっ!スミマセンじゃっ!!」


現在米花町の自宅へと帰宅するため土手を歩行中。
言いつけ通りにゃんこを待っていた私を待っていたのは、他ならぬにゃんこからの説教だったって言う…。
私やっぱり帰れば良かったな。


「あ、そんなことより工藤くん」
「そんなこと!?オメー俺の話聞いてんのかよっ!?」
「聞いてる聞いてる。私が悪かった。ごめんね。で、話は変わって、うちから1番近いスーパーってどこ?」
「…オメー最初と印象ちげぇ」
「それは工藤くんもでしょ?」
「俺はっ!」
「俺は?」
「…」
「何?」
「…迷子の小学生相手に優しくしてやろーと思っただけだ」


…は?


「小学生ーっ!?」
「オメーが中1に見えるヤツいねぇだろ!?」
「はっ!?自分の身長棚にあげて何言ってんの!」
「身長の話すんじゃねーよっ!だいたい俺はオメーより7センチもデケェんだっ!!」
「たかが7センチでしょ!?あっという間に追い越してやるわよっ!!」
「ふざけんじゃねーっ!オメーみてぇなチビに追い越されてたまるかっ!!」
「チビ!?チビって言った!?チビにチビなんて言われたくないしっ!!」
「俺はチビじゃねーーっ!!」


フンッ!と工藤くんから顔を背ける。
チッ、と工藤くんが盛大に舌打ちしたのが聞こえた。


―もしかして工藤くんの彼女!?―


冗談じゃない!
身長ごときでガタガタ言う器のちっさい男こっちから願い下げだ!
私には中1でみんなを全中に連れて行けちゃうようなオットコマエな黒羽快斗がいるんだからっ!


−Amazing grace how sweet the sound−


土手の向こうで、歌声が聞こえた。


−That saved a wretch like me−


このシーン、見覚えある。
私たちの視線の先で歌ってる、彼女。


−I once was lost, but now I am found−


遠目で、顔までははっきり見えない。
でも、まず間違いない。


−Was blind, but now I see−


秋庭、怜子…。


「Twas grace that taught my heart to fear」
「…オメー知ってんのか?コレ」
「Amazing Grace。有名な曲だよ。…黒人を拉致した奴隷商船に乗っていた白人が神に赦しを請うための歌」
「赦しを請う、ね…」


秋庭怜子の声はすごく伸びやかで、どこまでも透き通って響く。
本当に、赦しを請うているような、歌声だ。


「…いー歌だな」
「だね」
「あー…、芳賀オメー、スーパー行きてぇんだっけ?」
「ああ、うん。そうそう。うちの近所のスーパーどこか知ってる?」
「おー、連れてってやるよ」


頭をガシガシと掻いて工藤くんが歩き出す。
これが、彼女の歌声の力。
この人には、きっとまた会える。
遠ざかる、秋庭怜子の歌声と姿を目の端に捉え、工藤くんの後に続いた。

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bkm

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