後輩
3学期に入り、ここ立海大ではまもなく受験生たちが入学試験を受けに来る
今日は試験日の前日
明日は全面休校だから学校に入ることすらできないので、もちろんテニスの練習もできない
「いっぱい入ってくんのかな〜」
『テニス部に?』
「いっぱい入ってきて欲しいけどその分桜宮の仕事量が増えるから心配なんだよな」
丸井くんそんなこと気にかけてくれてたんだ...
『ううん、私は大丈夫だよ。みんなが健やかに練習できるように頑張るよ』
「あんま無理すんなよ?」
丸井くんはやっぱりみんなに優しいなぁ
そういうところに惹かれたんだよね
後輩ができた時、すごく面倒見がいいから好かれるんだろうな
丸井くんにはやっぱり笑っていてほしいな
「何だ?」
また無意識で丸井くんを凝視してしまっていた
『丸井くん、きっといい先輩になるだろうなって...』
「んなこと言ったら桜宮もだろぃ?心優しいマネージャーがいる部活だって知ったらわんさか入って来るって」
心優しい...!?
そんな言葉丸井くんのどこから出てくるの
『そんなことないよ...』
「そんなことあるって!だって俺、そんな桜宮だから_______」
何かを言いかけた丸井くん
そんな私だから_______何なんだろう....?
危なっかしいとかかな
そうだよね、私ただですら地味だし怖いとか何考えてるか分からないって思われやすいし...
「__________頼りにしてるんだぜ」
満面の笑みでそう言う丸井くん
私が丸井くんに憧れたのは
常に彼の周りに誰かがいて、そこにはたくさんの笑顔がある
そしてみんな彼を頼りにしている
体育祭でのアンカーも指名だったし、それくらいみんな丸井くんを信頼している
もちろん私もそのうちの1人なわけで
そんな憧れの丸井くんから“頼りにしてる”なんて言われたら
『.......すっごく嬉しいよ』
私も満面の笑みで答える
この間の理科の授業で教わった
月は太陽の光を借りて、夜空で輝いているんだって
丸井くんはみんなを優しく包み込んでくれて眩しいくらいの笑顔を向けてくれる
そんな明るい性格の丸井くんは太陽そのもの
そして私は、丸井くんの恩恵を受けてようやく私でいられる
丸井くんのおかげで私らしくいられるんだ
丸井くんが太陽なら私は月だ
「クラス離れたとしても仲良くしような?」
『うん!』
その日の放課後
1人で海沿いの歩道を歩いていた時
パコンと聞き慣れた音が聞こえた
その音を辿って行くと水色のウェアを着た男の子が錆びた造船を壁に見立ててテニスをしていた
「誰だ!」
何で見てるのバレちゃったんだろう
あとちょっと目つき鋭くて怖い...
『あの別に怪しい者ではないので...!』
「そーゆーヤツほど怪しいんだよ」
本当に怪しいヤツじゃないのに何でこの子は信じてくれないの...
『私は立海大附属中に通う1年なの!ただテニスしてる人を見るとある人を思い出すというか何と言うか...!』
「え、あんた立海生なの!?俺今度受験しに行くんだけど!」
受験?
『うちの学校受けにくるの?』
「つーか先輩にタメ口叩いてたんすね俺...すんませんした!」
いや別にそこは気にしてないんだけどね
どうやら彼は全国優勝したテニス部に入りたいそうだ
ここで自分がマネージャーしてるなんて言うのはおこがましいので黙っていた
「全国優勝した人たちと話したことあるんすか?」
『うん』
目をキラキラ輝かせる彼を見ているとまだまだ小学生なんだなと思う
好奇心に溢れたその顔はどこか丸井くんを思い出させる
「そういやテニスしてる人を見るとある人を思い出すって言ってましたけど誰なんすか?」
『丸井くん...丸井ブン太くん』
今まで丸井くんを下の名前で呼んだことないから何だかこそばゆいな
「丸いブタ?」
『違うよ、丸井ブン太くん』
「へぇ聞いたことないな」
やっぱり彼が知っているのは1年生ながら全国大会に出場した三強かな
「早く入学して俺がナンバーワンになってやる!」
『また君に会えるの楽しみにしてるね』
そう言って彼に手を振った
あ、名前聞くの忘れちゃった
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